第5話

 それは、冬休み最終日の前日の夜のことだった。

 夕飯を8時過ぎくらいに食べ終わり、リビングでレイと二人揃ってダラダラしている時だった。

「明日、どこか行きましょう」

そんなことをレイは言ってきた。

「別に明日特に用事とかないからいいけど、なんでかしこまった?」

「いやー、なんというか雰囲気的な?」

「なんで問いかけるんだよ問いかけちゃダメだろ・・・」

「ともかく明日どこかいく。これ絶対」

「へいへい。いくならさっさと行くところきめとけよ」

「はーい」

 そうレイは返事をした。だが、そのレイの後ろ姿がどこか寂しそうな気がした。その後ろ姿はまるで雪解け水のようにつめたく、はかなげだった。

 そんなことを考え、窓ガラスをみているともう何日も続く雨が降っていた。





 そのまま、次の日になり行く場所は最近できた大型ショッピングモールだった。昼飯は家で食べ、1時くらいに家を出て大型ショッピングモールに向かうため最寄り駅までいき、そこから電車を15分ほど乗り、大型ショッピングモールについた。

――—にしても、何でここにしたんだ。確かにここなら一日はつぶせるけど。

 そう、ここには飲食店や家電量販店。ゲームセンターやアパレルショップなど、様々な店舗が所狭しと並んでいる。そこには、映画館やボーリングセンターなどある。だから、ここで遊ぼうと思えばいくらでも遊べるのだが、それは人間の場合だ。

 俺以外には見ることも、触ることも、認識することもできない幽霊のレイではほとんどのことをやってはいけないのだ。だからこそ、なぜここを選んだのかが、謎だった。





「映画を観たいです」

「それじゃ、見て来いよ。終わったらここ集合な。それじゃ」

「おいこら、少し待て」

「うえっ」

 襟を引っ張られ、変な声がでてしまった。

「なに別れようしてるのかな、君も観るの」

「ええぇぇぇ~」

「えーじゃない。えーじゃない。ほら、行くよ」

 こうして、連れてかれた。




 映画館につくと、もう観るものは決まってたのか、さっさと席を買わされた。20分程して中にはいり、選んだ席に座り5分程してから上映が開始された。

 観るものは、人気俳優がでる普通の恋愛系だった。主な舞台が高校で、主役とヒロインが、出会い,恋をして色々な秘密を暴露して最後はハッピーエンドで終了というありきたりな学園ラブコメ。秘密を暴露するは普通なのかと思ったが、こういう映画は全然見ないので、多分普通なのだろうと一人納得した。

ふと、横を見るとレイがいた。たまに、おおー、とか言っているが何に共感してるかが、全然わからん。

 そんなことを思っているとやっぱり幽霊でもこいつも、女子なんだなと思った。

———こういう映画を見て共感しているのは女子の特権だと思うのは俺だけだろうか。 そう思いながら俺は眠った。





 目を開けると、映画は終わっていた。

 横を見ると、にこにこしてるレイがいた。

「何君はぐうスカ寝ているのかな?」

「いやー、違うんですよレイさんや」

「何が違うのかなカイさんや」

――—やべー、何故かこの人怒ってるじゃないですか。

「ねぇ、かい君。罪には罰っていうよね」

その笑みが俺にはものすごく怖く見えた。





 あの後すぐに、映画館を出た。

 時刻は4時過ぎ。このまま帰るのも少し味気ないので見て回ることにした。

 最初はレイが服を見たいといったのでぶらぶらあるいた。

 レイに付き合い30分ほどしてつかれたので近くの自動販売機でスポーツドリンクをかった。

 スポーツドリンクを買い近くの壁にも取れかかっているとレイがこっちに向かい歩いていた。

 俺もレイに向かい歩き出そうとすると、とある声が聞こえた。

「あれ、朝霧君?」

「え」

 そう呼ばれて振り返るとそこにいたのは木更津唯香だった。

「やっぱり朝霧君だ。久しぶりだね。今日はひとりできたの?」

「え、あ、ああ。まあな」

 危うく一人じゃないというところだった。

 いつの間にか俺の後ろにいるレイを見ると、俺の後ろから木更津のことを、

ジト目で見ていた。すこしだけだが、かわいかった。

「へ~、そうなんだ。朝霧君は何しに来たの」

「俺か。まあ映画をな」

「それって何の映画?」

「なんだったっけ。ほら最近人気の映画」

「うそ、あれ見たの。私もこれからそれ見るんだ。どうだった?おもしろかった?」

 食いつきすげーなおい。

「いやまー、面白いか面白くないかで言えばおも―――—」

「————まって!!」

 その言葉によって続きがいえなかった。

「なに」

「いやねー、私これからそれ見るからやっぱりそういうのは見てから聞きたいなっておもって」

「おお、そうか。なら悪かったな」

「ううん。こっちこそごめんね。それじゃ、バイバイ。また、学校でね」

「あ、ああ。また学校でな」

 そういうと、木更津はそそくさと走っていった。

「ねぇかい君。さっきのだれ?」

 レイがそう聞いてきたので正直に答えた。

「別にただのクラスメイト。それ以上でもそれ以下でもない」

 そういうとレイは「ふぅ~ん」といったかおをした。

―――お前もお前で一体何。







 あの後も色々見いて回り、時刻は5時を回った。

「そろそろ帰るか?」

 そうレイに言うと小さくうなずいた。

 ショッピングモールを出ると外は真っ暗ではなく、樹には様々な色の装飾がされておりライトアップもされていた。

「綺麗だね」

 そう、言葉を発したのはレイだった。

「あぁ、だな」

 今度は俺が肯定する言葉を発した。そして、レイを見てみるとどこか儚く、ふれてしまえば簡単に壊れてしまうのではないかと思った。割れてはないけど沢山のひびが入った鏡のような印象だった。

「か、帰るか」

「うん!」

 それが俺とレイが家に着くまでに発した最後の意味ある言葉だった。









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