第2話 新たな魔法少女 ①

 それからその日は何事もなく学校が終わり、大輔達ともいつもの所で分かれて帰……ろうとしたところでまたあの壺の怪人が……。


 これ止めて欲しいって言ったのに、止めてくれなかったよ。


「お帰り……どうしたの?」


「心身共に疲れた」


 朝から誤魔化すのが大変だったし、大輔はあんな事言ってくるし、帰りはこんな帰り方だし……その内僕の方が疲労で倒れます。


「それは、魔法少女として幼なじみと戦うのが嫌ということかな?」


「なっ……いたんですか……」


 Dr.J……僕が四つん這いになって地面と睨めっこしているのを、目を細めながら見ていたの? 僕が苦労しているのを楽しんでるんだ……。


「いったいなにをしに来たんですか?」


 とにかく僕は、そいつに向かって敵意むき出しの目で睨みつけてそう言うと、そのまま立ち上がります。


「いや、君が順調に幼なじみの1人を仲間に取り込もうとしているからね、激励に来たのだよ」


「激励をしに来た顔じゃないですよね。僕になにをさせようと言うんですか……」


「やれやれ、顔が可愛いからと油断していたら駄目みたいだね~小型犬のようにはいかないか」


「小型犬はほとんど猟犬ですよ」


「おや、そうだったか」


 そう言うと、Dr.Jはゆっくりとリリンに近付いて行く。またこの子に何かしようとしているんですか? この子とは会ったばかりだし、記憶もないから本当に良い子なのかは分からない。


 だけど、見た目僕より幼そうなこの子が、目の前で酷い事をされているのを黙って見ている程、僕は大人しくはないですよ。

 だから僕は、リリンとDr.Jの間に割って入り、抗議の意味も兼ねて、またそいつを睨みます。


「ふっ……勘違いをしないで欲しい。どうやらこの子はまだ使えないようだからね。だから代わりに、君に働いて貰う……ここ媒鳥町おとりちょうでね」


 媒鳥町?! 僕達の住む街の近くだ!


 そしてもう一つ、ここにはある施設もある。それは内閣直属の機関、魔法少女機関。


 こいつにとって敵である魔法少女機関のお膝元に、こんな施設を作るなんて……どうかしてる。


「今丁度、怪人を出したところだ。分かるよね?」


「……また僕に戦えと?」


「安心するんだ。次は君の幼なじみじゃない」


「安心? そんなので安心すると思う?」


 どっちにしても、政府関係者と戦わないといけないんだからね。そんなの安心もなにもないです。でも……。


「それでも君は断れない」


「くっ……」


 僕の両親が人質になっている以上……僕は……。


 でも、もう手は打ってあるんだ。ただ、こいつを相手に出し抜けるかどうかなんだよね……。


「さて、納得してくれたところで行ってもらおうか。政府の奴等に泡を吹かせてやれ。今のところ君は、変わった怪人として政府の奴等に見られているんだ。しっかりと魔法少女らしくアピールしてきたまえ」


「えっ……」


 変わった怪人ですか……僕は怪人じゃないのに……あぁ、肩を落としている場合じゃないや。

 そして、僕が顔を上げて出発しようとした時、目の前にあの壺の怪人の入り口が……。


「とぅ!!」


「むっ?! 何で避けるんだ!」


 流石にそう何回も何回も壺に放り込まれたりしません! でも、結構ギリギリだったから必死に回避したよ。


 そして壺の怪人がそう叫ぶと、壺の口をこちらに向けながらジリジリと迫ってきます。


「貴様はこれでしか移動するなとの事だ。しか~し! このツボーラ様の強制転移の力を、貴様専用にしてくれているんだぞ。ありがたく思え!」


「その中がちっともありがたくないんだよ!」


「なんだと?! この中の良さが分からないか! 俺の触手で悶える美少女が、俺の中で……俺の体の中で……ギャフッ!!」


 色々と危ない!! とりあえず蹴り飛ばしておいた……けれど、そのまま壺の怪人に思い切り足を掴まれた。


「あっ……ちょっと、離……」


「ふっふっ、怪人の強さを舐めるなよ。普通の蹴りなんかで倒れる俺ではない! さぁ、大人しく触手の……転移しろ!」


 触手って言ったよね? その言い方、転移の力がメインじゃないよね?!


「ぎゃぁぁぁあ!! 離して離して! リリン! なんとか……」


 そして僕は、リリンに助けをと思ったけれど……Dr.Jがリリンの後ろに……あぁ、厳戒態勢じゃないですか。その子ってそんなに重要なの? それと、リリンは上手く魔法が上手く使えないんだった……。


 なんて思ってる間に……。


「そ~ら行って来い~若干パワーアップした、触……転移の力を!」


「えっ、あっ、やだ……いやぁぁぁぁあ!!!!」


 触手だよね、パワーアップしたのは触手だよね! ちょくちょく言い間違えないで!!

 しかもそのパワーアップした触手は思った以上で、僕は体中を弄られてしまい、女の子みたいな悲鳴を上げてしまいました。色んな意味で恥ずかしいし……もう最悪だよ。


 ―― ―― ――


 その後しばらく触手を我慢した僕は、いきなり地面に放り出されました。雑なんだよ、もう……。


「い、たたた……もう本当にこの転移の仕方は止めてもらおう」


 そうは言っても、あいつはこれを楽しんでるだろうから、却下されるだろうけどね。


 さて……暴れてる怪人は……。


「ギッ……?! お、お前は!」


「ビックリした……何あなた。どこから出て来たの?」


「えっ……?」


 あれ? 目の前にサソリのような姿をした人型の怪人と、背後には花音達と同じ、白い詰め襟の制服を着た女の子が立っている。


 まさかの戦闘のど真ん中に放り込まれました。転移先もうちょっと考えてよ!


 腰から下が人間で、その上が全てサソリの怪人は、僕の登場に戸惑っています。

 多分僕の事は聞いているだろうけれど、変身前なんですよね~正体バレたらマズいんですよね~さぁて、どうしましょう。


「あっ、ギッ……なんなんだお前はびっくりした(棒読み)」


「とぅっ!!」


「ギヒャっ!!」


 なんで小中学生の学芸会みたいな感じになってるんですか! 余計にバレちゃいますから! というか、ついドロップキックしちゃったじゃないですか!


「なにやってるんですか、なにやってるんですか、なにやってるんですか」


「すんませんすんません、すみません!」


 出来損ないの怪人だよ。僕が迫ったら平謝り。というかマズいです……僕の背後の女子が首を傾げてます。

 僕と同じくらいの歳の子だけど、肩甲骨までの髪の毛を金髪にしていて、ちょっと気がキツそうな気がする。明るい花音とはまた違う感じだ。


「あ、あなたいったい……」


 そして僕をガン見しながらそう言ってきます。駄目だ、怪しまれている。なんとかしないと……。


「ちょっと怪人さん」


「あっ、キャンピオンです」


 スコーピオンとキャンサー混ぜたのですか?! カニなの? サソリなの? どっち! 


 とにかく、あの人にバレないように小声で……。


「あ~もうややこしいですね。サソリモドキでいいや」


「サソリモドキとサソリは別物だ!」


「そんなややこしい名前してるからでしょう!」


 あっ、しまった……あの女子が益々僕を怪しむような感じで見ています。


「とにかく怪人サソリモドキ、僕を人質にするんです」


「だからサソリモドキじゃ……あっ、なるほど。考えたな」


 ただ、こんなのでどこまで誤魔化せるかは分からないけどね。

 すると、怪人サソリモドキは腕の鋏で僕の体を挟み、今にも真っ二つにしそうな感じにする。そして尾まで巻き付かせて、その先の毒針を僕の顔に向けます。そのまま真っ二つにしないでよ。


 よし、あとは僕が人質らしく……。


「きゃ~助けて~(棒読み)」


 ………………


 ………


「貴様も同じじゃねぇ~か!!」


「わぁぁあ!! 劇なんてやったことないから緊張しちゃった!!」


 やってしまった!! 緊張したのかなんなのか、僕の口から出たのは感情なんて全くない言葉でした。


「……ふっ、そうだったのね。あなた、必死に逃げて建物に入ったけれど、その建物が老朽化していて2階からここに落ちたんでしょう! どう?!」


 あっ、この人バカだ……。


 怪人サソリモドキも同じ事を考えていると思う。悔しいけれど、顔が凄くにやけているんですよ……。


 この人も魔法少女なんだろうけれど、大丈夫なの?


「安心して! 今私が助けて上げるから!」


 するとその子は、僕と怪人に向かって指差すと、自信満々にそう叫ぶ。思い切り胸を張ってね。でも、なんだか違和感が……あっ。


「ギッ? 貴様、胸が全くないのにそんなに胸を張ったら余計……ギギャッ!!」


「何か言ったかしたら……?」


 怖い怖い怖い怖いです!

 いきなり怪人サソリモドキの顔に、雷が落ちたみたいになって……というか雷ですね、雷撃ですね! あの人の魔法だ!


「わわわ……!」


 そのまま僕は、慌てる一般人のフリをしてその場から離れます。

 僕もあの怪人と同じ事を思ったけれど、言わなくて良かった……ついでに僕まで黒こげにされるところだったよ。


「さぁ、早くここから逃げて!」


 そしてその人は、また僕に向かって叫ぶ。本当に凄く元気な人ですね。花音以上です。

 とにかくその子に言われた通りに、僕はとっととこの場から去ります。でもね、やることはやらないといけないんだよ……。


「……よし、ここなら誰も見てないね。プリティ・チェンジ!」


 そして僕は、人通りの少ない路地に向かうと、咄嗟にそう言って変身します。あの裸になるやつですね……。

 そりゃ魔法少女のお決まりなんだけど、変身する度に毎回毎回クルクル動きながら裸になって、足から順番に服が引っ付くようにして現れるこの変身方法……なんとかなりせんか?!


「み、見られてないね……ふぅ」


 しかもこれ時間がかかるからさ、その間に誰かに見られたらどうするんだよ。


「うほぉ!! 魔法少女の変身シーン! 生で見られた! 感激でごばっ……!!」


 さて……誰にも見られなかったから、早く怪人サソリモドキの協力をしよう。だけど、助けるとは言ってないからね。


「よっ……と」


 そして僕は、幸せそうな顔のままで地面に横たわる、小汚い格好の太った男性を踏みつけて、さっきの場所へと戻っていく。別に見られてないよ。

 この人は何か叫んでいたみたいだけれど、そのすぐ後に僕が重力魔法で地面にめり込ませたので、多分記憶が飛んでると思います。覚えていても、夢を見たと思うだけ。一瞬で意識が飛んでるからね。


 さて、戦闘はどうなってるのかな?


「ギギッ!! どうしたどうした?! 攻撃しないのか!」


「ちょ、ちょっと待ちなさい! 私のは充電がいるのよ!」


 怪人サソリモドキが押してる。というか追いかけてる。グルグルと同じ所を回ってるけどね……何やってるの?


 えっ? さっきの雷の魔法って充電がいるの?! それはなんというか……大変な魔法ですね。

 というか、充電している間でも他の雷魔法を打てば……と思ったけれど、見ている限りそれは無理そうですね。

 どうやら彼女の魔法は、1回1回充電がいるようです。強力なのに、そのせいで台無しですね。


 近接戦闘が出来ればまた違ってくるけれど……。


「きゃぁっ!! ちょっと! 今の危ないでしょう! あっ、待って、離して!!」


 怪人サソリモドキの鋏攻撃をギリギリで避けたけれど、その後後ろから回り込んでいた尾に捕まっちゃいました。


 あ~あ、そのまま持ち上げられちゃったよ


「ギッギッ、さぁて……このまま俺の毒針で体の自由を奪ってやる。そしてあんな事やこんな事を……」


 うわっ、この怪人最低ですね。なにを想像しているのか、顔を上に向けてにやけています。


「なっ……そんな……止めて! 離して! 私をコスプレ好きのオタクの所に売って、コスプレさせまくるんでしょう! 変態!!」


「そんなレベルじゃねぇよ!!」


「そ、それ以上に変態な事? い、嫌、そのままフィギュアみたいに台に固定して、皆に見せびらかすのね!」


「1度そこから離れろ!!」


 僕はどうしたら良いんだろう……完全に怪人の方が勝っちゃってる。他の魔法少女も来るのかな? だとしたら、それまで物陰で隠れて待っていた方が良いね。


 ただその間、ずっとこの2人の漫才を見るのはちょっと辛いかな……。


「……貴様、何者だ? 闇の力を感じるぞ」


「へっ? ぐぅっ!!」


 すると、僕の後ろから誰かの声が聞こえ、それに反応して後ろを向いた瞬間、物凄い衝撃が全身に走り、そのまま吹き飛ばされてしまいました。


 あっ、ヤバい! 顔! 仮面を……!!


「障壁か? 無傷とは……」


「くっ……なんで分かったの?」


 顔見られてない? ギリギリで仮面を付けたけれど、見られたかな? 一瞬だったから分からないかな? とにかく、女の子口調で怪しまれないようにしないと。


「あっ! 由利ゆり! 助けて~!」


「大丈夫だ沙織さおり、今助ける。この不届きな怪人を真っ二つにしてな」


 そして僕の後ろから現れた、黒髪のロングポニーテールの女子がそう言うと、手にした刀を握り締めて、ゆっくりと怪人サソリモドキの方に歩いて行きます。


 この人強い……雰囲気で分かる。いくら僕の能力で怪人が強化されているとはいえ、これは下手したらあっという間に倒されるかも。


 そして僕の方も、この人に太刀打ち出来るかどうか分からないです。

 だって僕、格闘技なんてやってないですからね。近接戦闘に持ち込まれたら負けます。


 それでも、ある程度は立ち回り出来ないとマズい。


 だから僕も、悪魔の羽が生えた小さな杖を取り出すと、ゆっくりと刀を持っている魔法少女の方に向けます。

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