第39話 禁忌2 魔人《マグ》
だが、そんな心配を振り切るように、
「……どんな運転したら、こんな状態に……?」
崩壊に巻き込まれた御者はうまく受け身を取れたのか、軽症で済んでいるが、もう修理は不可能だろう。庶民ではできず、国の王だからできる暴挙にメルクは目を剥くが、すぐに視線をヤコブの元へ向けた。
「メルク様、あの黒雲の様子とこの雨、そして何より先ほどの轟音は何ですか?」
クレアの声音は真剣そのもの。ただ知りたいというよりは知らなければいけないと言ったような王女の使命感のようなものが感じられる。メルクは眼前の状況に集中しているため、目を合わせることはないが、ノールックで答えた。
「……あぁ、おそらくだが全てあいつがやらかした。教会の使徒のヤコブだとか言ったかな」
「使徒!? そんなものが、大国に攻め込んで……」
真実を知ったクレアは騎士達の目も当てられない様子を窺い見て、青ざめていった。だが、それ以上にメルクの表情は曇っていた。
「……そして、アナと協力して一度捕まえて、
目をやれば、およそ人間とは思えない半身を獣のように変化させたヤコブだったものが、おぞましい形相で歩んでいる。遠くからでも分かる強圧的な
「……魔法の鎖が破られるなんて、ありえない。あれはもう……」
立ち上がるアナも何か思い当たる節があるようだった。それを、メルクが解答し、続ける。
「人間じゃない。……あいつは、人間を辞めた。あれは
「……
「そう。詳しくは見えていないが、何かを光るものを口にしていた。あれが、
——
メルクの作る
「……
クレアはメルクの考えを理解し、そう述べた。メルクは信じられない様子ではあるが、小さく頷き肯定する。
「
「……ゴ名答。コレハアルゴリスノネメアカラ拝借シタ物ダ」
およそ人間とは思えない声音。おどろおどろしく
「会話できている。まだ、人間の部分が残っているのか!」
「……主ノ言葉ヲ信頼シテヨカッタ。
メルク達は己の知らぬ知識を述べたヤコブに驚く。だが、現にこう話せている事実と、本来体全体が変化すると聞いていたものが、体半身で収まっているのを見ると、それが事実で違わないとわかった。
「……マスター、本当にやばいよ。あいつ」
「……あっ、ピッド様」
ピッドっという名のメルクとクレアにしか見えない存在に、アナは少し顔を
「……あぁ、本当にまずい。ただの
脳内会話も忘れて、メルクはそう伝える。
「……それに、元の
ピッドも付け加えるように答える。猫のようなその可愛らしい表情は、いつしか凛とした精霊というだけの顔立ちに変わっていた。
「ソレデハ、主ノ命ニ従イ、破壊活動ヲ再会スル」
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