魔法少女機関 MGO
第1話 いつも通り?
翌朝、僕は学校への道を重い足取りで進んでいる。
昨夜は花音達をどう誤魔化そうかと、ずっと悩んでいたんだよ。おかげで少し寝不足です。そして……。
「…………」
「心忍、お願いだから睨みながら後ろから来ないで……怖いから」
「昨日のあれ、なに?」
「うぅ……だからごめんってば」
「説明して」
そう言われても、僕が感じ取った事を言ったとしても、僕の体は秘密結社の奴等に弄られているから、そのせいだって言われそうです。何しろ女の子になってしまったからね。
だけど、正直それでパニックを起こす前に、もっと大変な事を知ってしまったよ。それをなんとかしようと思ってるから、この女の子の体に慌てる余裕もない。
「説明」
「うぎゃぁ!! ちょっと、心忍?!」
後ろから僕の胸を揉まないで下さい! 流石にこれはビックリしちゃったし慌てましたよ!
「説明しないと揉み続ける」
「ちょ、ちょっと! 他の人も登校してくるのに、そんな事したら怪しまれる!」
「それなら話して」
そう言われても……心忍にもなんの事か分からないかも知れない。でも、敵になったわけじゃないことは伝えないとね。
「あっ、あのね……多分、政府の魔法少女機関は怪しいと思う。外部から魔力を流してるでしょ? 花音や大輔に相当負荷がかかってないかな……」
「……そうね。その2人の魔力耐久を私が見ているの。だけど、この前のはやり過ぎだと私も思う。あんなに魔力を流されたのは初めて……って、進はもしかして、外部から魔力を貰ってないの?」
「貰ってないよ。僕は自分の中に出来た魔力を使ってるからね。僕が言った事分かった?」
「……なるほど、偽物ね。良い表現」
すると、心忍は顎に手を当てて、そのまま何かを考えながら先へ歩き出しました。納得してくれたのかな?
「あっ、そうそう。胸あんまりなくて良かったね。花音のCよりちょっと小さめだから、よっぽどじゃないとバレない」
サラッと花音のバストサイズを言わないで下さい。心忍はそれよりも大きいみたいだし、Dはありそうだよね。それに、背は男性で平均的な僕より低……。
「心忍、背伸びた?」
「……そっちが縮んでるの。女性化したからでしょ?」
あっ……そっか。ちょっとだけ背が縮んでるなと思ったけれど、ここまでなんて……それでも心忍には勝ってる。大輔には男の時でも負けてたけどね。
「よぉ、進」
すると、そんな僕達の後ろから大輔の声が聞こえてきます。
遂に来た……後ろには花音もいる。さて、どうやって誤魔化そう……。
「あっ、おはよう大輔」
とにかくいつも通りの挨拶です。だけど、大輔の表情はいつもとは違う。
「お前昨日どこにいた?」
そう来ましたか……だけど、そのレベルは簡単に答えられるよ。甘いね、大輔。
「昨日? 家にいたけど……」
「それじゃあ居留守使ってたんか? 夕方お前の携帯じゃなくて、家の方に電話したけど出なかったぞ」
や・ら・れ・た。
大輔のくせになに機転効かせてるんだよ。どうしよう……これはどう返せば。
「ごめん、昨日のあれ……私の勘違いだった。進が女の子になんかなってるはずないもん」
「あっ? あ~まぁそうだけど……それじゃあ昨日のあれはいったい誰だったんだよ。あんなに雰囲気が進にそっくりな奴……進、お前生き別れの妹とか姉とかいないのか?」
「そんなの知らないよ」
心忍がフォローしてくれた。ということは、一応僕の説明に納得してくれたのかな?
「でも、それじゃあ進は昨日どこに行ってたの?」
「へっ?」
花音が大輔の後ろから追撃してきたよ。しかも花音は全く納得していない顔をしている。
「私心配だったから、家まで様子を見に行ったの。だけど親戚の人が出て、今は留守にしてるって……ねぇ、嘘ついてまでどこに行っていたの?」
「……因みにその親戚って……」
「真っ赤な短髪だけど、白衣を着てて爽やかそうな人だよ」
Dr.Jじゃん! 何やってんの、何言ってんの、なんて事したの!!
そういう事があったならちゃんと僕に言ってよ! 僕の言い訳が完全に矛盾しちゃったじゃないか!
「あっ……えっと……」
あぁぁ……心忍まで「いったい何やってるの?」みたいな目をしてるよ~やっぱりこれは、心忍でもフォローは出来ないよね。いや、頼っちゃ駄目だ。何とかして切り抜けないと!
「しょうがない……進。もう言い訳出来ないよ。実は昨日、私はあの後進の家に行って、親戚の人に留守番を頼み、進とデートに行ってたの」
「何?! マジか進!」
「うえっ?! えっ……何を……痛っ!」
心忍がいきなりとんでもないことを言ってきたから慌てちゃったよ。そしたら思い切り耳を引っ張られちゃいました。
「良いから合わせて、バレたらヤバいんでしょう?」
すると、小声で心忍が僕にそう言ってきます。そう、バレたら僕の両親がどうなるか分かったもんじゃないです。
でも、だからって……花音の前でこんな。
「本当なの? 進。心忍と付き合ってるの?」
「えっと……」
「そう、実は付き合ってたの」
心忍、堂々と言っちゃって……しかもちょっとだけ嬉しそう。そりゃたとえ嘘だとしても、嬉しいんだろうね。だけど僕は……。
「そうなんだ! 良かったね~心忍! ずっと悩んでたじゃない。やっと踏み切ったんだ!」
「う、うん……」
すると、花音は今まで見せた事のないほどの笑顔を見せてきて、心忍に抱きついています。止めて……その笑顔。別の所で見せて欲しかったよ。胸が痛い……。
「うん。だったら……私も踏み切らないと」
そう言いながら、心忍から離れた花音はチラッと大輔の方を見ます。
そうだよね、君の幸せを考えたらこの方が良いんだろけど、でも……それでもやっぱり、僕の心は諦めきれていないみたい。
その前に僕は今女の子なんだよ! 花音に好かれようとか、それ以前の問題だ。僕は今、色恋沙汰よりももっと大変な目にあっているんだから。
「おい」
すると、突然大輔が僕の肩を引っ張って来ます。心忍には耳を引っ張られたし、流石にそう何回も引っ張らないで欲しいよ。
「お前良いのかよ、花音の事は」
そして大輔も、小声で僕の耳元に話しかけます。
「……やっぱり分かってないね、大輔。なんで僕が、中々花音に積極的にアプローチしないのか、ずっと不思議に思ってるんでしょう?」
「あぁ、好きならもっとガンガンいって……」
「それが出来ないんだ。花音の心は、僕に向いてないから」
「なに? あいつ、他に好きな奴でもいるのか?」
大輔の鈍感……本当になんにも気付いてないんだ。誰が見ても花音が好きなのは大輔に決まってるのに。大輔の事を目で追ってるのに気付かないんだ。
「大輔のバカ。だから僕は……」
「あっ? なんだって? おい、待てって!」
もう良いです、こんな鈍感な人は知りません。だから僕は、そのまま大輔から離れて心忍の所に行きます。
「心忍、2人で先に行こう」
「あっ、うん」
そして僕がそう言った後に、心忍の横にいた花音に目配せします。「大輔と2人で登校したら」って感じでね。
流石に3人とは長い付き合いだからね、花音は僕の目配せの意味が分かったみたいで、凄く嬉しそうな顔をしたけれど、その後申し訳なさそうな表情をして、そしてなんだか寂しそうな表情も浮かべました。
―― ―― ――
「ごめん、進」
「何が?」
その後学校に着いた僕は、下駄箱で靴を履き替えています。その途中で心忍がそう言ってきます。
「私と付き合ってるなんて事になっちゃって……」
「あぁ……別に良いよ」
それを気にするなんて心忍らしくないなぁ、もう。
「でも、進は花音のことが好きでしょ?」
「それ僕言ったっけ……」
「見たら分かる」
僕もそんなにバレバレだった? き、気を付けないと……。
だけど、心忍くらい洞察力があれば分かるだろうね。それなら、花音が好きな人も分かるはず。
「あのね、花音は……」
「大輔の方が好き。だから私は、進にアタックしていたの」
「分かった上でのアタックだったんだ。それなら尚更気にしなくても良いのに。それに……」
そう、今更心忍が気にしたところで……。
「お~おはようお二人さん。なんだ、今日は夫婦仲良く登校か?」
僕と心忍はクラスメイト達に夫婦扱いされちゃってます。心忍が必要以上に引っ付くし、色々と世話を焼いてくるからです。
多分、いつも通り心忍は……。
「いや、たまにはあの2人を夫婦にしても良いかな……と」
あれ? なんで顔を赤くしてるの? 本当に心忍らしくないよ?!
いつもの心忍だったら「やっと婚姻できた」とか、そんな冗談を言いそうなのに!
「心忍、どうしたの?」
「ど、どどど……どうもしてない。教室行くよ」
「心忍、そっち逆」
「あっ……」
なんで動揺しているのかな? 心忍の事が良く分からなくなってきたよ。もしかして緊張している? なんで? あんな事を言ったから?
「……やっぱり心忍も女の子なんだ……」
失礼だと思うけれど、心忍はそれくらい動揺を見せないんだ。だから可愛い一面なんて一切見せないなのに、今のは普通に可愛いと思っちゃいました。
僕には花音が……いや、駄目です。あれを見たらやっぱり……。
遠くで楽しそうに会話してやって来た2人を見て、僕は足早にその場を去って教室へ向かいます。我慢しないと、押さえないと。もう諦めないと……。
「お前らどうしたんだよ、勝手に先に行きやがって」
しまった、教室一緒だったんだ。何やってんだよ僕。
教室に着いた瞬間大輔達も入ってきました。こんな時に限って大輔達と同じクラスなんですよね。心忍は違うクラスだし……なにか変な力でも働いてませんか?
「ま、まぁまぁ大輔、たまには良いじゃん。それに2人は仲が良いから、私達が邪魔するのも悪いじゃない」
「ん~おい、進」
「うわっ! ちょっと何するの?!」
いきなり僕の肩を掴んで引っ張ってくるなんて、しかも顔近いってば!
「お前、本当に花音の事は良いのかよ? 心忍にしたのか?」
またそれ? なにか話してくると思ったらそれですか。
確かに大輔には色々と相談していたけれど、花音が大輔の事を好きだと知ってからは、大輔にはあまり相談しなくなった。
それを大輔は訝しんでいたけれど、僕の事を信じてくれていたのか、それには触れずに僕にアドバイスをくれていたよ。
だけどね……たまには自分の周りも見てみようよ大輔。そうじゃないと、そのアドバイスも僕にとってはムカつく事になるんだよ。
「大輔、言ったよね? しっかりと周りを見てよ」
「あっ?」
「鈍感」
「お前な……俺がなにを」
「もう……花音が好きなのは大輔なんだよ。何で分からないかなぁ」
「はっ?」
目を丸くして驚いちゃったよ。そんなに意外?
「だから鈍感なんだよ、大輔は」
「お、おい。嘘だろう。花音がなんで……」
「過去に自分がした事を思い出してよ。悪人の手から正義のヒーローみたいに助け出してさ、それで惚れない方が難しいんじゃないの?」
「……あっ」
本当にバカだよ、大輔。バカ大輔。
「だけど俺は……俺は」
なんだろう、大輔が僕から離れたと思ったら、そのまま背を向けちゃった。でも、こうでも言わないと大輔は分からない。
だけど、これでやっと2人は引っ付いてくれるかも。そしたら僕も諦めが……。
「俺は……お前の方が好きだ」
「…………はぁっ?!?!」
えっ? はっ? 何言ってんの大輔!!
「ただ勘違いするなよ、男が好きなんじゃないんだ。お前が女だったらどれだけ良かったか、そう何度も思ってきたさ。それを諦める為に、花音か心忍かどちらかと引っ付けさせたかったんだ」
あっ、あぁ……この前トイレで言っていた事か。大輔はそれで悩んでいたんだ。ごめんね、僕がこんな容姿で……。
「とにかく、心忍と引っ付いたならそれで良い。それと、花音の事は何とかする」
「付き合うの?」
「いや、俺は花音の事は幼なじみの友達と思ってる。それ以上の感情はない。だから、断るさ」
「泣くよ? 今までのように4人で遊べないよ」
「……だけど、お前達が前に進んだのなら、俺も進まないといけないだろ」
そして大輔はそう言うと、そのまま自分の席に向かった。
クラスメイトは皆各々好き勝手に話していたから、僕達の会話は聞こえていないみたいだけど、これ余計にややこしくなったかも。
僕が女の子になっちゃった事、大輔にだけは絶対にバレちゃいけない!
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