第14話 着ける? 着けない?
それはほんの一瞬だった……僕がこの世界に来た時と同じような……いや、それ以上の音が響いたと思ったら、上空の空間が一瞬だけ割れ、逆さまになった僕の家が一瞬見えました。
違う、逆さまに映っていたんだ。あそこ……あの場所が一瞬だけ、僕の世界と繋がったんだ。
だけど、それと同時にある声も聞こえた。
『このままじゃなたは死ぬ。進を、歩美を助けたいなら、もっと準備しないとダメよ!』
『くっ……うぅ、歩美……!』
空に響いたその声の後、割れた空間は元に戻りました。
あの声は、もう1人の僕アンナと、向こうの世界のリリンです。
恐らくこの事態は、向こうの世界のリリンが無茶をしたからでしょう。僕がこっちの世界に行ってしまったか知らないけれど、リリンの力が飛躍的に上がっていた。
「さっきの声……お姉ちゃん。それと、私?」
「うん、向こうの世界の君だよ。そして、もう1人の僕アンナだ。もう出会ってる」
帝王のいる建物を出て、こっちの世界のリリンの家に、しばらくやっかいになることになった僕は、さっきの現象を見て、もう時間がないことを悟った。
急がないと……魔法少女機関が狙っていたものを、アンナが狙ってしまう。そうなったら、いったいどうなるのか……。
とにかく、その魔法少女機関が狙っているのがなんなのか、それを知る必要がある。だから、僕は向こうの世界でやろうとしていた事を、こっちの世界でやることにした。
魔法少女機関MGOへの潜入調査。
こっちの世界にもあるとは思わなかったから凄く驚いているけれど、逆になんで同じ組織があるのか気になっちゃいました。だから調べます。
調べるんだけれど……。
「うん、もう異変は収まったし、お洋服選び再開~」
「いや、あの……結構な異変だと思うんだけど……」
「でもどうにも出来ないでしょう? この世界は歪みが発生したりして、今みたいな光景が空に現れることがあるの。今回のはちよっと大きかったけれど、皆いつもの事のようにしているでしょ?」
リリンにそう言われ、街の人達の様子を見てみると、確かに皆慌てる事なくいつも通りの生活をしています。さっきの現象なんか、日常茶飯事みたいな感じですね。
そして僕は何をしているかと言うと……。
「う~ん。アクセントにリボン……いや、飾りの髪留めかなぁ」
洋服屋で僕の洋服を見て貰っています。もちろん、女の子用のをね!
この世界に飛んできた時、向こうの世界の学校の制服のままだったんだよ。男子用の。
それなのに僕を女の子と見破った。と言うか、同位体だから当然女の子と思っていたらしい……そこに普通に反応した僕も僕でしたね。
ただ不思議なのは、僕とアンナは同じ姿をしているのに、なんで一発で僕を姉の同位体だと見抜けなかったのか……そこも引っかかる。
「ん~お姉ちゃんとは全線雰囲気が違うからなぁ……お姉ちゃんは大人っぽいのだけれど、あなたはちょっとそれは似合わないわね~」
「そうですか……」
どうせ僕は子供っぽいですよ。まさか、それで分からなかったんじゃないよね?
だけど、それを聞いて項垂れている僕の胸元に、リリンが手を伸ばしてくる。
「胸もお姉ちゃんの方が大きいしね~」
「……そう」
しっかりと揉んでます。僕の胸をしっかりと……。
でも悲鳴を上げられない。女の子が同性の子に胸を揉まれた所で、そこまでの嫌悪の悲鳴は上げないと思う。
女の子同士でも驚く事はあるけれど、今は服選びとか下着選びをしているので、こういう事をされるのは当たり前なんだ。
ん? あっ……そう言えば下着も買ってあげると言われてたっけ。魔法少女機関に潜入する方法を考えていたから、その事をすっかりと忘れていた。
この世界では、僕は女の子で通さないといけない。アンナの同位体なら女の子。元男だって分かったら、同位体じゃないとされて……どうなるんだろう? 別になにも問題ないかな?
ただ、僕の事はもう女の子で通ってるし、女の子として接してきている。元々男だったと言ったら、嫌悪されて避けられるかも。そうなったら、情報集めも出来ない……それはマズい。
「ん~やっぱり短めのズボン……いや、やっぱりスカートよね」
そして、リリンはひたすら僕の服選びに夢中だけど……僕としては男でも女でもどっちでも着られるような、無難な服にして欲しい……そんなヒラヒラのピンク色のカーディガンは止めて……。
「ちょ~と大人っぽいか……う~ん」
「あの、普通にTシャツとかで……」
「ダメ」
却下されちゃったよ。こっちのリリンは向こうのリリンとは違うな~何だかお姉ちゃんみたいだよ。お姉ちゃんだったね……50歳過ぎてるんだ。下手したらお母さんだよ。
「そうだね~やっぱりブラウスだね~」
そう言ってリリンが手に取っているのは、ボタンの周りとか、襟元が濃い赤になっている白いブラウス。ヒラヒラは少なめだけど、多少はあるね。
それと、同じ濃い赤の膝丈のスカートですか。アクセントは首元の赤いリボンかな? これを着たら完全に女の子になっちゃう……着たくない……着たくないけど、断る理由が思い付かない。
それと前髪を留める髪留め、それは僕が魔法少女になってる間にもしていたから、別に問題はないんだけどね。服はもう完全に女の子だよ。
魔法少女になってる時の服って、どっちかというとボーイッシュな感じだからまだ何とかなっていたけれど、これは完全に抵抗がある。だけど……。
「さっ、あとは下着ね~」
「うぅ……」
意気揚々とスキップしながら下着売り場に向かって行く姿を見たら、断りにくいよ。
因みに僕の今いるこの場所は、実はショッピングモールみたいな所です。
相変わらず粘土みたいなもので作られているけれど、それで作られたこの場所は、まるでローマ帝国の遺跡みたいになっています。そして、所々に店が点在している感じですね。でも、その店の種類は完全に僕の居た世界と一緒でした。
「ここって可愛い下着がいっぱいあるのよね~」
わぁ……本当にシンプルなものじゃなくて、一部にちょっとした刺繍があったり、可愛い色合いになっていたりと、結構凝った下着が沢山置いてありました。
「うん……これで意中の彼を……」
あれ? リリンって好きな人がい……そうか、50歳ならいてもおかしく……って、50歳だとしたら遅すぎませんか?!
「ほら、あなたのも選んで……って、何その顔」
「いや、何でもないです」
「そっちの世界では、体と年齢が合ってるみたいだから羨ましいわね~」
「……と言うことは……」
「そう、あんたの世界の言葉で言ったら、老け専だらけって事」
それは何というか、ご苦労様って感じですね。でも、なんでそういう情報は知ってるんだろう。
「あの、気になってたんだけど……なんで僕達の世界の事を?」
「……ん~全部、あの魔法少女機関が教えてくるのよね」
なんだか間がありましたけど……何か考えてた?
でも、またそこですか。それが本当なら怪しいですね……いったい何をやっている所なんだろう?
この世界の人達は、殆ど全員魔法のような超人的な力が使える。だから、魔法少女と言っても何も特別ではないみたいだ。それなのに、なんでそんな機関があるのか……誰も知らないみたい。
「パパが子供の頃からあるみたいだけれど、未だに何をやっているのか謎なのがね……それと、時々人を攫うからね」
「えっ……! そんなの……」
「でも、証拠がないの。ただ、その前後では必ず魔法少女機関でおかしな力の波動があるから、機関が何か関係していると、皆そう思っているの」
なるほど……そうなると、潜入調査では何か得られるかも知れないね。そうと決まれば早速……。
「待ちなさい、下着」
「うぎゃっ……」
思い切り襟首掴まれました。首が絞まってしまって苦しかったよ……。
くそ、この流れならそれとなく下着を買わないで去れると思ったのに! 僕が方向転換して店を出ようとした所で、瞬時にリリンが反応しました。
「なに? 下着を買いたくない理由でもあるの?」
「いや……その」
どうしよう……どう説明しよう。女ものの下着なんか着けたくない。男だから……なんて言えないんですよね。
「別に下着着けないなら着けないで良いよ」
「えっ?」
「襲いやすいいから」
「……」
あの、こっちの世界のリリンは好きな男性いるんですよね……ね? 女の子好きじゃないよね?
「私、別に両方いけるのよね~」
そう言いながらリリンは僕に近付いてきて、人差し指を顎の下に沿わせ、ゆっくりと上に撫で上げてきた。
「ふぇあっ」
「あっ、良い声で鳴くね。それとも、そんなに女ものの下着が嫌なら、パパの下着着ける? 真っ赤なふ・ん・ど・し」
「あぁぁぁ……」
た、太鼓の音が頭の中に……太鼓の音が……頭の中に、フンドシ一丁になっている帝王の姿がぁあ!!
ヤバい……今僕が着けている、男もののボクサーパンツ1枚だけじゃ無理です!
「くっ……うぐぐぐ」
そしてこれ以上渋っていても怪しまれる……つまり。
「分か……りました」
女ものの下着を着けることを了承し、買って貰う事になる。そうしないとこの場は乗り切れなかったです。でもだからって、着けるとは言ってな――
「あっ、どうせならここで着けていきなよ」
ロールプレイングゲームの装備屋で、買った物を「ここで装備していくかい?」みたいなノリで言わないで下さい。そんなの出来るわけ……。
「それでしたら、あちらの方でお着替え下さい。それと、古い下着の方は……」
「あっ、捨てといて下さい」
「ちょっと~!!!!」
それダメ、それダメだから! と言うか、着けて帰れるの?! えっ、なんで……いや、買った物だからそりゃ問題ないだろうけれど、靴じゃないんだから、今すぐ着けないと支障が出る訳じゃないでしょう!
あっ、リリンが何か店員さんとウィンクしていた。おかしい、嵌められたかな……。
今僕が着けている下着、もし女ものだったら捨てる必要なんかない。それなのに、リリンは真っ先に捨てといてと言ってきた。
それはつまり、今の僕には合わない、要らないものと判断したからだ。でも、僕はいる。男の尊厳を守るためにも、これだけは……。
それを簡単に捨てても良いと言ってくるのは、リリンにとってはいらないもの。つまり、僕が今着けているのが男ものの下着だって知っている!
「リリン、なんで今着けている僕の下着の事を知って……」
「だってあなた、元男でしょ?」
「……えっ?」
「元男でしょ?」
2回言った、間違いない。僕の事を元男って知ってた?!
「えっ……な、なん……」
「だって、お姉ちゃんがそうだったからね~ずっと昔の事だけどね」
なっ……アンナが? もう1人の僕も、昔男だった?!
なにそれ? もうなんなの、僕の頭には色んな事が舞い込み過ぎていて、ショートしそうですよ!
「何混乱してるの? 同位体なんだから当然でしょう。ただ、胸はお姉ちゃんの方が大きいのよね~だから、最初お姉ちゃんの同位体って分からなかったよ。雰囲気も全然違うし、他人のそら似かと思っちゃった」
「そう……ですか」
「うん、だから……また昔のお姉ちゃんが戻ってきたみたいで、私嬉しいの」
「それ……手に持ってる下着を置いてから言ったら、じーんときたんですけどね」
「良いじゃん~あの時お姉ちゃんにさせられなかった事、あなたでやらせてよ~どうせ女の子になった直後でしょう?」
「却下です!!」
色々と隠す必要が無くなったのは良いけれど、余計に厄介な事になったのは僕の気のせいでしょうか?
とにかく、僕はその店から飛び出し、リリンから全力で逃げ出すけれど……。
「無駄だよ~」
目の前にいました! 光の柱が出現したと思ったら、リリンがそこから出て来たよ! 魔法ズルい!!
その後簡単に捕まった僕は、家で女のものの下着を着ける事を約束させられ、無事に買い物を終えました。無事とは言い難いんだけどね……。
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