第5話 突然の訪問者

 僕の家に突然やって来た花音を自分の部屋に上げて、いつものように僕がベッドに腰掛け、花音はその正面の机の椅子に座ります。

 なんだかソワソワして落ち着かないみたいだから、重要な話でもありそうですね。大輔の事かな?


「それで? どうしたのいきなり」


 本当にいきなり過ぎてビックリしました。よりにもよって女の子の服を着せられた時に……。

 今はカッターシャツと長ズボンだから良いけれど、あの時の映像は出来たら忘れて欲しいです。


「ん~えっとね……あっ、さっきのは大輔に言わないでおくから」


「ありがとう」


 そう言うと、花音は視線を落としてまた黙ります。


「話しがあるんでしょ?」


「あっ、うん。えとね……あっ、進さっきの服似合ってたよ」


「それは嬉しくないです……」


「あっ、ごめんね……」


 また黙っちゃった。花音がなにを話しに来たのかもう分かってるけどね。


「あっ、今日天気良いね」


「大輔の事でしょ! もう!」


 花音がなかなか話そうとしないから、つい叫んじゃいましたよ。


「えっ……なんで……」


「あんなに大輔に引っ付いて、大輔に話しかけられたら満面の笑みになってるのを見たら、誰だって分かるって。気付いてないの大輔だけだと思うよ」


「うぅ……心忍にも言われた。大輔は鈍感だって」


 そう言って花音は肩を落とすけれど、悪いのは大輔だからね。


「私、魅力ないのかな~って思ってたけど、やっぱり大輔って鈍感なんだね」


「そうだね」


 だって僕に引っ付いても、女の子になっちゃった事にすら気付かないんだもん。鈍感過ぎます。


「うん、やっぱり決めた。大輔に告白する!」


「えっ……だ、大胆だね」


「ん~ずっと前からしたかったんだけど、変わらず過ごしてきた皆との絆が壊れるかもって思うと……ちょっとね。でも卑怯だな~心忍と付き合ってたなんて」


「えっ……あっ」


 そう言えば誤魔化す為にそう言ってたんだった!


「それでも昔と変わらずに過ごせてるって凄いよ。ううん、本当は何も変わらないのに、私が勝手に恐がってただけだね。心忍と進を見て決心が付いたよ」


 心忍、僕達が背中押しちゃいましたよ……でもね、それで変わっていきそうで恐がっているのは僕もなんです。だって、心忍と付き合ってるわけではないんだから。


 このまま花音と大輔が付き合ったりなんかしたら? 僕達4人で遊ぶことはもうないかも……大輔とも……。


 あれ……? どうして? なんだか息苦しくなってきて、心臓が痛い。胸が締め付けられる。なんでこんなに嫌な気持ちになるんだ。


 分かってる、花音の事を諦めきれてないから。駄目だよ僕、これでスッパリ諦めないと。大輔だってOKするに――


『あいつが女だったらモロ好みなんだけどな』


「進?」


「はっ……!! あっ、大丈夫。それで、どうやって告白するの?」


 危ない……花音が僕の所に来て、僕の顔を覗き込んでいたよ。今の表情見られてないよね? 凄く焦ってしまったかもしれない。嫌な事を思い出しちゃったから。

 大輔が断る事はないと思うけれど……でももしかしてなんて思っちゃうと……嫌な予感がしちゃうんです。


 でも大丈夫だよね、大輔。ちゃんと僕を諦めさせてくれるよね?


「それで、もう直球で行こうかな~と思って」


「あ~大輔鈍感だし、ハッキリと言わないと駄目だろうね」


「だよね。でもその時、もう少し可愛い服の方が良いのか、綺麗系の方が良いのか分からないの。大輔ってどっちが好きか言ってないから……」


 確かに、それは僕も聞いたことないですね。だから僕も、首を傾げて考えます。過去にそれっぽいことを言ってなかったかどうかをね。


「う~ん。駄目だ、僕も聞いた事ないや」


「でも、私は可愛いのは似合わないと思うし、ちょっと清楚なのでいこうかな」


 花音は明るくて気さくな性格だし、可愛いのも似合うとは思うけど、確かそういうの1着も持ってなかったんだよね。


 すると突然、花音のスマホが鳴り響きます。


「あっ、ごめん」


「んっ、大丈夫」


「もしもし、えっ? 由利さんと沙織さんが?! うん、うん、分かりました。今から行きます」


 もしかして、さっき僕が戦ったあの2人の魔法少女の事かな? まさか、超人の人達が殺しちゃったとか?


「ごめん進、私の仲間の人が大怪我しちゃって。今からお見舞いに行ってくる」


「えっ?! 大怪我って……花音達がやってることって、そんな危険な事なの?」


 そして、僕は花音の言葉にそう返す。

 大丈夫かな? ちゃんと何も知らないフリできてるかな? 花音は1度は僕を疑ったから、もうミスは出来ないんだよ。


「……今回が初めてだよ。大怪我なんて……」


 だけど、花音は悲しそうな表情を浮かべて立ち上がります。そして、そのまま部屋の扉に向かう。

 でも、まだ油断しちゃ駄目。それに、魔法少女を止めてもらうには今がチャンスかも。


「そんなに危ないなら、魔法少女として戦うのは止めたら?」


「進、それは無理。魔法少女は私にとって生きがいなの。大輔と一緒にいられる、心忍と一緒にこの町を守れる。進や友達を守れるの。それが私にとって本当に嬉しい事なの。だからたとえ危険でも、私は魔法少女を止めない」


 その魔法少女自体が危険かも知れないんだってば……それなのに魔法少女に命を賭けられるの? この町を、僕や友達を守るのに、君は命を投げ出すの?


 それは僕が許さない。


「それじゃ、続きはまた今度ね。お休み」


「んっ、お休み」


 気付いたらもう日が落ちていましたね。外は暗くなってます。

 でも、花音は多分この近くの大きな病院に向かうはず。それなら……。


 そして花音が部屋から出て行き、僕のお母さんに挨拶した声を聞いた後、僕はゆっくりと立ち上がり、部屋の窓に向かいます。ここから玄関先が見えるからね。

 丁度花音が玄関から出て来た所で、僕に向かって手を振ってきてます。だから僕も振り返す。


「……なにか考えてる顔だね」


「いきなり部屋に入って来ないで」


 その後直ぐに、Dr.Jが僕の部屋に入ってきて、僕に向かって話しかけてきた。せめてノックくらいして下さい。


 でも丁度良いや、こいつに頼みがあるからね。頼むの嫌だけどしょうがない。きっと病院の中に入るのは大変そうだから。

 魔法少女には気軽に会いにいけない。友達の友達だからって、安易に会いに行く事が出来ないのも魔法少女の特徴です。


 僕は3人とずっと幼なじみだったからだけどね。でも、花音の仲間には会えないって言われました。その時は厄介だと思っていたけれど、今にして思えば何か変ですね。


「Dr.J、怪人を何体か貸して」


「……何に使うのかな?」


「花音の仲間が入院している病院に、潜入をするための囮」


「怪人を生み出すのも楽じゃないんだよ」


「分かってる」


 でも別に、怪人がどうなろうと僕は知った事ではないよ。だけど、そこは隠さないと貸してくれないからね。


「しっかりと偽物の魔法少女に植え付けてくるから。政府への不信感をね」


「……良いだろう。ただし2体が限界だよ」


 2体か……キツいですね。それでも何とかなるとは思うけど、せめてもう1体欲しかったかな。


 ―― ―― ――


 花音が病院に向かってから数十分後。準備を済ませた僕は、花音の仲間が入院している、とても大きな病院へとやって来ました。

 辺りはもうすっかり真っ暗です。月が出ていても、なんだか夜の病院って独特な雰囲気だよ。


 ただ、まさかその病院がこの町とは思わなかったですけどね。怪我をしているから、怪人が良く出る所は避けたのかな?


「……プリティ・チェンジ」


 そして、入り口近くの木の陰で身を潜めている僕は、そう言って魔法少女に変身します。

 あとは怪人達が作戦通りにやってくれれば、僕は病院の内部に侵入出来ます。頼みますよ。


「ゲッゲッゲッ……」


「おい、上手くやれよ」


「ゲッゲッ……あぁ、任せとけ」


 すると、そのまんまカエルの姿をした怪人と、甲虫の様な姿をした怪人がどこからか現れ、病院に近付いていく。よし、ちゃんとDr.Jは怪人を送り出してくれました。


「そんじゃ、病院にいる奴等を……ぎゅえ?!」


 えっ? 何が起きたの?!

 カエルの様な姿をした怪人が、病院の開いてる窓に向かって、その長い舌を伸ばした瞬間、身体を真っ二つにされちゃいました。


「ぬっ……」


「悪いな……仲間が入院してんだ。ここを通すわけないは行かないんだよな」


 そして、暗闇の中から薄らと人影が見え、声が聞こえてくる。でもこの声は……大輔だ。


 嘘でしょう……ここを守るために大輔が……。


「ちっ、いきなり真っ二つとはな。だが、俺の甲羅はそう簡単には斬れんぞ」


「だろうな。無理したら刃こぼれしそうだぜ」


 そう言いながらも、大輔は構えた大きな剣を下ろさない。身の丈ほどもあるこの大剣を、大輔は簡単に振れるんだろうな。


 それに比べて僕は……なんて浸ってる場合じゃないです。今の内に病院に潜入しないと!


 ―― ―― ――


「お邪魔します~」


 それから誰もいないのを確認して、僕は病院の裏口に回ると、そこから中に入って行く。仮面は付けているから、見つかっても逃げるか倒せば良い。


 さて……花音はどこにいるのかな? その仲間が入院している病室が分かれば良いんだけど……。


「一部屋一部屋探すしかないですね……」


 でも一般病棟にはいないと思う。だったら個室から調べていきます。個室は4階と5階になってますね。先ずはそこからだね。


 そして、僕は常夜灯だけの病院の廊下を進み、上に上がる階段を見つけます。看護師さんに見つかったら駄目だし、ゆっくりと歩かないと……。


 ただ、そのまま何事もなく4階に着きました。何も起こらない……逆になさ過ぎて恐いんですけど。あれ、もしかして僕って罠にかかった感じ?


 するとその時、4階の病室の方から花音の小さな声が聞こえてくる。

 今僕がいるナースステーションの前から病室は近いけれど、病室の声ってそんなに聞こえないはず。と言うことは、部屋の扉を開けてるの? もう帰るところ? しまった、もう少し早ければ……だけど、様子を見るために近付くだけなら……。


 そして僕は、ゆっくりと花音の声のする方に歩いて行く。

 すると、最初の角を曲がった廊下の先から、明かりが漏れてる病室があった。扉が少しだけ空いてましたね。不用心だなぁ……。


「沙織さん……由利さん」


 するとその病室から、花音の心配する声が聞こえてくる。この病室だね……。


 さて、平常心だよ僕……花音に政府への不信感を持たせるには、

ハッキリとした事実を突きつけないと駄目。それも、僕だってバレないようにね。


 そして僕はその病室に飛び込み、取り出した小悪魔みたいな杖を前に突き出す……が。


「やぁ、いらっしゃい。やっぱり来たね、高梨進君」


 扉の直ぐ近くに立っていた、スーツ姿の男性に銃を突きつけられました。そして真正面には花音の姿が。


 更には、今日僕が戦ったあの2人も、平気な顔をして立っていました。

 やっぱり罠だったんだ。しかも僕の名前まで……いったいどういう事かと思ったけれど、この状況で考えられるのは1つだけでした。


 2人が怪我したというのは嘘で、花音が一芝居して僕をここに来させるように仕向けた……しかも、同時に僕の正体まで暴くつもりで。

 だって2人の怪我が嘘なら、ここにこうして怪人が襲ってくるのは、僕が呼んだという事に他ならないから。


 あの場で2人の怪我の事を聞いたのは、僕だけだろうしね……。


 言い訳不可能……大怪我と聞いて冷静さを欠いていました。

 それにまさか花音が、まだ僕の事を疑っていたとは思わなかったよ。ただ、あの相談もフェイクだとしたら相当手が込んでるよね。


「進……信じたくないけれど、進……なんだよね」


「…………」


 そして、花音は真剣な表情で僕を見て言ってきます。どう答えよう……どうやって逃げよう。

 心臓の音が激しくなって、手汗も酷くなっていって、正直今すぐにでもここから逃げ出したいですよ。だけど、銃を突きつけられているから無理だ。

 しかもスーツ姿の男性が、そのまま病室のドアを閉めて鍵をかけたから、どっちにしても逃げられない。


 これ……まだ誤魔化せないかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る