第10話 魔獣《マギカ》と迷宮《ダンジョン》の旅
「それで、ピッド様が高貴な精霊様ということはわかったのですが、一体二人は何処で出会ったのですか?」
クレアは俺達の出会いに好奇心がそそられるらしい。魔法の勉強とは直接関係がないが、まぁいいだろう。
「……そうだなぁ。あんまり、覚えていないんだけど、俺が旅をして、聖域の近くを通った頃だったかな?」
「そうそう。マスターがボクの住まいの近くを通ったんだよ。はっきりと思い出した」
俺と同様に回想していたピッドが頷く。
「……えっ、少しお待ちください。メルク様、聖域の近くを通ったのですか?」
クレアは疑問を感じたように顔を
「うん? そうだけど、何か変か?」
「……おかしいです。間違いなく。聖域の近くと言えば、
クレアは捲くし立てる勢いで俺に迫る。
これは、マズったことを口走ってしまった。後に悔やんでも、もう遅い。
「……そうだが。俺の
クレアは言葉を失った。まぁ、それも仕方のないことかもしれないけれど。
フロンティアに安全なところはないとそう言ったのはどこかの吟遊詩人だったか、よく考えればあながち間違っていないように思える。
聖域から東西南北それぞれに存在する大国の四つには特殊な魔除けとやらで、基本的に出くわすことは稀なことではあるが、一歩外界へと足を踏み入れれば話は変わってくる。
——
数多の人々がそう呼び、忌み嫌う。それは、それらがあらゆる場所に屯するからである。
それは悪しき精霊の生まれ変わりや精霊達の
だが、それらは醜悪な体と暴悪的な力、そして精霊の加護がなければ成しえないであろう強力な魔法を使うこともある、人間に仇為す存在であることには違わない。
実際、魔除けを持たない小国が、
詰まるところ、四国以外の外界を旅するということは極めて危険ということであり、クレアはそのことに間違いなく引っかかっているということなのである。
「確か……
クレアは思わず饒舌になっている。よほど驚いているのだろう。
「……まぁ、間違っていない。実際、俺がサン・カレッドに来たのは数日前のことだが、ここに来るまでに俺はその
自分で言っていても悲しくなってくるが、俺の財布にはお金の余裕はない。
だから、危険でも厳しくても、そうする他ないのだ。
「……そう、だったのですか……。信じられませんが、あの時のメルク様の様子を見ていれば、本当にそうなのでしょうね……」
思わず立ち上がっていたクレアはその
「……まぁ、マスターはボクと出会えるくらいには強いってこと。そこのところ、王女さんも忘れちゃダメだよ~」
視界から消えていたがピッドの呑気な声が
視線を向ければ運ばれてきていたサンドイッチ——今回は少し高めのフルーツサンド——を何の許可もなく、むしゃむしゃと口に運んでいる。
大切な
「はい、胸に留めておきます」
「……クレア、俺らも折角の飯だ。食べておこう」
「……そうですね。こういったものは食べたことがないので、是非いただきましょう。作っていただいた店主様にも悪いですから」
俺が食べられない理由とは全く訳が違うだろう。高額所得者、め。
「とても美味しいです。このクリームの甘みとフルーツの酸味がとても素朴な感じで、何か懐かしさを感じます」
俺はとても高級な気がするのだが、王族の感覚とはどうもかけ離れているらしい。
「それじゃあ、食事しながらだけど、魔法のことについて、もう少し勉強してみようか?」
「……そのことなのですが、わたくしから一つ良いですか?」
フルーツサンドを一つ淑やかに食べきったクレアは、音を立てずに紅茶を一啜りすると、その提案とやらを語る。
「……メルク様の魔法具を見せてはいただけませんか?
「
俺はテーブルでサンドイッチを貪るピッドの首根っこを強引に摘み上げる。
「……ピッド、あれを頼む」
「ちょっとマスター、まだ食べてるんだけど」
「早く行けっ!」
「もう、精霊使いが荒いなー」
ピッドは惜しそうに顔を歪めて、姿を消す。
「あれ、わたくしにも見えなくなりました。どこへ行かれたのですか?」
「あぁ、俺の荷物保管庫だよ。手で持つのは流石にしんどいから、ピッドしか立ち入れない場所に全て保管してもらっているんだ」
「なるほど。確かにそれは合理的ですね」
クレアは納得しているが、精霊様がいなければ成しえないことなので、あまり合理的とは言えない。
「……マスター、ほ~い」
何もない空間からピッドの声と共に頑強そうなケースが投げられる。
唐突な出来事にクレアは思わず「うわぁ!」と声を出すが、俺はいつも通り、持ち手を掴んで見事にキャッチする。
「これでいいよね~、マスター」
「ああ、大丈夫。助かった」
軽く礼をすると、よほど気に入ったのだろうかフルーツサンドの元へ一直線だ。
その様子をしょうがないと感じながら見送り、ケースの蓋を開ける。
「これがとりあえず『ライトラ』。見たことがあるだろう?」
ケースに詰められた色とりどり、形様々の魔法具各種の中から漁って、一つのものを取り出す。
クレアも覗き見ていただろうと思われる『ライトラ』である。
「はい、少しですが垣間見ていましたので」
クレアはとても興味ありげに『ライトラ』を窺う。
「ここ、押してみ。火が着くから」
「……はい。————本当です! 火が着きました!」
カチリとボタンを押し込めば小さな炎が灯る。
手に収まるとても小さな箱の中にはオリジナルの仕組みで構成された機構があり、ボタン一つで火が着く仕組みだ。
「どうなっているのですか? この『ライトラ』の中は?」
「企業秘密。……まぁ、少しだけ言うとこいつの核、火を灯す芯になるものにはエライスオックスっていう
「エライスオックス! それはあの
興奮気味にクレアは返答する。
「そうだ。血肉に良質な油を含んでいるからな、この『ライトラ』にはピッタリなんだよ」
「……いえ、そこではなくて、そのエライスオックスをメルク様が一人で討ったのですよね?」
「まぁ、そうだ」
クレアは目を輝かす。
「それは、凄いことですよ。紛れもなく。エライスオックスと言えば、
「そうだったのか。あまり覚えてないけど、そんなにだと思ったんだけどな。さっきの
クレアは目を丸くして驚いた様子だ。
俺はかなり昔のことで記憶が曖昧でそう答えるしかなかったのだが、何か変なことを言っただろうか?
ところで、クレアが言う
詳しく言えば、全六段階の強さの階級があり
なぜ爵位なんてものを
「それで、他の
「……はい。ぜひお願いします」
クレアの頷きを受けて、俺は様々な魔法具を見せていった。
普段見ることのない魔法具の数々にクレアは何度も
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