赤の部屋

「赤の部屋」


主人公 小川 涼



これは、僕が社会人になり会社の社員寮に引っ越してきたときの話です。


「はい。これが部屋の鍵ね。荷物は部屋の中にあるのと、冷蔵庫に弁当だけいれといたから今日はそれで夕飯済ませといてください。」

管理人の男性から鍵を受け取り、さっそく部屋に向かう。

マンションのは築2年と、けっこう新しかった。僕の部屋は4階のすみから2番目の102号室らしいので、エレベーターで4階へ向かう。


「ただいま。」


誰もいない部屋にぼそりとつぶやくと、そこにはおしゃれな家具や4Kテレビが設置されていた。さすが電化製品メーカーだ。そこらへんは充実しているようだった。


「おかえりなさい。」


「疲れたでしょ。」


え?・・・


誰もいないはずの部屋に響く女性の声。一瞬、誰かいるのかとも思ったが、靴もなければ物音もなかった。


「気のせいだろうな。きっと疲れてるだけだ。」


その日は社内での新人歓迎パーティーがあり、少しアルコールも回っていたため、夕飯は食べずに寝ることにした。



「ん・・・もう8時かよ。まぁいっか。今日は土曜だし、もうちょっと寝てようかな」


寝返りを打った先に、見慣れない風景があった。


「この先立ち入り禁止。って、俺の部屋になんでこんなもの・・・」


白と黒を基調とした部屋に、ポツンと目立つ真っ赤な扉。


「まぁいいか。おっと、今日の朝9時に配信って予告してたんだった」


先に準備しておいた配信用の部屋に行き、PCを立ち上げる。

一瞬だけだが、モニターにあの部屋の扉が映る。扉が閉まっていることを確認し、きっと見間違いだろうと思い、すぐにPCに向き直る。


配信を始める。


そこでその扉のことを言うと、気になるから詳しく聞かせてくれというリスナーが1人いた。その人と連絡を取り、LIMEを交換して話を聞いた。



メッセージ


あかり


W社という会社の社員寮に赤の部屋と呼ばれる部屋があったらしい。その部屋にあるものはすべてが赤いペンキで塗られているとか。そこには女がいた。でも女の血は青く、真っ青だった。女は赤い血にあこがれ、そして赤にあこがれ、真っ赤な部屋を作った。社員寮の中で。女が青い血だったことを知って、女から逃げた男の部屋で。



新着メッセージ 


あかり


102号室で。2年前、新築だった社員寮でおきた行方不明事件。なぜか警察沙汰にならなかった謎の事件。ずっと使われていない部屋、W社の社員寮の4階にあるはじから2番目の部屋の寝室の隣にある赤い部屋。


新着メッセージ


あかり


あなたのお兄さんが昔住んでいた部屋。

今も隣でずぅ~っと生きてるよ。

あなたのお兄さん。私が大好きな來。

そして大好きなあなた。

私はもうこの世にはいない。でも確かに私は生きてるんだ。

あなたの寝室の隣で。少しやせこけた來と一緒に。今はピクリとも動いてくれない来と一緒に。

赤い部屋。

とっても綺麗な赤い部屋。

あなたの血もペンキにしましょ?

赤い部屋は綺麗なお部屋。あなたのお兄さんの血と、いろんな人からもらった血でできたお部屋。

「私が今、住んでいる部屋。」


ドア越しに聞こえるくもった女の声。


「おいでよ。一緒に遊ぼう。あの世でいっしょに遊ぼう。ねぇ、私ももう長くはここにはいられないの。おいでよ。」


俺は急いで友達に電話して助けてもらおうとすると、管理人の男性の声が聞こえた。


とたんに女の声が聞こえなくなり、ドアが開く。そこには真っ青な顔をした社長と、赤の部屋の扉に青い絵の具を塗る管理人さんがいた。



後から社長に話を聞くと、2年前に行方不明になった俺の兄はこの社員寮で殺されたらしい。だがその時ちょうど大きな事業が成功しそうだったこの会社はその事件を隠ぺいしたそうだ。

その後、築2年の社員寮は取り壊され、真っ赤なバラが辺り1面に植えられたそうだ。

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