激突の先の決着

第1話 帰れない焦り

 あれから3ヶ月、結局あの建物の中にはこれといってめぼしい物はなかった。もう1台同じような機械があっただけですね。それも、そっちの方は人が入れる程の扉が全面に付いていて、中に入る事が出来そうでした。


 それで何か実験をしていたとは思うけれど、今はもう動いてはいなかった。


 結局行き詰まった僕は、そのまま平行世界エデン・ワールドに居続けています。ついでに魔法の練習もして、だいぶ使えるようにはなったけれど、未だに帰る術は無しです。


「むむむ……」


「おっ、良い感じね~」


 ジッとしていたら色々考えちゃう。だから、とにかく体を動かしています。おかけで今は、重力魔法で凄く大きな物質を作り出すことが出来るようになりました。しかも何個もね。


「ん~」


「おぉ、5個……6個……凄い凄い」


「ふぅ……これが限界ですね」


 とりあえずコンビニサイズの大きさの物質を6個作りました。正直、これをもっと細かく分割も出来ます。これならだいぶ戦えるんじゃないかな?


「ほぉ、アンナに負けず劣らずの魔法だな」


「ありがとう」


 魔法少女機関MGOと戦うにしても、僕が強くならないとダメです。だから、元の世界に戻る方法を探すと同時に、修行もしています。


「だが、肉体が出来ていなければ、魔法だけでは……」


「ほっ!」


「……なっ!!」


 帝王オルガさんが横からそう言ってきたので、今僕がいる広場の近くの大岩を、回し蹴りで叩き割ってみました。

 筋力とかじゃないけどね。重力魔法で僕の蹴りの威力を上げてるだけです。


 蹴りで発生する空気圧とか、そういう力学的なものって、先ず重力あっての話ですからね。

 だから重力魔法の使い手の僕は、攻撃による威力など、自由に調整出来るということです。かなり綿密なコントロールが必要だけどね……。


「そうですね。筋肉あっても、僕の場合あまり意味がないかも」


「そ、そうか……」


 あれ? オルガさん戸惑うと思ったら、ガッカリしてる。


「折角素敵な筋肉を付けてやろうと思ったのだが……」


「結構です……」


 筋肉ムキムキな魔法少女とか、どこに需要があるんですか……全く。


「全く……パパは筋肉の事ばっかりね。歩美、今日は修行終わりでしょう? コンビニ寄ってこ」


「あっ、うん!」


 僕が魔法少女の変身を解き、ワンピース姿になると同時にリリンがそう言ってきます。

 この世界にもコンビニがあったのは驚きでした。車はないのにね……どうやって営業しているのか気になったけれど、魔法で物資を届けられるみたいで、その謎は初日で解決しちゃいました。


 それと僕がワンピース姿なのも、リリンが毎日のように僕を起こしに来て、服を着せてくるんです! 光の速さで飛んでくるから逃げられないんです!


 だけど、重力魔法を鍛えた今ならリリンのこの行為を止められる……って、その為に魔法を鍛えたんじゃない。僕は、元の世界に帰る為に……魔法少女機関を止めるために強くなった。


 それなのに、未だに帰る手段が見つからない。僕はやっぱり、このまま一生……。


 リリンとコンビニに向かう道すがら、僕はそんなことを考えています。ただ、ここは平行世界の別世界。僕のいた平和な世界じゃない。


 女の子2人だけで道を歩いていると、否応なしに人が襲ってきます。金目のものを狙ったり、僕達の体を狙ったりね。


「うぐぐぐぐ……!!」


「ちょっと、歩美。無意識で重力魔法使ってるわよ!」


「あっ、不快な視線を感じたので……」


 むしろ僕達に突っ込んで来ていたよね。だから防衛反応で重力魔法を使っちゃったんです。

 とにかく、襲ってこようとした人達の重力を軽くし、そこから解放して上げると、一目散に逃げていきました。こんな事当たり前のように起きるから、危ない世界だよね。


 ―― ―― ――


「あっ! 僕の唐揚げ!」


「油断するのが悪いんです~」


「う~」


「まぁまぁ、代わりにこっちの1個上げるから」


「それ、絶対微妙だったんでしょう? ワサビマヨネーズ味」


 コンビニで色々とおやつとか飲み物を買った帰り、僕の世界のコンビニにもありそうな唐揚げ5個入りを買って、帰りに2人で食べ歩いています。

 僕は一般的な普通の味、リリンは期間限定がでたら常にチェックすると言って、漫才師とのコラボ祭りと称した、中々に攻めた味を頼んでいた。1個食べた後しかめ面して、そのまま1個も減ってません。


「もう……自分で選んだんだから責任もって自分で食べなよ」


「くっ……まさか滅多に起こらないハズレ味だったなんて……」


 確かにたまに微妙なのあるけどさ……ここまで露骨にハズレなのは初めて見たよ。


「……歩美。あんまり前をガン見しないでね」


「へっ? なに?」


 すると、リリンが突然視線を横に逸らし、それから僕にそう言ってきた。なにか前にあるの?


「反社会グループ。私のパパの行動に反対や批判をしている人達よ」


 そう言ったリリンの声はどこか悔しそうで、やり場のない怒りに満ちていました。

 確かに目の前からくる人達は、わざわざ『帝王を引きずり下ろせ!』とか『今の時代に圧政は要らない!』とか、そう言った汚い言葉で批判されたたすきをかけています。


 こういうのって、僕の世界にもあるね。その辺りは平行世界らしく、同じだったりするんだね。


「ん? 帝王の娘だ! やれ!!」


 魔法による攻撃さえなければね……。


「もぅ……なんでわっかんないかなぁ。この世界の魔力を削らないと、もうこの世界は崩壊しそうなんだから」


「どういう事?!」


 目の前の人達が攻撃してきたので、僕達はUターンをして、その人達から逃げます。

 その直後、僕がまた重力魔法でその人達を押さえてはみたけれど、気合いとともに弾かれました。もしかして魔法?!


「あの人達アンチ魔法使ってくるから、魔法は無駄だよ。とにかく逃げないと」


「卑怯な人達ですね……それで、世界が崩壊するってどういう事?」


 逃げるしかないなら逃げるけれど、それよりもリリンが言った事も気になります。


「……あなたに言っていいのかどうかだけど、実はこの世界ね、魔法を使い過ぎたのか魔力が増え過ぎたのか、この前言ったオールって言う物資が膨れ上がり、異常に増え始めたの」


 確か、世界を構成する物資の1つだっけ? でも、それが異常に増えてなにか悪い事でもあるのかな?


「とにかくこの物資はね、膨れ上がると原子を壊しちゃうんだ」


「…………」


 あれ、それって……。


「そう、物質を崩壊させていくの。人間でも建物でも、どんなものでもね」


 とんでもない世界じゃないですか! ここは!


 なんで、なんでそんな重要な事隠してたの?!


「リリン、なんで……」


「言ってあなたはどうした? 元の世界に戻れないかも知れないのに、こんな事聞いて、あなたは更に焦ったんじゃないかしら?」


 確かに焦ると思う。現に今焦ってるからね。あんまりノンビリとしている場合じゃなかったってね。


「でも、パパの政策でそれは何とか押さえられてるの。この崩壊が初めて起こったときは、本当に酷かったわ。次々と人や建物が崩れていくんだもん。世界が終わるんだって、真剣にそう思ったよ」


 いつの間にか追いかけてくる人もいなくなり、逃げ切れた事を確認したあと、リリンは僕にそう言ってくる。


 そうだとしても、まだ崩壊は終わってないんだね。押さえてるだけなんだよね……それなら、またいつ崩壊が始まるかも分からない。


 言い知れぬ不安が僕を襲うけれど、今はどうにも出来ないんだ。探っていくしかない、元の世界に戻れる方法を……。


「……ごめんね、何だか気分が下がる話をして。でも大丈夫、パパご帝王の間は崩壊は起こらないから。パパが起こさせないって言ってたから」


「そう……ですか」


 それを知らずに反対しているのかな? さっきの集団の人達は。バカだねって思っちゃう。

 今の帝王を引きずり下ろしたら、崩壊がまた起こるんだよね? そうなると自分達の命が危ないよね。


 自分で自分の首を締めてるようなものじゃん。


 ただ、力でねじ伏せても意味がないって、リリンが付け加えるように言ってきました。そして僕に向かって、気にせずに元の世界に戻れる方法を探したらいいとも言ってきました。


 でも、あんなの見ちゃったらなぁ……本当に、僕はなんにも出来ないのかな?

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