第11話 異界の街

 平行世界に迷い込んでから、色々な事がありすぎです。

 とにかくこのリリンは、僕の世界のリリンとは別の世界のリリンということですね。同位体と言っていても、育ちで性格が変わるんですね。


 それじゃあこっちでの僕、アンナは僕と同じ容姿なのかな? でも、僕は男だったんだよ……同位体とは言えないじゃん。


「まっ、多少のズレはあるのよ」


 僕が疑問に思ったことを言ってみたら、リリンがそう答えて来ました。性別が違うのって、多少のズレになるのかなぁ……?


 そして、リリンとアンナは姉妹らしいんです。という事は、僕と向こうのリリンとも兄妹? そんなわけはないです。人間関係にもズレがあるらしい。


 同位なのは体だけですか? それって本当に同位体って言うのかなぁ? 面倒くさいからそう呼んでるじゃ……。


『歩美、そろそろその空間から離れるみたいだね。多分、その空間内じゃないと私は声を届けられないみたい』


 すると向こうの世界のリリンが、また僕の頭に直接話しかけてくる。

 僕のその名前は誰から聞いたのかなぁ……無事にそっちに戻れたら、犯人を聞き出して怒っておかないと。


 とにかく、今僕はこっちの世界のリリンに連れられて、この空間から出るために移動をしています。

 校舎から出たら荒野が広がっていてビックリしたけれど、確かに別世界にやって来たんだって実感しました。


「大丈夫……またこの空間が出来たら行けば良いよね」


「化け物がウヨウヨいるこの空間に? バカじゃないの。お姉ちゃんじゃあるまいし」


「うっ……」


 校舎から出る間に聞いたけれど、どうやらアンナはこの空間の謎を調べるべく、積極的にこの空間に足を運んでいて、遂には空間が消えるタイミングを逃してしまい、空間の歪みの中に消えていったらしいんです。


「……この空間の中に、もしかしたらお姉ちゃんがまだ居るかも知れないと思って来たけれど、現れたのは別世界の方のお姉ちゃんか……そして、お姉ちゃんは向こうの世界に……」


 この別世界と、僕のいた世界が入り混じった歪みから出ると、こっちの世界のリリンがそう言ってくる。

 こっちの世界とか向こうの世界とかややこしいな……別の呼び方はないかな?


 そしてその歪みから出た瞬間、校舎が更にぐにゃぐにゃに歪みだし、薄くなっていく。消えるんだ、僕の世界と僅かにでも繋がっていた空間が……。


『それじゃ……気を付け……て』


 そして、向こうの世界のリリンの声も、それを最後に途切れてしまいました。

 ここからは正真正銘、見知らぬ世界に僕1人……なんだか心細いけれど、やるしかないんだよね。元の世界に戻るために、僕は頑張らないと。


「うん、それじゃあリリン。君の住んでる所まで案内してくれる?」


「分かってるわ。ついでに私のパパにも会ってもらうわね」


「パパ?」


「うん、この世界に存在する国、その全てを纏めているんだ」


「……それって凄い人なんじゃ……」


「そうだね。帝王って呼ばれてるね」


 そう言えばアンナも、異界の帝王の娘って言ってたっけ……いきなり重要人物と接触ですか?!


「ちょ、ちょっと待ってよ……いきなりそんな凄い人と会って良いの?」


「うん。むしろ会ってもらわないと、その街に滞在出来ないんだよね」


 そんな……逃げられないんですか? あ~どんな恐そうな人なんだろう……あれ? なにか忘れているような。

 ううん、今はとにかくリリンの後に着いていって、その帝王とちゃんと会話出来るように、イメージトレーニングをしておかないと。


「あっ、お姉ちゃんそこ危ない!」


「えっ? うわっ!!」


 すると、突然リリンが僕を突き飛ばして来た。何をしてくるのと思ったけれど、次の瞬間僕の目の前に網が降ってきました。危ない……いったい誰が?


「ちっ……外したか」


「ですがお頭、2人とも上玉ですぜ」


 何この展開……まるでゲームみたい。


 一面広がる荒野に所々ある大岩、その中でも背の高い岩柱の上から、スキンヘッドの頭をしていて、厳つそうな棘がいっぱい付いた服を着た男性達が、僕達を見下ろしていました。

 だけど、その距離が割と遠い。ここから何とかギリギリ見えるくらいだよ。そこから網を放ち、僕達を捕まえようとしてきたの? それも魔法で可能なのかな?


「何あいつら……まだあんな人攫いとかいるんだ。パパが絶滅させたのに」


「ぜ、絶滅って……」


 凄く物騒な言い方しないでよ。そしてリリンから出て来る怒りのオーラが凄く恐い。ついさっき僕にも向けられてたからね。


「へっ、言ってろ。この世界がこの状態のままである限り、俺達人攫い稼業の人間達は減らねぇぜ!」


「あっそ……ルミナス・グロブス!」


『なっ……ぎゃあぁぁぁあ!!』


 すると、大岩の上から僕達を狙っていた男達に向かって、リリンは巨大な光の塊のような砲弾を投げつけました。

 それは、いったい半径何キロを吹き飛ばせる程なんだろうと思うほどに、巨大なものでした。だから、人攫いの男達も為す術なく吹き飛ばされます。


 ちょっと待って、姿まで見えなくなったけれど、もしかして殺したんじゃ……。


「こ、殺したの?」


「流石にそんな簡単に殺しはしないよ。こっちにだって、勝手に人を殺したらいけないルールくらいあるから」


 それは良かったけれど、ルール……ですか。この世界に法律はないのかな? でも、わざわざそう言ったということは、このリリンは僕達の世界の事を多少知っている。


 でもどうやって……それが分かれば、僕のいた世界との接点が生まれる。ここから帰る方法も見つかるかも……。


 そして僕は、再び歩き出したリリンの後を着いていきます。


 ―― ―― ――


「やっと着いた~さぁ、ここよ。私が住んでいる街。そして私の

パパ、帝王がここで世界の情勢を見ている街。確か世界最大の都市のはずよ。さっ、行きましょう」


 そう言って、リリンは後ろにいる僕の方を振り向いてくる。

 僕より年下に見えるけれど、振り向くときにワザと片足を軸にして回転してくるなんて……ワザとやってるのかな?


 それにしても、荒野のど真ん中に急に茶色っぽい、粘土色をした建物が現れましたね。

 しかもビルみたいな高い建物まであるよ。あれは人が住む所なのかなぁ……。


 そして、僕が呆然と街の様子を眺めている間に、リリンは先に行ってしまいます。


「ちょっと待ってよ~」


 とにかく、僕は慌ててその後を追いかけます。

 それにしても、この街の建物って土で出来ているの? レンガでもない、コンクリートっぽくもない。本当に粘土みたいな物を使って、それで家を作ったような感じがする。


 たまに屋根の先が曲がってるのがあるんだよね……なんだろうね、あれは……。


「おっ、リリンちゃん。無事だったのか……」


「あっ、おじさんただいま」


 すると今度は、さっきの建物と同じような様相の建物から、体格のしっかりとした男性がリリンに話しかけた。

 そう言えばここって、道路もないから車もないみたいだ。凄く近いところに存在する平行世界なのに、こうも違うのっておかしくないですか?


 本当にここは平行世界なの? もしくは、何か理由があるのかな?


「本当に無事で良かった。直ぐに親父さんに報告するんだ」


「うん、分かってる」


 そう言うと、リリンはその人に軽く手を振り、また先へと歩いて行く。さっきの人はある程度親しい人なのかな?


「…………」


 そのまま歩いて行っても良かったけれど、ちょっとあることに気付いちゃいました。それが気になって、僕は無言で辺りを見渡して見る。


 やっぱり……皆リリンから距離を取っている。しかもそれが露骨ですよ。

 さっきのおじさんは話しかけてはいたけれど、なんというか、話しかけないとマズいことになるって、そんな感じの顔でしたね。


 リリン……君は嫌われてるの?


「ふふ、帝王の娘とか言われても、パパがやったのは相当だからね~」


 すると、僕の様子を見て勘づいたリリンがそう言ってくる。


「どういう事? 君の父親が何かしたの?」


「ん~元々この一帯はね、魔力が豊富な土地だったの。もっと緑があって、土にも栄養がしっかりと行き届いていて、肥えた大地だったのよ」


 それがなんで、こんな枯れた大地みたいになってるのかな? まさか……。


「魔力税……パパはこの世界を牛耳る時、全ての国に対してこの税を設けたの」


「それって……」


「その国の魔力を、魔力濃度で決められた分パパに納付するの。その国が国として維持するために、パパに対して反乱を起こせないようにするために……」


 確か江戸幕府も同じ事をしていなかったっけ? 参勤交代とか……色々ね。なんだかそれと似たような感じなんですね。

 ただ、こっちは魔力なんだね。しかも、大地を潤していた魔力すら納付しろなんて……そりゃ嫌われても当然かな?


「アンナ……」

「アンナだ……」

「あの子まで帰って来ているなんて」

「最悪だ……災いをもたらしているくせに……」


 あれ? どういうわけか僕には殺気が向けられているよ。ちょっと、僕はアンナじゃないってば!

 でも、同じ容姿をしているんだよね。それなら間違うのもしょうがないけれど、自分じゃないのに自分が責められるのは嫌な気分にはなるよね。


「ごめんね……私のお姉ちゃんの事なのに、嫌な思いさせちゃって」


「んっ、いや……大丈夫。平気だよ」


「そう……そういうところは強いんだね」


 微妙に褒めてなさそうな気がするんだけど、気のせいかな?


 とにかく、この街は凄く居心地が悪い。全体的に暗いしね。

 今は太陽が上ってるから昼間なのに、どうも日が落ちる前のあの暗さに近いです。


「あっ、そう言えばあなたの名前聞いてなかったね。でも、だいたい同位体なら同じ名前が多いけど……」


「えっと……違うんです。僕は、す……歩美です」


 危ない危ない。普通に男子の名前を言いそうになりました。

 こっちの世界でも、性転換は普通じゃないかも知れないから、ちゃんと女の子しておかなきゃ……あれ? という事は、僕はしばらく男の子みたいな行動が出来ないの? 嘘……でしょ? 出来るかな……。


「歩美ね。分かった」


 うぅ……大丈夫かな。不自然に思われないかな……?


 そう思いながら歩いていると、僕の視界の端に、少し不思議な建物が見えました。気になってそっちの方を見てみると、その建物は、この街の他の建物とは違っていました。

 しっかりとしたコンクリートで出来た、真四角のビルみたいな建物です。そしてその建物の中央には、変なエンブレムがありました。


 3本の杖がその先を重ね合わせているもの。まるで魔法使いを連想させるようなエンブレムだね。


「あっ、その建物気になる? 他とは違うもんね。でも、近付いちゃ駄目」


「なんで?」


「そこは魔法少女機関MGOの建物だからね」


 今なんて言いました?


「えっ? なんて言いました?」


「ん? 魔法少女機関MGOの建物だけど?」


 魔法少女機関?! 間違いない、ハッキリとそう言った!


 なんで、なんでこんな平行世界っぽくない異界に、魔法少女機関があるんですか?! 僕のいた世界の機関と一緒なの? それとも全く別物?


 し、調べないと……なんだか知らないけれど、僕のいた世界と同じ魔法少女機関なら、なんで2つの世界に同じ機関があるのか、それを突き止めないといけません。


 それが分かれば、魔法少女機関が本当にやろうとしていることが分かるかも。そうしたら、大輔達をそこから抜けさせる為の、強力な説得材料が出来るよ。


 よし、やってやる。危険だろうとなんだろうと、この機会は逃さないよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る