第4話 取り込まれる
僕は今、自分の家にいるのに自分の家にいる感覚じゃなくなってきています。原因は目の前の奴。Dr.Jだ。
なんで僕の家にいるの!
「おいおい、そう睨むなよ。君の体の事がバレない為にも、色々と誤魔化さないといけないが、その為には君が自分の家にいてくれないと駄目だったんだ」
今更ですか……今更そんな事。だけどまだ不完全だよ。だって、僕のお父さんとお母さんがまだ捕まって――
「あら進、帰ってたの。お帰り」
「ただいまお母さ……」
お母さん?!?!
「えっ?! お母さん! ちょっと、捕まってたんじゃ!」
普通に二階から降りてこないで下さい! 洗濯物でも取り込んでいたんですか?! でも間違いない、ちょっとふくよかで僕より長めの濃い茶髪は、間違えようがないです。
「なに驚いてるの? まだ捕まってる状態でしょうが……」
「出来るだけ普通に頼むよ」
するとDr.Jが、僕とお母さんを見ながらまた気持ち悪い笑みを浮かべてくる。そうだ、こいつがいる限り捕まってるも同然だ……。
「だけど……無事で良かったわ、進」
「……お母さん」
そして、お母さんは僕をしっかりと抱き締めてきます。それが温かくて、嬉しくて、僕はちょっと泣きそうになってしまいました。
やっぱり、まだ未成年の僕が悪い奴から親を取り返すなんて、そんなの無茶でした。
「ごめんなさい……あなたにばかり押し付けてしまって」
「ううん、お母さんだって痛い思いをして……」
「えっ? 別の部屋に監禁はされてたけれど、別に何もされてないわよ」
「えっ……?」
あっ、Dr.Jがもの凄い満面の笑みを浮かべている。もしかして、最初に見せられたあの映像ってフェイクだったのか! やられた! 何もかも完全にやられた!
という事はお父さんも……。
「おぉ、進……帰ってきたか」
奥の部屋からのっそりとやって来ました。やっぱり無傷です。
空手をしていているからガッシリとした体型で、短髪の黒髪からは少し白髪が出て来ている。
まだ50歳くらいないのに白髪が出ているのは、苦労しているからだと思う。だってこの前聞こえてしまったんだ、借金があるって事を……。
それでも僕に何も言わないのは、心配をかけない様にだと思う。だから、僕もいつも通りにしている。
「お父さんも、なにもされてなかった?」
「当然だ。俺を誰だと思ってる」
そして僕の言葉に、お父さんはそう答えてきた。
そうでした……怪人が襲ってきても、得意の瓦割りで脳天叩き割るよね。
「だがそれでも、俺達は捕まっている状態なんだ」
「分かっています」
お父さんはそう言うと、Dr.Jと相対している僕達の所に来て、そのままそいつを睨みつけます。お母さんも、僕の後ろから僕を抱き締めてきています。
あの……僕はもう高校生なんで、そこまでしなくても良いってば……。
「なるほど、家族は素晴らしいのだが……進君、いや、歩美ちゃん。胸元は確認した方が良いかもね」
「へっ……? あっ……」
なんだか胸元に変な感触があると思ったら、後ろから誰かが僕の胸に手を突っ込んでいました。
いや、もうお母さんなのは分かってる。そしてその時、僕の嫌な過去が蘇っちゃいました。
お母さんは僕が子供の頃、女の子の服とか凄く良く着させていたんです! 嫌がっても無理やりね!
「進……歩美……く、悔しいけれど良い名前。母さんね、ずっと女の子が欲しくて……女の子みたいな進を見ると……いっそタイに行ってオ〇ン〇ンをと……そう思っていたの」
「だめぇ!!」
そんな危ない事を考えていたんですか!
「あぁ、完璧な女の子になって……これで堂々と、公然で女の子の服を着させる事が出来るわ!」
「お母さん! 敵の策略だよ!」
しまった! こうやって僕の両親を抱き込むつもりだ! そんな事をされたら、僕は本格的にこいつから逃げる事が出来なくなる! 密かに進めていた計画も、半分パーだよ!
「ちょっとお父さん! お父さ……」
「ふっ、ふふふ……これだけあれば借金を返して、更に夜遊びまで」
お父さんも駄目でした! 単純に買収されてました……。
どうなってるの……2人とも捕まってたんじゃないの?!
「いやぁ、実は君に見せていた映像は、怪人の中に変身が得意な奴がいて、そいつに君の両親に変身して貰い、君に見せていたのさ。その間にご家族の説得をね……」
Dr.Jがそう言ってきてから、僕は両親を睨みます。
僕が辛い思いをしていたのに、本当は2人は何をしていたんですか!
すると2人は僕の肩を掴み、そのまま僕を奥の部屋へと連れて行きます。
「歩美、あの男は普通じゃ捕まえられないわよ。警察に通報したところで、その警察もまともに動いてくれなかったわ」
「俺達もバカじゃない。理不尽な事をされて黙ってる親なんていやしない」
「お父さんは良いけれど、お母さんは信用出来ないんですけど……」
「あらやだ……」
だって今も胸揉んでるし。僕の事を歩美って言っちゃってるし!
「母さんは仕方ない。とにかく俺達は、あいつに屈したように見せているんだ。分かれ」
「お父さん、さっきのあれは心からの笑顔でしたよね?」
「……取るものは取らせて貰う。それだけだ」
どうだか……必死に僕の肩を掴んでいても、さっきまでの行動を見ているとどうも説得力がないんですけど。
「とにかくあゆ……進。あなただって、あいつに屈したように見せているんでしょう?」
またお母さんが歩美と言いそうになったから、思い切り睨んでおきました。
「あなたも何か作戦を立てている。違うかしら?」
「そんなわけないよ」
ただ、お母さんの言葉には直ぐにそう返事しました。Dr.Jはこの会話も聞いているに違いないんだ。だから、僕は否定しないと駄目なんです。
でも分かるよね? 僕の両親なんだから、それぐらい伝わってるよね。僕がある策略をしている事くらい……。
「よし、それなら良いんだ」
「そうね……それには先ず、やらなきゃいけないことがあるのよ、進」
「やらなきゃいけないこと?」
「これよ」
そう言ってお母さんが取り出したのは、小さめのサイズのブラジャーと、女の子用の下着でした。冗談だよね?
「あの……僕のこの体はバレちゃいけないんですよ」
「あら、家の中では女の子でいなさい。それにブラジャーを付けてないと痛いでしょ」
「痛くても我慢するってば。そのまま擦れて削れていって、男に戻れるかもしれないじゃん!」
「そんなので戻るわけないでしょう!」
「戻れるかもしれないじゃん!」
気付いたらお父さんはさっきのリビングに戻ってます。もう何というか、そこから先は勝手にやってろって感じです。
そしてお母さんは、女の子の下着一式を手にしてジリジリと僕に迫ってきます。
それを回避するために、僕はお母さんを正面に捉えたままで、ゆっくりと後ろに下がっていきます。隙があればそのままこの部屋から退散して、家の外に逃げれば良い。
「観念しなさい歩美ちゃん~」
「その名前では呼ばないで!」
「それじゃあ、
「却下です! 女の子の名前は全部却下です!」
「そう、だけど下着は付けさせなさい!」
「それも嫌です!」
真正面から突進してきた! でもそれは、横に避けて回避!
だけど、お母さんはそのままその場で踏み止まり、避けた僕の方に急に方向転換し、再び突進してきます!
「女の子の下着を掃きなさい!」
「息子になんて事を言うんだ!」
だけど、それも僕はギリギリで横に跳んで回避! ただその時、バランスを崩して倒れちゃいました。でも、お母さんも急には反応が……。
「ふふふ……歩美ちゃん~お着替えしましょうね~」
なんで立ってるの? えっ? あれ……突進したんじゃ……。
手をワキワキさせて近付かないで……なんで突進してないの? まさか突進するふりして腕を伸ばしただけ? や、やられた……。
「お、お母さん……やだ、待って。僕男の子……」
「小さい頃は良く女の子の服を着てたじゃない~」
「無理やり……無理やりです!!」
「あ~ら、満更でもない顔してたくせに~」
「してませんしてません!!」
「問答無用~!」
「あ~!!」
そして、僕はお母さんに捕まってしまい、制服を全部脱がされて女の子の下着をつけられ、ワンピースタイプの薄いブルーの色をした服まで着せられてしまいました。
うぅ……僕の男の尊厳が……。
―― ―― ――
「あ~ら、可愛い~歩美ちゃん!」
「もう良いですか?」
その後、女の子の服を着せられてしまった僕は、母の写真撮影でその情けない姿を収められてしまっています。
ただの罰ゲームだよこれ……小さい頃の悪夢が蘇ります。この後色々とポーズをさせられるんだよ……もう。
「ふふ、良い親御さんだな」
そしてそれを見て、Dr.Jが人を馬鹿にしたような笑みを浮かべてきます。こいつは本当に許さないよ!
僕の体を戻したら、そのまま警察にしょっ引いて一生牢から出せないようにしてあげる。
「可愛いよ」
「リリンは何でアイス食べてるの?」
「これ美味しい」
美味しいじゃなくて……しかもDr.Jから新しいアイスを手渡されているような……。
「逃げずに大人しくしていれば、もっと美味しいものを上げるよ」
「本当?!」
「食いつかないで! リリン!」
まさかリリンも食べ物で買収されるんですか?!
だけど、リリンは新しいアイスを受け取ると、僕の方を見てくる。しかも真剣な顔付きで。
「今焦っても、こいつに勝てる気がしない……それに、私は記憶がない。ただこいつは、私の過去を知ってそう。だから……」
あぁ、アイスが溶けそうだから慌てて食べてるよ。落ち着いて食べたら良いのに。
「今は大人しくしている。そして牙を研ぐ」
「……言ってる事は分かるけど……」
その間に、こいつが自分の目的を達成させたらどうするの? 取り返しのつかないことになったらどうするの?
それが僕を焦らせちゃうんです。でも別に良いよ、皆がそうするなら、僕は僕で勝手に動くだけです。
今心忍が色々と調べてくれているところだからね。今に見ていろ……情報を集めてお前の弱点を見つけてやる。
「ほら歩美、もうちょっとスカートの裾を持って」
「ん~」
「そのままスカート持ち上げて」
「ん…………って、なにやってるんだよ!」
危うく刺激的な写真を撮られるところだったよ! なにやってるんですか、お母さん!
「もう、別に良いじゃない」
「良くない!」
とにかくこのままリビングにいても駄目だ。晩御飯まで自分の部屋に籠もろう。
お父さんはお父さんで何処か行っちゃったしもう……どうなってるの、僕の両親は……。
そして僕は、そのままリビングを出て二階に上がろうとした。だけど、そこで会ってはいけない人と鉢合わせちゃいました。
「あ……えっ、進……? なんで女の子の格好を?」
「…………花音!?!?」
しまった! 僕達はいっつも、4人の内の誰かの家で遊んでいるから馴染みになっちゃっていて、チャイムを鳴らさずに上がってくるんだった!
入る時に声はかけるけれど、さっきまでドタバタしてたから聞き逃した!!
「なんだか騒がしそうだったから、進のお父さんとお母さんが帰ってると思ったけれど……あの、何やってるの?」
あ、あぁぁぁ……ど、どうしようどうしようどうしよう!!
「進……あなたまさか……」
何か言い訳何か言い訳……駄目だ、頭が真っ白でなにも出て来ない!
「またお母さんに女装させられてるの? 小学生ぶりじゃない。可愛い~」
「……あ~」
グッジョブ僕の過去!!
安堵しているけれど、どこか悲しくなってきてしまって複雑です。でも乗り切れたら良いです!
「そ、そうなんだよ……お母さんが旅行先から色々と買って来ちゃって……」
「あらら……災難だねぇ~ちょっとおばさん! 進はもう高校生なんだから、流石に女装は……止め……」
んっ? 花音の視線が僕の胸に? 何か……あっ!!
「進、その胸の盛り上がりはなに?」
再びしまった!! お母さんが胸を隠すときのサラシを取っちゃったから、ささやかな僕の胸でもちょっと盛りあがっちゃってた!
「パッドまで入れるなんて相当じゃない……もう、おばさんに注意しないと!」
花音が天然で助かりました……いや、天然じゃなくても、いきなり女の子になったという発想自体出て来ないよね。
そして、花音はそのままリビングに向かって行きます。
とりあえず助かりました……本当に心臓に悪い。油断しないようにしよう。
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