第3話 新たな魔法少女 ②
新に現れた黒髪ロングポニーテールの女子は、鋭い目つきを怪人サソリモドキに向け、その後僕の方も見ます。
この人はつり目だから、睨みつけられたら余計に怖い。だけど引いちゃ駄目だ。
「お前……魔法少女か? だがその格好は……」
どうやら僕の顔までは見えていなかったようです。助かりました。
「ふん、私の背後を取るなんてね。だけど甘いわよ、首を狙わないなんてね」
でも内心僕はドキドキしています。斬られなくて良かった~って感じです。
「私達は殺生はしない。今までの怪人も、無力化して捕らえてるだけだ」
「えっ? だけど普通魔法少女って、敵の怪物や怪人を殺して倒してるよね?」
「アニメの話だ。現実に女の子があんな簡単に殺しが出来ると思うか?」
まぁ、場合によると思いますよ。女の子って化けるからさ……だけど基本的に、何かを殺したりするのをためらう人の方が多いかも知れませんね。
「ふ~ん、甘いね。そんなので正義の味方が勤まると思うの?」
だけど、僕はその人に向かってそう言います。この格好になると、普段なら絶対に言えない事も平気で言えちゃいます。形から入るって重要なんだな……。
「勤まるからここにいるんだろうが、バカか貴様」
うわっ、この子性格キツかったよ。しかも……。
「隙だらけだ」
あっという間に僕との間合いを詰めてきました。
白くてスラッとした綺麗な脚なのに、なんでこんなスピードが出せるの? なんて考えてる場合じゃない!
「インクリース・グラビティ!」
とにかく僕は、相手が握り締めてる刀に向かって杖を突きつけ、そう叫びます。今にも僕を斬りつけそうだったからね。
「ぐっ!! なんだこれは!」
「危ないなぁ~もう。そんな危ないものは振り回さないで」
だけどそう言いながら、僕はその人と距離を取っています。ゆっくりと後ろに下がってね。
だって怖いんですよこの人。それに、僕はまだ近接戦闘が出来ないから、避けたりするのは無理なんです。
「くっ……この、くらいでぇえ!!」
えっ? 嘘……刀の重さを変えてもの凄く重くしたのに……耐えきれずに地面に落としたのに……それでも刀は離していない。
膝を突きながらも、気合いを入れながら地面に付いた刀を持ち上げようとしている!
無理だって! 女の子が20キロ近くの物を持ち上げる事なんて――
「はぁぁぁあ!!」
――出来ました……両手使ってるけど。いや、普通は無理だからね! この子恐いです!
「せいゃぁあ!!」
「うわぁっ!!」
必死に逃げちゃったよ! 自分の周りを無重力化して思い切り飛び上がって、本当に真剣に逃げちゃいました。そしてその後に……。
「ギャンッ?!」
稲光が下からやって来た瞬間、僕の体に衝撃が走り、更に全身が感電したみたいになって痺れてしまいました。さっきの雷魔法を使う人だ……しまった、充電が終わってたんだ。
これは終わりました……僕、捕まっちゃう。
「…………あれ? 何ともないや」
やられたと思ったからそのまま落下してたけど、別に体に異変はなかったよ。だから、そのまま一回転して低めのビルの屋上に着地です。
何で平気だったんだろう? 相手の魔法をモロに受けたのに……。
「ごめん由利……魔法効いてないや」
「落ち着いて、きっとバリアか何かを張っていたんでしょう。卑怯ね」
そして、下にいる2人の魔法少女は、僕の立っているビルの下まで来ると、そのまま僕を見上げてきます。
卑怯って言われても、バリアとかそんな変な力で僕が守られていたなんて、今知ったからね。そうじゃなかったらこんなに慌てないってば。
とにかく、僕は杖を握り締めて2人を見るけれど、お互いいつでも攻撃可能といった感じでジリジリと迫ってきます。
「ギッギッ……グラビティ・ガール。お前のおかげで俺は強くなれてる。お前のサポートをバッチリして……ぐぇっ!」
なんで同じ屋上にいて、しかも僕の背後にいるんですか! この怪人は! 思わず蹴っちゃったよ。
「いや、あなたがメインでしょうが。私がサポートするってば」
「ぐぇっ! ちょっと待て蹴るな! いやいや! 魔法少女は先頭を切って戦うものだろう?!」
戦い方が分からないんだから、先頭を切ったら直ぐにやられるってば。
だから僕は、思い切り怪人サソリモドキの背中を蹴り飛ばして、前に突き出します。
だって怪人として生まれた奴なら戦闘能力くらい……。
「
「ぎゃぁぁあっ?!」
全くなかったですね!
ポニーテールの子がこの屋上まで飛び上がって来て、そのまま空中で円を描くようにして動いたかと思ったら、怪人サソリモドキの胴体が真っ二つにされてました。怪人弱すぎませんか? いや、この子が強すぎるんだ!
「うひゃっ!」
しかも斬撃の威力が落ちずに、そのまま真空派のようにして僕にも襲ってきました。
なんだか変な風の流れがあったからしゃがんでみたら、僕の後ろの壁が真っ二つに切れたよ。
「ハード・ライトニング!!」
「うわっ!!」
その後雷の魔法を使う金髪の子が、下から僕に向かってもの凄い雷撃を放ち、僕の頭上に落としてきました。だけどそれは、僕の頭の上で止まってます。
何か目に見えない壁に遮られているような……これがバリアなのかな?
「くっ……由利、やっぱりこいつ!」
「分かってる。そのまま押さえてろ」
うわっ、流石に2人は無理だってば……ポニーテールの子が屋上に着地すると、その場で飛び上がり、刀を振り上げて僕の方に落ちてきます。
あれ? 僕の重力魔法は? 解除されてる? なにか条件を満たすと解除されちゃうのかな……それとも何かをし続けないと駄目なのかな?
「くっ……」
とにかく、このままじゃあバリアごと斬られちゃう……そんなのは嫌だ。なんとかしないと!
「ガハッ!!」
すると、僕の上から迫っていたポニーテールの子が、突然苦しそうな声を上げると、そのままビルの下まで落下した音が聞こえます。
なに? なにが起こってるの? こっちはもう1人の人の雷魔法が、頭上で凄い光りを放ってるから、良く分からないんだってば……。
だけど、誰かに攻撃されて吹き飛ばされたのは分かる。だいぶ高い所から落とされた感じだけど、大丈夫なのかな……。
「由利ちゃん! 大丈夫?!」
あっ、目の前の光りが消えた。金髪の子が魔法を消したんだね。そして、僕を斬ろうとしていたポニーテールの子の元に駆け寄っています。
そしてそんな僕の目の前には、ある人物達が立っています。
「やれやれ……近接戦闘が全くだったな。これは修行の必要があるか」
黒くて青いラインの入ったロングコートに、サングラス。そしてオールバックの髪……超人と言われていた人達だ。しかも3人もいる。
「やはり、政府のお気に入りは違ったか。怪人がやられてはこちらが不利だ。撤退しろグラビティ・ガール」
「……」
そりゃもう、そう言うのなら遠慮なくそうするけどさ。下から
見上げている2人は、僕をしっかりと捉えています。
ポニーテールの子が無事だったみたいで良かったけれど、逃がす気ないですね、これ……。
「早く行け」
すると、超人の奴等はそう言うと、下にいる2人の魔法少女に向かって行く。しかも……。
「ぐっ!! なんだこいつら!」
「由利ちゃん! 離れないで! あぅ!!」
超強い。
ポニーテールの子の刀の攻撃を片手で受け止めて、そのままお腹を殴り付けて吹き飛ばした。
金髪の子の方も充電がまだらしくて、相手のパンチを避けようとしたけれど、その後直ぐに凄いスピードで蹴りつけられています。
2人とも僕から凄い離された……に、逃げられるのかな? でも、このまま相手を追い詰めた方が……。
「早く逃げろ。俺達の体が持つまでに、こいつらから逃げるんだ」
だけど、超人の奴等は僕にそう言ってきます。なんでそう言うの? それだけの力があれば、倒すことも出来るのに……。
体が持つまで? なんですかそれ。どういう意味?
でも、その意味は直ぐに分かりました。
「えっ……?」
超人達の体が、まるで砂のようにして次々と崩れ始め、腕や足がもげていきそうになっている。そんな……まさかこいつら。
「俺達は、1回毎に魔力による攻撃をすれば、体がその魔力に耐えられずに崩れていく。良くて10回。それだけ魔法攻撃を行えば、俺達は完全に崩れ去る。だから早く逃げろ」
なにそれ……超人じゃないじゃん。Dr.Jはなにを作り出しているんだ。こいつらは人間なんでしょう。死刑囚とは言え、人間でしょう! 生命の冒涜を平気で……。
やっぱりあいつも駄目だ。倒さないと駄目だ。でも、僕に出来るの?
怪しい政府の人間とDr.J。2人を相手に戦えるの?
無理だ……今はただ、Dr.Jの言うことを聞いておくしかない。だから悔しい思いを胸にして、僕はその場から離れます。
―― ―― ――
路地裏を走る僕は、元の姿に戻って壺の怪人の登場に控えます。でもいつまで待ってもやって来ません。
おかしいな……いつもなら直ぐに現れるのに、なんで来ないんだろう? このまま家に帰っても良いのかな? 帰っちゃおうかな。ここから歩いては遠いけど、電車で3駅くらいです。
そして試しに僕は、そのまま自分の家に向かって行きます。でも誰も来ない。
駅に着いて改札を通る。誰も来ない。
最寄り駅に付いて改札を出て、自分の家に向かう。誰も来ない。
自分の家に着く。誰も来ない。
おかしい! なんですんなり帰ってこられたのですか?!
この閑静な住宅街で、いくらでも僕を回収するチャンスはあったのに!
ちょっと待って、もしかして僕、もうあの研究所に軟禁されなくても良いの……?
やった……これならコッソリとあいつの所に居続けて、スパイとして花音や大輔に組織の情報を与えたり、心忍に怪人の情報を与えられる。Dr.Jを追い込める。よし、そうと決まれば明日から動くよ。
そして僕は、自分の家の鍵を開けてその中に入っていく。
久しぶりの我が家……自分の家の匂い、雰囲気……この玄関を真っ直ぐ進めばリビングだ。途中に二階に上がる階段もあって、二階に僕の部屋がある。
今両親は居ないけれど、それでも住み慣れた我が家に帰って来られ――
「やぁ、お帰り~」
「おかえり」
「……」
――リビングの扉を開けたら、Dr.Jとリリンがソファに座っていました。
あれ? 僕自分の家に帰ってきたよね? なんでこの2人がここにいるの?!
「いやぁ、流石に君も家にいてくれないと、誰かが尋ねられるとマズいみたいだ。君案外友達いるんだね~」
「もしかして、僕は友達がいないと思ってました?」
「いやぁ、正直いても1人か2人かと思ったが、何人かクラスメイトがやって来てね、驚いたよ」
その全てにどういう対応をしたのかはもう聞きません。どうせろくでもない対応をしたんでしょう! 明日の学校が憂鬱です。
「良い家ね」
「それで、リリンは何でいるの?」
「私はこいつに捕まってるの。逃げられないの」
あぁ、着いて来るしかなかったんですね。
マスクをしているから分からないけれど、Dr.Jは目を細めて僕を見ている。多分笑ってる。したたかな笑顔を見せているに違いない。
それでも負けてたまるかだよ。僕は逃げない。
僕の日常を返して貰うまでね。
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