第15話 いざ、平行世界の魔法少女機関へ

 あの後リリンの家に行った僕は、彼女の手によって女ものの下着を着けられてしまいました。ほぼ無理やりね。でも他に下着がなかったから仕方なくなんです!


 それでも、僕は何かを失ったような気がします。


「うぅ……僕は男の子なのに……」


「それ、お姉ちゃんも同じ事言ってたね~」


 姿見の前で買ってきた下着を身につけ、背後でそれを見ながら笑顔になっているリリンに向かって、僕は少しだけ文句を言います。無駄なんろうけどね。


 それにしても、こっちの世界でも男の子が女の子になるって事があるなんて。


「そう言えば、アンナも元男の子だったって聞いたけれど、そういう事ってこの世界では良くあるんですか?」


「そんな事ないでしょう。お姉ちゃんが初めてよ」


 そうだよね。どんな世界でも、人間の男が女になるなんて事、普通はあり得ない。でもそれなら、アンナはなんで……。


「ある男性に捕まって、魔法少女にされるなんてね……」


「…………」


 人生まで同位なんですか? 多少の違いはあるけれど、ここまで一緒なんて……。


「その男性って……」


「ジェローム・バーツ。天才科学者だけど、性格はいかれた奴よ」


「ジェローム……J? まさか……Dr.J」


「あ~呼称でそんな呼ばれ方されてたっけ。でも数年前から、自分はツチヤヨシツグだって言い出してるのよね」


「へっ……?」


 どういう事……こっちの世界の人達の名前は、ほとんど英語圏の名前だけれど、それは日本人の名前だよね。なんでだろう?


「とにかく、今そいつは魔法少女機関の中で変な事しているし、その中に入っていった女性達は、必ず卑猥な事されてるからね。だから皆近付かないのよ。あなたも近付かない方が良いよ」


「……」


 そう言われても、どう考えてもその人って、僕の居た世界の人ですよね……。

 それなら、多少危険でも会って話を聞いてみないと。僕と同じようにして、こっちの世界のDr.Jと入れ替わっちゃったのかも。


 だとしたら、僕の世界にいるDr.Jは、こっちの世界の住人?


「聞いてるの?」


「ぎゃっ!!」


 考え事していたら、後ろからいきなり胸を揉まれましたよ!


「……ハリが良いね。なによこれ、羨ましい。ずっと揉んでたい」


「ちょっと、勘弁して下さい!! 離してぇ!」


 僕は女の子じゃないんだから、こんな下着を着けているだけでもう恥ずかしいのに、その上こんな事まで……!!

 今まで気にしないようにしていたけれど、否応なしに自分が女の子だって思い知らされる。


 だから自分の体は触りたくないし、触られたくもないんだよ! それなのに、リリンは遠慮なしに触ってきます。


「このまま骨抜きにしてあげる。どうせ魔法少女機関に行こうとしているんでしょ?」


「ふえっ?! な、なんでそれ……あっ!」


 リリンがそう言った瞬間、僕はそう反応してしまったけれど、そのあとリリンは凄い笑顔を向けてきました。しまった、はめられた……。


「やっぱりねぇ~あそこに行く気だったんだ」


「あぅぅ……離して下さい!」


「だ~め、離したら行っちゃうでしょう? あんな危ない所、行っちゃダメよ」


「うぅぅ……それでも、元の世界に戻る手がかりがあるかも知れないんです! そいつはもしかしたら、僕と同じ境遇なのかも知れないんだから!」


 自分の同位体と入れ替わってしまった、そんな人かもしれない。それなら、僕もそうだと言えば話が出来るかも知れない。それでも襲ってきたなら、僕の魔法で蹴散らすけどね。


「ふぅ……全く。そういう頑固な所はお姉ちゃんにソックリだね。分かった、その代わり私も一緒に行くわ。それ以上は譲らないからね」


 すると、ようやくリリンは僕の体から手を離してくれました。しかも一緒に行く事に……確かにこっちの世界のリリンは強いし、頼りにはなります。


「分かりました。正直少し不安だったから、着いてきてくれるのはありがたいです」


 だから、僕はその条件を飲みました。でもその後、何故かリリンの顔が緩んでます。なに? 僕何か言いました?


「いやぁ、そういう所はお姉ちゃんと違って可愛いね~」


「可愛っ?! そ、そんな事ない!!」


「いやいや、可愛いよ~ほら」


「って、いつの間にこの服に?!」


 気が付いたら、買ったばかりのブラウスとスカートを身につけられていました! 早い! 胸揉まれてる間に着せられたの?! どんな早業ですか!


 そのあと、他にも買ってきていた服も着せられてしまい、リリンにたっぷりと可愛いを連呼されてしまいました。


 こっちの世界のリリンは積極的だなぁ……。


 ―― ―― ――


「さ~て、あそこが魔法少女機関の入り口だけど……」


「警備……居ないですね」


 あの後、何とかお着替えタイムが終わった僕は、魔法少女のコスチュームにチェンジしてから、リリンの家に来る途中にあった、魔法少女機関の前にやって来ました。


 警備の人がいると思って変身してきたけれど、誰もいないじゃないですか!


「まぁね~基本的に変な奴だからね。自分の事をツチヤと言い出してからは、更に輪を掛けて変になってるからね。でも今にして思えば、歩美ちゃんの言った通りかもね」


「変身する意味なかった」


「まぁまぁ~その格好も可愛いよ」


「そっちを褒められても……」


「しかも変身する時裸に……じゅる」


「さ~て、行きますか」


 この人がどっちもいける人だって忘れていましたよ。それなのに目の前で変身しちゃって……「うほぉっ」なんて声が……本当、向こうのリリンとは大違い。


 とにかく、涎を垂らすリリンは放っておいて、僕は魔法少女機関の入り口に向かって行く。


「あっ、ちょっと待ってって! いきなり攫われて、卑猥な事をされるかも……」


 そして、リリンが慌てて僕の後ろに付こうとする前に、入り口の自動扉が開きました。そして……。


「お帰りなさいませ~お嬢様!」


 左右に立っているメイド服を着た女性達数人に、そう言われて出迎え……いや、これは違うんだっけ。帰宅になるんだっけ? じゃなくて!! なんでメイド喫茶のメイドがいるんですか!


 ちょっと古いですよ……流石に。でも、未だになくならい日本の文化になっちゃってるらしいです。それよりも……。


「えっと……君達は攫われた人達?」


 このメイド達が攫われた人だとしたら、助けた方が良いのかも。でも、自分達から進んでメイドになったのなら、この人達のご主人様の元に案内を……。


「お帰りなさいませ、お嬢様!」


「……」


 リピートされた……あれ? もしかしてこれ……。


「お帰りなさいませ~お嬢様!」


 良く見たら動きも均等だ。これロボットだ!

 でも、ロボットなんてこの世界にあるの? だって僕の後ろにいるリリンが、口を開けて呆然としてますからね。


 もしかしたら、ツチヤって人が作ったのかも知れない。器用な事するな~もう。


「お帰りなさいませ、お嬢様!」


「これ……止められないのかな? あっ、リリン、これ大丈夫だから」


「ほ、本当? あっ、本当だ……あ~ビックリした」


 なんでこれでビックリしているんでしょう? しかも入り口にあるんだよ? 日常的に聞こえてなかった?


「いや、長年これがあるんだったら、音くらい……」


「えぇ……聞こえてたわ。たまに軽快な声で聞こえてくる女性達の声……卑猥な事をされた女性達も言っていた。あの服装を着せられて、色々としたって……つまりあれは、これから攫ってきた女性達に、お前達にはこらからこれをして貰うと、脅しをかける為の……」


「そんなわけないじゃないですか……」


 多分この世界の人達には、この精神が分からなかったんだろうね。だから、自分の好きなメイド喫茶のメイド達をして貰えなかった。それで自分で作ったんじゃないでしょうか?


「あっ、ちょっと!! 警戒しなさいよ!」


 とにかく、なんだか拍子抜けした僕は、玄関の中に入っていく。


 数体のメイドロボが立っている広い玄関ロビーの先には、長い廊下があったけれど、廊下に明かりが点いてない。常夜灯だけですね。建物も全体的に暗いや。


 そして、廊下の手前には左右に扉があります。先にこのどっちかに入った方が良いかな?


 建物もその中も、どこかの研究施設みたいだから、ツチヤって人を探すのは大変かも知れないけれど、一つ一つ調べないとね。


「ん~空っぽだ」


 そして僕は、右の扉を開けて中を確認するけれど、中央には古びたパイプ椅子と机があるだけで、あとは何も無かったです。左の部屋も同じでした。


「この廊下を進まないとダメか……」 


「い、今のところ何も無いわね……なんだ、拍子抜けね」


 するとその時……。


「お帰りなさいませ! ご主人様!」


 数体のメイドロボが一斉にそう言った。ご主人様? ちょっと待って、ということは男性?! 僕達以外の誰かが入ってきた!


「なんだ……君達は?」


「……くっ、いつの間に後ろに!」


 メイドロボの声とその男性の声に、リリンが慌てて臨戦態勢を取り、自分の手を光らせます。

 もちろん、僕も咄嗟に小さな杖を出現させて、玄関に振り向きます。


「ほぉ……この動き。その格好……魔法少女か」


 この声、あの鋭い目つき……あの真っ赤な髪型、その雰囲気……どれをとっても見覚えがあった。


 間違いない、Dr.Jだ。


 でも、僕のいた世界のDr.Jじゃない。いや、もしかしたら僕の居た世界の住人かも知れない。だけど、僕の知ってるDr.Jじゃない。


 だってこいつは……無精ひげを生やし、ヨレヨレのポロシャツを着て、穴の空いたジーンズを履いている。

 靴もその先端ののりが取れちゃったのか、まるで口みたいにして、靴底と靴先をパカパカさせて歩いている。


「あなたが、ツチヤ?」


 それを見たリリンが、その人に向かってそう聞いた。


「……あぁ、そうだ。君達は? なんでここに?」


「答える義理は……」


「ツチヤさん。あなたも向こうの世界から来たんですか?」


「歩美?!」


 ごめん、リリン。だけど、これも僕の目的の1つなんだから、聞かないわけにはいかないよ。


 すると僕の言葉を聞いて、その人は明らかに目を丸くしています。やっぱり、向こうの世界という表現に驚いている。


「僕はそれを調べに来たんです。だって僕も、向こうの世界からこの世界に来てしまったのです。こっちの世界の自分に、入れ替えられて!」


「…………」


 とにかく、僕は僕の目的の為、この人が怪しかろうと危険な人だうろと、情報は聞き出してやる!


 だけど、その人はボロボロの靴を抜いだ後、メイドロボの方に向かって歩いて行き、胸元を鷲づかみにしました。何してるんですか?


「ご主人様……今日はすこぶるご機嫌ですね。お食事は私達のスペシャルディナーで宜しいですか?」


「あぁ、構わん」


 そこスイッチだったの? 反応が変わるスイッチだったの? そしてそのロボット達が食事作るの?!


「こいつらは、この世界の魔力を使って作り上げたドールだ。ロボットとは違うからな」


「ド、ドール? それにしては……」


「最近魔力が枯渇しているからな。前はもっと動いていた。それで、もう1人の自分とやらに入れ替えられ、この世界に来たっていうお前。元の世界に戻る方法でも持ってきたのか?」


 すると、ツチヤさんはゆっくりと僕の方を向き、そして近付きながらそう言ってくる。


 そうか……こんな事を言うということは……。


「それともまさか……俺が元の世界に戻れる方法のヒントを掴んでいるとか、そう思ってるんじゃないだろうな?」


 やっぱり……この人も元の世界に戻る方法が分からないままなんだ……。


「うっ……」


「ちっ……その顔、あわよくば俺が何か知っているとでも思っていたようだな。おあいにく様、俺は何も知らねぇ」


 そう言いながら、その人は凄い形相で僕を睨んできた。ヤバい、気分を害したかも。


「下がって、アユミ」


「んっ……大丈夫だよ、リリン」


 そして、その男が睨みつけた瞬間、リリンが僕の前に出ます。でも、僕だって戦えるよ。


 僕の世界にいた人間なら、そんなに魔法とかは使えないはずだ。だから、油断しなければ捕まることはない!

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