大会開催

抽選結果

 お坊さんvs少女科学者

 黒髪の美青年vs錬金術師

 次々と第一回戦の対戦相手が決まる中で、ユキナの対戦相手も決まった。

 ユキナ・イス・リースフィルトvsジャック。

紳士様ムッシューが相手ね……」

 ユキナの瞳が、喜々として光る。赤い瞳はその獲物、不死身の紳士を射貫き、今まさに殺そうとしていた。

 それに気付いてか、紳士は少しだけ微笑を浮かべてその場を去る。勝つ自信はあるのだろうが、しかしあまりユキナを相手にしたくないと言った様子だろうか。

 まぁ今のユキナの姿を見れば、誰だって避ける。不死身、無敵、最強。あらゆる宣伝文句を持つ強者だからこそ、そんな相手だろうと踏み潰しに来るユキナの存在は、なんともやり辛いだろうからだ。

 そのことを、対峙したこともあるスサノオはよく知っていた。

「太公望、相手について何かわかることはあるか」

「デモンストレーションなのか、先ほど戦闘していたのを見ましたが……どうやら物を自在に動かす能力を持つ様で。さらに王宮剣術にも似た剣の使い手。遠距離攻撃は持たないが、中近距離タイプの戦士のようです」

「完全に近距離タイプのユキナと、いい勝負――いや、得物がある分、さらには対格差でユキナは不利か」

「しかしながら、ユキナ様には武装による攻撃はほぼ効果がありません。ただの刃物はユキナ様を斬ることすら叶わず、砕け散る。彼の武装がどのようなものかまでは存じませんが、ただの武装ならば、ユキナ様が断然有利でしょう」

「が、それを加味してユキナが付けたハンデがある。かの龍殺しの英雄譚、ジークフリートの背中の弱点」

「ですがあれも、正直ハンデとして成立しているのか、疑問があります」

「というと?」

「術を施した私が言うのもなんですが、あれは背中にのみダメージを受けたとき、一時的にユキナ様の意識を奪うというものです。要望通りに意識を奪われる時間も、ダメージに比例するようしましたが……」

「なるほど。それは確かに、成立しないかもしれないな」

「はい。刻印は、あくまで発生する代物。つまりユキナ様にとってダメージとならなければ、発動すらしない。発動したとして、与えられたダメージが微量ならば致命的にもならないでしょう」

「奴に過去ダメージを与えたのは、ミーリ・ウートガルドと腹の子だけだが……これは、ただユキナが満足しているだけで終わっていないか? そもそもあいつの戦闘スタイルは、真正面から敵を迎え撃ち、圧倒的実力差を見せつけてから一気に叩き潰すというものだ。背後が取れるわけがない」

「ウム……進言した私ですら、後になって気付くという失態。しかし今更取り消そうとしたところで……」

 言いにくいよなぁ……。

 観客席で、困り果てる二人。その側で寝るバスカヴィルは、新たな主人の無茶苦茶ぶりにもはや呆れるしかなく、結局大きくあくびをしてまた眠りについた。

「それに付け加えまして、敵の戦闘スタイルですが……」

「あれだけ見てよくスタイルまで見抜けるな……軍師の目は伊達ではないということか。構わん、続けてくれ」

「対峙していた相手の動きを見抜き、弱みを的確についていく。凄まじい洞察力と観察力を兼ね備えた、前衛には珍しい受け手側。自分の実力と相手の実力、有利不利を常に計算し戦う系統にある。戦闘経験が豊富と見て、間違いはないでしょう」

「経験値の差か。ユキナにとって、それは拭いきれない弱点だな。見たところあの聖職者、体は不老の類。魂は、それこそ百年近く生きているようだ。経験値の差は、明らか出るだろう」

「ユキナ様も、彼の歳にはすでに気付いておられるだろうが……さて、対策は……」

 しないだろうなぁ……。

「初戦で敗北されては士気に係わる。勝ってほしいが……」

 もし負けたら、あとが怖い。

 その怖さを知らないバスカヴィルは、寝息を立てて眠っていた。

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