第12話 異界の帝王

 その後街を歩き続け、人々の不快な視線を避け、リリンの父親の住んでいる建物に辿り着きました。


 周りの建物と同じで、粘土で作られたような建物だけど、結構立派な造りになってるね。

 ただ何というか……城壁っぽいのがあったり、見張り台とか大きなバルコニーみたいなものもある。だけど、粘土でお城を作ろうとしたら失敗したような感じで、歪になってしまっている。


 正直言ってかっこ悪い……こんな建物には住みたくないかな。


「ちょっとここで待ってて、パパに話してくるから」


「えっ、あっ……出来るだけ早くね」


「分かってるよ~」


 そう言って、リリンはその建物の中に入っていく。

 彼女とはここに来るまでの間に色々と話をして、多少は打ち解けたかな~って思う。最初は命狙われたけれど、勘違いだったって事で、あの後かなり必死に謝られたよ。


 この世界でしばらく生活する為には、この子と仲良くした方が良いかなと思ったし、ギスギスしたくはないからちゃんと許しました。


 そして、道中での会話でちょっとだけ仲良くなれました。だから、傍に居てくれないと不安だな。


「……あいつ」

「どの面下げて戻ってきた」

「あんなふざけた空間に行くために、我々から魔力をごっそりと持って行きやがって」


 街の人達の視線が痛いし、何をされるか分からないから恐いんですよね。するとその時、僕目がけて何かが飛んできます。


「!!」


 だけど、僕は咄嗟に重力魔法を放ち、それを弾き返しました……が。


「えっ?!」


 弾き返したそれは思い切り勢いよく飛んで行き、その先の建物を貫通させ、更にはその次の建物まで貫いて行きました。


 何この威力……僕、飛んできた物の周りの重力をちょっとだけ変えて、飛んできた方向に返しただけなのに、銃を撃った時の銃弾以上の威力になって飛んでいっちゃいました。誰にも当たってないよね?


「うわわわ……!! やっぱり化け物だぁ!」


 すると、今度は僕の後ろからそんな男性の声が聞こえてきます。

 あれ? 声は野太いし中年の男性みたいな顔をしているのに、行動が子供っぽいし背も子供みたいに低い。

 あっ……そう言えばリリンが言っていた。この世界の人達は、産まれた時はおじいちゃんみたいな容姿から産まれるみたいです。


 そこから背丈は成長していくけれど、容姿は若返っていくって言ってたっけ?


「もう、バカな事して。逃げるよ!」


「ちくしょう! 覚えてろよ!」


 こ、子供の姿をしていて、顔や肌が中年の人達がわらわらと集まってきて、僕に向かってそう言って逃げていった。


 あ、頭が……混乱する。なんなんだよこの世界。早く脱出したい……。


 そう思っていたら、今度はリリンが入っていった建物の上階の一部が爆発しました。本当……帰りたい。


「なっ、なにこの世界……」


 すると、その建物の入り口からリリンが戻ってきました。ちょっとだけボロボロになって……。


「けほっけほっ……お待たせ~」


「何があったの?」


「ん~パパに怒られた」


 ……多分説明を聞く限り、子供の姿をしているんだと思う。それなのに、まるで悪魔の子供が住む要塞に入っていかないといけないような、そんな変な感覚に囚われてしまいました。


 それにしても、リリンはある程度歳を取っているはずが、なんで言葉遣いは若いままなんだろう?

 考えても仕方がない、それもやっぱり人によるんだと思うから。


「あぁ、大丈夫大丈夫~客人のあなたには何もしないから」


「それなら良いんだけど……」


 そしてリリンはそう言いながら、不安になっている僕を建物の中へと案内して行く。とにかく、会わないといけないなら会わないと……命を取られそうなら直ぐに逃げる。


 僕は自分にそう言い聞かせながら、リリンの後に着いて行きます。


 その建物の中は意外としっかりとしていました。外見はぐちゃぐちゃなのに……中はちゃんと居住スペースが出来ていました。

 入り口入って直ぐの広いリビング、明かりはちゃんと電気があるみたいで、しっかりと照明器具から明かりが照らされている。


 1階には何個か個室があって、トイレやお風呂まである。この辺りは僕達の世界と変わらないね。

 だからこそ違和感がある。この建物はやっぱり、コンクリートで作られてはいない。粘土みたいな物だ。いったいどうやって作ってるの?


「ねぇリリン、この建物ってどうやって作ってるの?」


「魔法」


 ありきたりな答えが返ってきたよ。そうですね。ここは魔法があるからね。ただ、その魔法もなんであるのか聞いておきたいかな。


「その魔法って不思議だね。なんでこっちの世界の人達は、当たり前のようにそれを使ってるの? こっちには魔法なんて、数年前にはなかったものなんだよね」


 厳密に言うと、初めて魔法を使ったのは僕かもしれない。


「……へぇ、そっちの世界ではまだアレを見つけられてないんだ」


「あれ?」


「そう、世界の全てを構成する物質の1つ『オール』、これが魔法を使うのに必要なエネルギーを放ってるの」


 ……そう言えば僕の世界の方では、宇宙を構成する物質の半数は解明されていないって、そう言われてたっけ? ダーク・マターとか言われてたっけ?


 こっちの世界ではその内の1つが解明されていて、そのエネルギーが実用化されてるんだ……それはそれで興味はあるけれど、恐いな……僕にとっては未知の力なんだもん。


「あなたもさっき、無意識にそれを使って魔法を放ったでしょ? この物質はそれくらい、人間が無意識に体に取り込み、無意識に使いもせず外へ放出していたものなの」


 大きな2階の階段を上りながら、リリンは僕にそう言ってくる。

 つまり、向こうの人の体にはない何かが、こっちの人にはある。いや、こっちの世界に来たらそれが体に作られるのかな?


 良く分からないけれど、こっちの世界の方が科学とか進んでいたりするんだろうか? そうだとしたらビックリだよ。


「着いた。良い? パパはこの世界の帝王だから、くれぐれも対応には気を付けてね」


 そして2階の突き当たりの部屋に着くと、リリンは僕に向かってそう言ってくる。気付いたら着いていましたね。


 さて……どんな子供帝王が出て来るのか……僕は意を決してその扉を開ける。


「よぉ、お前がアンナの同位体か?」


 だけどそこに立っていたのは、身長2メートルは超える筋肉質な体格で、顔が幼い子供の顔付きをした、何ともアンバランスな男性が立っていて、僕に向かって子供らしい声でそう言ってきました。


 想像とはだいぶ違ったかも……中身は恐い人で、容姿は完全に子供だと思っていたけれど、体が全然子供じゃなかったですね。まるでボディビルダーの人みたい……。


「あっ……えと。あの……」


「んっ? あぁ、やっぱり混乱するか。向こうの世界とこっちは違うからな」


 あっ、僕が戸惑っていたら気付いてくれた。何だか悪いことした気分だけど……でも仕方ない、僕に取っては異様だから。


「この素晴らしい筋肉。向こうの世界ではあり得ないものな」


 違う、そこじゃない。マッスルポーズを取らないで……むしろボディビルダーの人ならそれくらい余裕でいますよ。


 でも言えない……違うとは言えない。うぅぅ……。


「さて、良く見るとやはり我が娘アンナと瓜二つだな。どういう状況で入れ替わったかはこちらも分からんが……アンナが向こうの世界に行ったとなると、いよいよ本格的に危ない事になるな」


 そして、その人はゆっくりとソファーに向かうと、そこにもの凄い勢いで座った……けれど、ソファーがぺったんこになってますよ。それソファーの意味ないから。どんな筋肉量なんですか。


「おぉ、すまんな。名前がまだだった、俺はハデス・オルガだ」


「あっ……えっと、高梨歩美です」


 その後相手が名乗ってきたので、僕も軽くお辞儀をしながら名前を言ったけれど、この人達は僕の事を女の子と思っているから、この名前を使わないといけません。屈辱的だけれどしょうがないよ……。


「うむ……それで歩美。君は向こうの世界にいる奴等の事、どこまで知っているのかな? 私はそれを知りたかったんだ。こっちは緊迫した状態だからな」


「ど、どういう事ですか?」


 僕はそう言いながらも、帝王オルガに座れと進められたので、相手の正面に置いてあるもう一つのソファーに座……ろうとしたけれど、座れませんでした。気が付いたら天井に頭をぶつけてましたよ。


 なに? 座った瞬間お尻にもの凄い衝撃が……!!


「むっ? 少し強すぎたか? ハイパワースプリングソファー」


 普通のにして下さい、普通のに! なにそのインナーマッスルが鍛えられそうなソファーは!


「僕は普通の人です!」


 とにかく天井から落ちた後に、お尻を擦りながらそう言います。真剣な話が来ると思ったから、余計にビックリしたってば……もう。


「パパ……歩美を困らせない。お姉ちゃんの手がかりになるかも知れないんだからね」


「分かっている。お前は地下のトレーニング室でトレーニングをするんだ。ヒョロヒョロの体を少しでもマシにしろ!」


「嫌!」


「愛のシャイニングスパークを食らわすぞ!」


「それもやだ!! 何時までも子供扱いすんな!」


 何この親子げんか……微笑ましいけれど、今の僕にはちょっとキツいよ。僕は、自分の両親にもう会えないかも知れないんだからね……。


「むっ……いかん。そう言えば歩美は……」


「あっ、大丈夫です。それよりも、奴等って?」


 なんだか気を遣わせてしまいました、この世界の帝王さんに。だけど、なんだか帝王っぽくないんですよね。どういう事だろう?


 なんであんなに皆に嫌われているんだろう。見た目はともかく、いい人かも知れない。魔力を取っているのも、致し方ない理由があるとか?


「んっ、そうだな。親子のじゃれ合いは後にして、本題に入るか」


 あっ、リリンが身震いした。よっぽど嫌なんだね。


「奴等とは、君も聞いた事があるだろう。魔法少女機関MGOだ」


 やっぱりだ……出て来た、魔法少女機関。

 なんでこんな異界の世界にもあるのか。そもそも全く別物なの? 組織も同位体があるのなら、国とかも同じような感じなのかな。


 もう僕の頭の中は、ぐるぐると同じ事ばかりが巡っていますよ。そして更に、オルガさんからとんでもない言葉が飛びだしてきました。


「奴等魔法少女機関は、全人類を犠牲にしてでも倒さねばならないものがあるらしい。それが何かは分からないが……鍵になっているのは原初の人間らしい」


「原初の人間……」


「君の同位体アンナは、それを探しに危険な歪みの空間に足を運んでいたのだ」


 聞いた事があるようなないような……原初の人間……神話だったかな……いや、違う。思い出した! もっと身近な存在の人でいるじゃないか!


「それって、アンナがその子を見つけたらどうなるの?!」


「んっ? そりゃぁ……その人間の力を使い、魔法少女機関が倒そうとしているものを倒そうとするんじゃないか?」


「……それで世界征服とか……」


「小さいな。アンナはそんな事はしない。ただまぁ……君の周りの人間を服従させようとはするだろうね」


 駄目だぁ!! それに、魔法少女機関が狙っているものって、良くないものの気がする!


 原初の人間って、あの子で間違いないと思うんだ。原初の魔法少女と言われている……向こうの世界のリリン。


 こっちの世界のリリンでも良いのかは分からない。でもそれなら、アンナはとっくにこの子を使って目的を達成しているはず。だけど出来なかった。だから、向こうの世界のリリンで……!


 魔法少女機関……アンナ……その2つからあの子を、リリンを守らないといけなかったんだ!!


 それなのに、僕はこんな異界に飛ばされて……大変だ、早く元の世界に戻らないと!

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