第5話 いきなりの魔法少女デビュー ①
結局大輔と花音にはバレず、学校に着いてからもバレず。僕は普通に授業を受けています。
心忍がずっと難しい顔をしていたけれど、僕が女子になっちゃったのが分かった君がおかしいと思うよ。
だけど……分かってくれて助かった部分もあるかも。
「女子のトイレの仕方くらい、想像出来ない?」
「姉や妹がいれば分かるだろけど……」
「漫画とかでもある」
「そういう類の漫画は読んでません……」
女子のトイレシーンがある漫画なんて、早々ないってば……。
聞いた話だと、規制ギリギリのやつだとあるみたいだね。僕はそういうのが嫌いなので読んでないんだよ。
「はぁ……全く。男子が大をする時と一緒。ただし、足はちゃんと閉じる」
「えっ……あっ、そっか。それ以外では出来ないよね」
「足上げてやると思った?」
犬じゃないんだから流石にそれはないと思う。
とにかく、人気の少ない廊下で心忍からトイレの仕方を聞いて、僕は急いでトイレに向かいます。
女子って面倒ですね……。
骨盤の形も変わってるから、歩くときも男子の歩き方がやりにくいんです。走るのもそう。だけど、僕は男子として行動しないといけない。女子になった事がバレると、色々と話さなくちゃいけなくなる。
こんなに難しい事を、なんで僕はやらないといけないんだろう。分かってる……人質がいるからだ。
「ふぅ……何とかしないと。あのリリンって子が鍵なんだろうから、何とかして外に連れ出してみたいけれど……あいつが目を光らせている内は難しいかも」
男子トイレの個室に入り、用を足しながら僕はそんな事を考える。実はちょっとギリギリでした……。
「……それに僕ってば、本当に女の子になっちゃったんだ……」
そして毎回トイレをする度にこう思っちゃうよ。見ないようにしていても、拭くときに触っちゃう……自分のモノがなくなったその部分に……。
「……考えたら駄目、考えたら駄目。元に戻る事を考え……」
「え~! あいつ3組の女子とヤったって?!」
「そうなんだよ! 実は入学前から付き合ってたみたいでよ~」
誰ですか……こんな下品な事を言ってる人達は! 思わず吹き出しそうになっちゃったよ。というか、ここって僕達の教室からだいぶ離れてるよ! こんな話しをするためにこのトイレまで来たの?!
そりゃここは男子トイレだし、下品な会話をするには丁度良いだろうけどさ……中学とは違ってかなり大胆に言いますね……。
「大輔はどうなんだ? 可愛い幼なじみが2人もいるんだろう? どっちかとやったのかよ?」
大輔? 今大輔って……そんな、こんな所に大輔が? 大輔まで下品な会話をしたくて着いてきたんだ……。
「……あ~2人とも幼なじみだからな~そういう感じにはならねぇな~むしろ俺は、進の方が大変そうに思えるぜ」
「あ~あの女みたいな奴か~あいつとも幼なじみなんだっけ?」
女みたい……そう言われるのは慣れてるけれど、高校生になってもこんな事言われるなんて……。
「まぁな、あいつはあいつで大変なんだぜ。女顔だからよ、男から告白されまくって……それでもめげずに初恋を叶えようとしてんだ」
「マジか?! あいつ好きな奴いるのか?」
だ・い・す・け~何喋ってるんですか~?
そりゃ新しい友達作ろうとしているのは分かるけど、いきなりこんな事言うのはどうかしてるよ!
「あいつには内緒な。あいつ、実は別の女子に好かれてるんだよ。だけど気付いてないみたいでな~」
気付いてるってば、心忍でしょ! もう……ペラペラと喋って~
「やっぱ顔がモテるんだねぇ~大輔もモテるだろ?」
「俺か? 俺はモテねぇぜ」
「またまた~女子がキャーキャー言ってるぞ~」
「そうか? まぁ嬉しいけれど、今はまだそういうのは良いかな。ダチと遊んでる方が楽しいな。だからよ、お前等も進と仲良くしてやってくれよ。恋の相談にでも乗ってやったりよ」
「お~お~友達想いだねぇ~まぁ、あんな可愛い奴は他にいねぇし、絡んでたら得しそうだな」
「そんな事言ってよ大輔~お前その進とデキてんじゃねぇの?」
「あのな、俺はゲイじゃねぇよ! まぁ、だけど……あいつが女だったらモロ好みのタイプだよな」
「うわっ! やっぱホモじゃねぇか!」
「だから違ぇつってんだろう!」
そのまま足音が遠ざかっていく。
…………大輔達行った?
「……いない。今の内に……」
もう、なんなんだよ今の……もしかして、大輔は大輔なりに僕に新しい友達を作らせようとして……大きなお世話だよ。自分でやるよ。
それにあんな事言ったのは、他の人が僕に話しかけやすいようにするために言ったのかな? それでも駄目なのは駄目だよ、大輔。
それと最後のはなに?
僕が女の子だったら……タイプだって?
「バカ大輔!!」
手を洗った後にそう叫ぶと、僕はトイレから飛び出す。
親友だと思っていたのに……大輔までそんな目で僕を見ていたなんて。ショックだよ……。
―― ―― ――
「お~い、進。どうした?」
「……」
お昼休みになって、僕は皆と昼ご飯を食べているけれど、大輔の事は無視している。トイレでの会話があるからね。
「おい、無視はないだろ? 俺が何したってんだ?」
「自分の胸に手を当てて考えて下さい」
「なんか怒ってんのか?」
そうだよ、怒ってるよ。流石にあれはないよ。
すると、大輔の隣に座っている花音が大輔に話しかける。
「大輔、進になにかした?」
「いやぁ……なにも……あっ! 進、お前まさか生……うっ!!」
「冗談でもそう言うこと言わない」
今生理って言おうとした? 一瞬バレたかと思ったけれど、表情が真剣じゃなかったから、これ冗談だ。僕は大輔の真正面に座ってるから、そのまま脛を蹴ったよ。
「その内来るかもね」
「心忍~?」
今の言葉は危ないんですけど~ワザと? ねぇ、ワザとなの心忍。
「もう2人とも、進が迷惑がってるでしょ? 流石にそんなに女の子扱いしたら駄目。進は立派な男の子なんだから」
うぅ……その言葉は今は凄くグサッときます。立派な男の子の証が、今はないんだよ! 花音の言葉が僕に凄く不安を与えてきます。
するとその時、また3人のスマホにメッセージの着信音が鳴ります。
「おいおい……」
「もう……ゆっくりとご飯も食べられないの?」
そして、大輔と花音はそう言いながら席を立ちます。
「よう、お二人さん。頑張れよ!」
「怪人なんてあっという間に倒してよ!」
そのあと、2人はクラスメイトから色々と言われています。入学式の日にいきなり正体がバレたからね。もう2人ともこの学校の有名人です。
政府が置いた魔法少女機関。そこでは怪人を倒すために、魔法少女達が日々訓練をしていて、そして街で戦っている事は国中の人達が知っている。
だから花音達の事も、クラスメイト達はすんなりと受け入れて、こうやって応援しているんだ。
「……進」
「心忍、大丈夫……僕はまだ……」
するとその時、僕のスマホも振動します。マナーモードにしていて良かった。
2人は先生に許可を貰って、着信音が鳴るようにしているみたい。マナーモードだと気付かない可能性もあるからだって。気付くと思うけどな……。
現実逃避している場合じゃなかったよ。僕にもメッセージが? まさかDr.Jから?
とにかく、僕もこっそりとスマホの画面を操作して、そのメッセージを確認します。
『今君が通ってる学校の近くに怪人を送った。そいつと協力して、市民を恐怖に陥れろ。君の魔法少女デビュー戦だよ。出来たら偽物の魔法少女達も倒して欲しいね。断ったらもちろんどうなるかは分かるよね☆』
最後の星マークはうっとうしかったよ。もちろん画像付きで、僕の両親の今の状況も送られてきた。
やるしかないんですね……。
「おい、心忍! 行くぞ!」
「……あっ、うん。待って」
すると、僕の表情から何かを読み取った心忍が、コッソリと僕に耳打ちをしてくる。
「やられたフリ……出来る? 花音や大輔には上手く言うから」
「……分かった」
それであいつを誤魔化せるかは分からないけれど、まだなりたての魔法少女ならば、力を上手く使えなくてやられるのは良くあると思う。大丈夫、きっとなんとかなる。
そして心忍は、僕に笑顔を向けてから大輔達の後に着いていった。心忍も卑怯だなぁ……。
さて、僕も行かないと……。
―― ―― ――
まだお昼休みの時間だけれど、長引くと怪しまれちゃう。
こっそりと学校から抜け出した後、そう思っていた僕の元に、僕そっくりの奴が現れたんです。多分Dr.Jが作った怪人の類なんでしょうね。
詳しく詮索する前に、そいつに体を押されて急かされてしまった。
「なんだか良く分からないや……だけど、僕がいなくなった事がバレないなら、僕自身がヘマしなければ……」
そしてしばらく走っていると、僕の目の前から人々がこっちに向かって逃げてきます。
この先は確か大通りになっていて、大手の家電量販店があったはず。それに大きな書店もある。つまり、それだけ人が沢山いるということです。
「ぐははは!! このダストマンが纏めて貴様等をゴミにしちまうぞ!!」
あれ? まだ戦闘していなかったの? 青いゴミ箱の頭をした怪人が暴れているよ。
その場に着いた瞬間、大通りにいる人々が次々とゴミの詰まったゴミ袋にされていくのを見て、僕は焦ります。花音達は? まさかやられた?
「そこまでよ、怪人!!」
あっ……今着いたんだ。遅かったね。
そして声のする方を見上げると、花音達がその大通りの歩道橋の上から、怪人に向かって叫んでいた。
その格好は、政府が用意した制服の様なものです。
まるで軍隊の制服のように、詰め襟の着いた白いキチッとした制服で、胸元には何かの紋章も付いている。そしてスカートも、それに合わせた清潔感のある白です。
だけどこれが魔法少女と言われると、違うと叫ぶ人が何人かいそうですね。
そして、肘と膝にはプロテクターも付けられていて、しっかりとした戦闘服にもなっている。因みに大輔も同じですね。下はもちろんズボンだよ。
きちっと着こなしていて2人とも似合ってるよ。それと心忍も、花音と同じ服装をしていて、2人の足元で何か操作しています。
この前は3人の姿をしっかりと見られてなかったから、3人のこの格好はちょっと新鮮です。
「おい、花音。頭のゴミ箱には気を付けろよ」
「分かってるわよ。だけど、どれだけのものかちょっと試すわね」
すると、花音が腕を前に突き出して、指に付けた物を光らせます。あれは指輪?
「シード・バルカン!!」
そして花音がそう言った瞬間、その指先から大量の種がマシンガンのようにして放たれ、怪人に向かっていきます。あれが花音達の魔法?
「ぐははは!! なんだ貴様等! そんなゴミを放ったって意味がないぞ!!」
そしてもちろん、花音の放った種は怪人の頭のゴミ箱に吸い込まれていきます。
「ふ~ん、なるほどね。飛び道具は意味がないかもね……それなら……」
「分かってるよ、俺が接近戦をする。花音はその間に溜めておけ。心忍、データは?」
「まだ相手の動きを見ないと……」
「OK、そんじゃ他の魔法少女達が来るまでやっておきますか」
そう言って、身の丈ほどある大きな剣を片手で担ぎ上げ、大輔が怪人に向かって行く……えっと、僕はどうしたら良いのかな?
どのタイミングで、どうやって出れば良いんだろう? その前に顔がバレたら意味がないよね。何かで顔を隠したい……。
「……あっ、丁度良いのが……」
そんな時、近くの雑貨屋にある物を見つけました。うん、これならなんとかなりそうだ。
そしてそれを購入した後、僕は隠れられる所を探す。あとは変身を見られないようにするだけ……とその時、僕はあることに気付きました。
花音達って、変身してるの?
もしかして、変な物や薬で魔法を使えるようにしているんじゃ……駄目だよ、そういうのが良くないのは定番じゃないか。確認しなきゃ。
「プリティ・チェンジ」
そして路地裏に行って、そこの物陰で小声で変身をすると、急いでさっき買った物を顔に付けます。舞踏会の顔に付ける仮面です。これならバレないよね。しかも女の子だし。
だけど、やっぱり変身する時は裸になってます……こればっかりは恥ずかしいよ。
あとは悪の魔法少女らしく……らしく……。
悪の魔法少女ってどんな感じなの?!
「……し、しまった……悪い人の考えなんて分からないし、絶対ギクシャクしちゃうよ。どうしたら……」
するとその時、花音の叫び声が聞こえます。
「大輔危ない!! シード・ショット!」
「ぐっ……助かった、花音」
「もう、あんまり無茶しても駄目でしょ」
あぁ、大輔が怪人に掴まってたのかな? 危ないなぁ、もう……って、花音……大輔に引っ付き過ぎ。戦闘中にそんなに引っ付く必要ある? しかも良く見たら、そのスカートもいつもより短くないですか?!
だけど、大輔も満更でもない顔を……あっ! 花音が自分の胸押し付けて……何やってんの2人とも~!!
「あははは……2人ともちょっとふざけ過ぎてないかなぁ……お仕置きがいるかもね」
なんだか僕の心に黒い感情が湧き上がってくる。しかも押さえられそうにありません。これ、大丈夫じゃないよね。
でもね、2人の姿を見ていると心が張り裂けそうなんです!
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