第4話 バレる? バレない?
翌朝、僕達は連れて来られた部屋で夜を過ごした。
あの子はしばらくしたら目を覚ましたよ。
そして色々と聞こうとしたけれど、なんとここに連れて来られる前の記憶が本当にないらしい。ただ、この人達が気に入らないから逃げようとしていたみたいだけど、結局それを利用されていたみたい。
「……なんとかして逃げないと、ここは危険」
「うん、分かってる……だけど今は逃げられないよね」
「……そうね、準備がいる」
それなら、僕はいつも通りの生活を送っておかないと……ただ、そこで最大の試練がありました。
パジャマから制服に着替える間に、完全に忘れている事を思い出します。
「僕、女の子にされてたんだった……」
「……あなた男の子だったの?」
あっ、そっか……この子は僕が女の子になってから接触したから、僕が男だったのは知らないんだ。
「そうだよ……僕は男なんだよ」
「……女の子なのに?」
首傾げられちゃった……そりゃ、今僕はどこからどう見ても女の子ですよ。
成長途中の小ぶりな胸に、丸みを帯びた身体。この状態なら誰がどう見ても女の子なんです。
でも、顔はあんまり変わってない。元々女顔だったから、服にさえ気を付けていれば皆にはバレないかも知れない。
幸い用意されていたのは男子の制服……それなら……。
「Tシャツ着て布かなにかを巻いて、胸の膨らみを隠せば……声もそんなに変わってないや」
元々あんまり声変わりしなかったし……僕って成長遅いのかなと思っていたらこんな事に。それにしても付いてない感覚が凄く不安です。
「女の子って言ったら駄目なの?」
「……ずっと女の子だった君が男の子になっちゃったらどうする?」
リリンがとんでもない事を言ってきたよ。だけど、これは説明するより自分に置き換えて考えてくれた方が……。
「……別に? 嘘偽りなく言う」
感性の違いでした……。
「あのね……女の子になっちゃったのがバレたら、なんでそうなったって理由を聞かれるでしょ? そうなったら色々とマズいよね?」
とにかく、その子の言葉にガックリと項垂れた後、僕はしっかりとその子に説明してみるけれど……。
「誤魔化せば良い」
駄目でした……正直僕は、あの3人を誤魔化す事は出来ないって思っちゃってます。なんだかんだ言って、長い付き合いだからね……。
というかこんな事してたら遅刻しちゃう! その前に、ここって何処なの?! 学校から近いのかな?
それに気付いた僕は、慌ててその部屋の扉を開けると……。
「やぁ、おはよう。お寝坊さんだねぇ。朝ごはんはギリギリかな?」
昨日のあのおかしな男、Dr.Jがいました。今日も黒いマスクと赤い線で描かれた口が気持ち悪いです。
「……朝ごはん食べてる暇ないかも。ここが学校から遠ければ……」
「あぁ、移動なら心配ない。この場所を知られたら困るからね。私が発明した怪人の力を使わせて貰い、学校の近くに転移してもらう」
そんな怪人がいるんですか……あわよくばここの場所を把握しておいて、大輔達にと思ったけれど、それも読まれていたよ。
―― ―― ――
その後向こうが用意していた朝食を食べて、その転移能力のある怪人さんに、学校の近くまで転移されました。僕だけね……。
リリンはあの建物から出るのが危険なのか、僕に着いていこうとした所で、またスタンガンで気絶させられました。
その子の扱いが酷いからDr.Jを睨んでみたけれど、またあの歪な表情を向けられて竦んでしまったよ。
そしてその隙に、頭が壺になっている怪人の壺の中に放り込まれました。
その後気付いたら学校の近くの路地裏でした。あの子を何回もスタンガンで……心配だけど、今は言うとおりにしておかないと……それと……。
「……あの怪人に転移されるのだけは考え直して貰おう」
なんで壺の中が触手だらけなんですか? 至る所を触られたよ……うぅ、気持ち悪い。
とにかく、何とかしてあの建物の場所を把握して、リリンと脱出しないと。あんな扱いをされているあの子は、何としても助けたいです。
「……メッセージ、やっぱり皆に心配されてた」
そして僕は、あいつから返して貰えたスマホを見て、昨日から送られ続けていた3人のメッセージを確認する。
因みになにか弄ったらしく、スマホで僕の身に起きた事を伝えようとしても、全部チェックされてしまい、削除をされて伝えられないようにされているみたい。
学者のはずが機械まで強いなんて……勝ち目あるのかな……。
「……心忍のメッセージ、2人の倍はある」
この子だけは僕に対する接し方が異常というか、過剰過ぎるんです。嫌じゃないけれど、こんなに心配して来られると、危険な事は出来ないなって思うよ。
だけどやらないと……。
とりあえず皆には、昨日家族と急に出かける事になって、メッセージが出来なかった事を――
「進……!!」
「へぶっ?!」
――皆に返事をしようとしたら、後ろから誰かに抱きつかれました。いや、この声は心忍だ!
「心配した……なんで昨日家にいなかったの?」
心忍はよく僕の家に来る。だから、誰もいないことに気付かれちゃいけない。気付いたら心忍は何とかしようとする。そうしたら僕の両親は……。
「ご、ごめん……両親と出かけてて……」
「その両親も今朝いなかったよ?」
既に誰もいない家に行かれていました……ど、どうしよう。
「進、なにかあっ……」
僕を抱き締めてくる心忍の顔が、一瞬強張っと思ったら、ゆっくりと僕から離れてジロジロと体を見てきます。バ、バレてないよね? 流石に心忍でも……。
だけど、その後彼女は僕を引っ張っていき、近くの公園に連れて行きます。いや、遅刻しちゃうってば!
「心忍?! ちょっと、遅刻し……」
「私に隠し事出来ると思ってるの?」
「うっ……」
確かに昔から、心忍は僕が隠し事をしている事を直ぐに見抜いちゃうけれど、流石に今回はバレないと思う。
だけど人気のない公園に着いた瞬間、心忍は僕の方を向き、突然僕の制服の上着を捲ろうとしてきます。流石に抵抗するけどね!
「くっ……進。妻に隠し事は駄目……!」
「いくらなんでも……朝っぱらからいきなり僕の服を剥かないでよ!」
心忍が妻になってる事は置いておいて、やっぱり心忍は勘づいている! なんで心忍にはバレるの?!
「……2人に言うよ」
「……っ」
「……ちゃんと言って、昨日何があったのか」
だけど、言ったら君は僕を助けようとするでしょ? 今はそれじゃ駄目なんだよ。
「お願い心忍……これ以上は止めて」
だから僕は、心忍が1番たじろぐ表情でそう言った。
少し涙目になって弱々しい感じを出せば、心忍はそれ以上はやって来ないんだ。凄くみっともない姿なんだけどさ……何故か心忍にはこれが1番効きます。
「うっ……き、今日ばかりは……それは、効かない……!」
「わっ!!」
嘘?! 心忍がこの状態で強行してくるなんて!
そして心忍は、僕の制服の裾を思い切りたくし上げ、更には中のTシャツまで捲られてしまった。そう、つまり……僕の小さくても女子だと主張する胸を……心忍に見られてしまいました。
バレた……言い逃れ出来ない……。
「進……やっぱり間違いない……」
「うっ……くっ、し、心忍……お願いだから」
そして心忍は、僕の胸を見てショックを受けたのか、口を開けたままヨロヨロと僕から離れていく。
「そ、そんな……」
僕は慌てて服を直したけれど、心忍の様子がおかしい。やっぱりショックだよね……僕がいきなり女の子に――
「これじゃあ……どっちもお嫁さんになっちゃう。えっ、でもこの場合進がお嫁さんの方が。あぁぁ……だけどそうなったら、2人の愛の結晶が作れない!」
――なってもその反応ですか?
えっ、ちょっと待って心忍。急に僕が女の子になっちゃったのに、そんな事を気にしてたの?!
「ちょっと心忍、もうちょっと……」
「あぁ、進が昨日秘密結社シャフトに捕まっていたのは知ってるから」
「へっ……?」
「進のスマホに録音付きGPSを付けてたから。しかも敵さんにも分からない所に」
敵にやられる前に既に身内にやられていました。心忍怖い……。
「だけど、事情が事情だからちゃんと黙ってるよ。本当は進から言って欲しかった……」
「僕を試したね……心忍」
「妻として信用してくれているか見たかった。でも……うぅ」
「わざとらしく泣かない」
「うにゅ……」
とにかく、心忍は全部分かっていたんだ。僕が女の子になっちゃってた事も……。
だから、泣くふりをしている心忍の頭を小突いた後、僕は心忍に抱きついた。
「えっ……?」
「……ごめん、心忍。でも……」
「分かってる……秘密結社の味方をしないといけないんでしょ? 私達の敵に……」
「うん……だからこの事は、大輔と花音には言わないで」
「言っちゃうとあの2人、手を抜くからね。そしたら流石にバレる」
その心忍の言葉に、僕はゆっくりと頷きます。
「辛いよ?」
「分かってる。だけどやらないと……あいつを出し抜く為にも」
「そう、心忍がそう決めたなら私は反対しないよ」
「ありがとう、しの……」
そして僕が心忍から離れた瞬間、彼女は僕の顔に一瞬で近付き、そのままキスをしてきた。信じられない……今まで心忍はこんな強行してこなかったのに……なんで、なんでなの?
「くっ……心忍?! 何してるの?!」
「誓いのキス……敵側に協力していても、ずっと私達の味方だって忘れないで」
「……」
そう言ってきた心忍の目には、涙が浮かんでいました。しかも良く見たら目が真っ赤です。
そっか……心忍はきっと、直ぐにでも僕を助けたかったんだ。僕が女の子にされるのを、止めたかったんだ。だけど何も出来なくて、泣いていたんだ。
「ごめん……心忍、ごめんね」
そして僕は、もう一回心忍を抱き締めた。今度は優しくね……。
―― ―― ――
「それで、進はどうするの?」
「どうって?」
「花音の事」
そっちですか……そっちはもう諦めるしかないと思ってるよ。でもね、中々諦めきれない自分もいるんだ。厄介だよね……人を好きになるって事は。
「とにかく今は、元の姿に戻る事を優先しないと……」
ジッと見てくる心忍に僕はそう言ったけど……。
「そう、諦めきれないのね。でも、私なら女の子でも良いから」
なんでバレるのかなぁ……しかもサラッとアピールまでしてきたよ。だけど、僕に向かって迷いなくキスしたし、心忍が本気なのは分かる。
でも僕にとって心忍は……幼なじみの1人で、いつも傍にいてくれる心の支えなんです。
「……うっ」
花音よりも心忍の方が、僕にとっての存在感が強いんだけど……き、気のせい気のせい。
「なに顔赤くしてるの?」
「ちょ、ちょっと今日は暑いんです!」
「丁度良いくらいだけど?」
「僕にとっては暑いの!」
学校への道を歩きながら、心忍が僕の顔を覗き込んでくる。確かにこの子も可愛い部類に入るし、何人か心忍の事を好いてる人を僕は知っている。
だからクラスメイトが、僕と心忍を夫婦みたいな扱いをしてくると、必ず嫉妬の視線が僕に向けられたりするんです。
「進、本当にあの2人にはこの事を隠すの? あの2人とも付き合い長いから、絶対にバレるよ」
すると、覗き込むのを止めた心忍がそう言ってくる。
確かに、大輔と花音とは小学生からの付き合いです。心忍とは幼稚園からだけどね。
いくらなんでもバレるよね……。
「進!!」
「進、良かった~無事だった……」
すると僕の後ろから、いつも通りに2人が声をかけてきました。やっぱりSNSのメッセージに返信しなかったから、心配していたみたいです。
「大輔、花音、おはよう。ごめん、ちょっと家族と出かけてて、急だったから……」
「あ~そっか~お前の家族厳しいもんな~家族といる時は携帯触るなだっけ?」
「ん~でも、寝る時に返信くらい出来なかった?」
うぐっ……花音が鋭いです。
「疲れちゃってたから朝にしようと思ったけれど、朝も寝坊して慌てちゃって……」
流石に厳しいかな……この言い訳は。
だけど、大輔も花音も安心した表情になり、いつもの様に僕の横に並びます。
「全く……昨日は怪人が出たからよ、余計に心配するだろうが。気を付けろよ!」
「うっ……わ、分かった。気を付けるよ」
そして、大輔はいつも通り僕の頭に手を置いて、わしゃわしゃと僕の頭を撫でてきます。髪の毛がぐしゃぐしゃになるよ……もう。
だけど、どうやらバレてないようです。
「…………」
そしてその後ろで、心忍が凄い形相で2人を睨んでます。「何で気付かないの?」って感じです。
「心忍? どうしたの?」
「いや……2人とも進の事ちゃんと見てないの?」
ちょっと! それ誘導してるよね?! ねぇ、誘導してるよね!
「ん~? 今日も変わらず可愛いね~」
「うっ……」
「あはは、ごめんごめん。進はいつも通りだよね~」
「あぁ、いつも通りだな。相変わらず可愛い顔付きを気にしてる顔だよな」
そして大輔が僕の肩を抱き、いつものようにスキンシップしてきます。ただ、流石にこんなに引っ付いたらバレるよね?!
「お前さ……顔付き可愛いのを生かせよ」
「へっ?」
「だからよ……腐女子とかその辺でも可愛い子はいくらでもいるぜ。まぁ、ケツ使われるかも知れねぇけどな!」
「うわっ?! 気持ち悪い事言わないでよ!」
話ながらお尻まで触ってきた。これは流石にバレ――
「はっはっは! 悪い悪い! それにお前は、花音の事が好きだもんな」
「……もう」
――てない?!
一応最後のは小声だったから、花音には聞こえてないけれど、それでも大輔は鈍感過ぎるよ……。
僕が中学生の頃、大輔にその事を相談してしまったからね、それから僕の片思いを応援してくれている。
だけど気付こうよ大輔。幼なじみとは言え、花音が結構引っ付いているのを不思議に思わないの?
昔からずっとそうだったから……? 花音の事を男友達として見ているかから? それでも、僕達はもう小学生でも中学生でもないんだよ。気付こうよ。
「…………!!」
そして心忍も「何で気付かんのじゃ、ワレェボケェ!」みたいな顔をしています。それは怖いってば心忍!
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