第2話 魔法少女に大変身!

 誰かの話し声が聞こえてくる。


「よし……成功だ。いやぁ、しかしここまで上手くいくとは」


 誰でしょう……?


 それよりも、僕はどうしたんだっけ?

 そう言えば、下校中に何かにぶつかって……熊の着ぐるみにぶつかって……空っぽの……そうだ! 僕、その空っぽの着ぐるみに誘拐されたんだ!


「うわっ!!」


「……はっ! ここどこ?!」


 徐々に意識が回復してきて、直前に自分の身に起きた事を思い出して、僕は飛び起きました。それと同時に横から声が聞こえる。誰? 誰かいる?!


「あなたは……誰ですか!」


「あ~ビックリした。急に意識を取り戻すなんて、何かあったらどうするんだい?」


 そこにいたのは、白衣を着ていて、口と顎を覆い隠す程のマスクをした男性でした。というか、そのマスクが普通じゃないから、この人が危ない人かも知れないってそう思っちゃう。


 真っ黒で真ん中に赤い線の入ったマスク……そしてその男性が喋る度に、そのマスクの赤い部分が口みたいにして動いています。というか口ですよね! 白い尖った歯も見えた!


「うっ……!! くっ!」


「あ~逃げようとしても無駄だよ。まだ最後の仕上げが残ってるからね」


 良く見たら僕は裸にされていて、実験台の様なものに両手両足を固定されていました。

 男の僕を裸で固定するなんて、この人は変態なんじゃ……と思ったけれど、何かが足りないんですけど……。


「……あ、あれ?」


「ふふ、気が付いたかい~でも、その説明はあとだ……」


 そして異変に気付いた僕に背を向け、その男性は薬品入れの棚の様な所から、何かを取り出している。

 というかこの部屋、真ん中に僕が固定されている実験台があるだけで、あとは同じような棚が並んでるだけです。


 あっ、でも僕の頭の先に机がありました。色々と物が乱雑に置かれていて、ごちゃごちゃしているけどね。


 それにしても、このなにか足りない感覚はいったい……あと、胸が張ってるような感じがするんだけど……。


「……僕に何をしたんですか?」


 声も高いような気がするけれど、気にしない。いや、気にした方が良いかも。

 すると、その男性が棚から出してきた物を手にして、また僕の方にやって来ました。


 黒い……球? 何かもやのようなものが纏っている気がするんだけど……。


「ふっふっふっ……完璧だ。君の容姿と私のこの技術で……この世に2人といない美少女の完成だ!」


「び、美少女?! 僕は男の子です!」


「いいや、君はつい先程から美少女になったのだ!」


「そんな……そんな事……!」


 そして、そいつの気持ち悪く歪む細い目が、僕の体をなめ回すように見てきて、やっと僕の体の異変の原因が分かりました。


 足りないように感じたのは股の所……男ならあるはずのもの、それが付いている感覚……それがない。僕のオ〇ン〇ンがない!


「女体化……自然界ではオスがメスになるなんて事はあるのさ。クマノミとかね。私はそれを徹底的に研究し、遂に様々な生物をメス化させる事に成功したのさ! ある薬を使ってね!」


 女体化……メス化……ま、まさか。それを僕に?


「人間に使ったのは初めてだが、今のところどこにも異変はないようだね。成功だ……あとは……」


「や、止めて……た、助けて」


 だけど、その男性は僕の言葉なんて聞こえていないのか、その手に持っている黒いもやを、僕のささやかに膨らんでいる胸に近付けてくる。


「あの子から抽出したこれを君の中に入れれば、君はこの世界にたった1人の、真の魔法少女になれるのさ。死ななければね」


「死……」


 死ぬの? それを入れられたら、もしかしたら死ぬの?! 嫌だ嫌だ……そんなの嫌だ!

 だけど必死に抵抗しようにも、両手両足は固定されている。逃げられない。


「嫌だ嫌だ……! た、助け……」


「無理だよ。私は君に可能性を感じたのさ。今の社会に蔓延る偽物の魔法少女を倒して、本当の魔法少女をこの世に広めてくれる存在としてね!」


 そう言うとその男性は、僕の胸に黒いもやのかかった球を当ててくる。すると、それはなんの抵抗も無く僕の中に入ってきた。


「あぐっ! かっ!」


 その瞬間僕の体の中の何かが弾けそうになり、そして息苦しくなり、意識を保つのが難しくなってくる。

 このまま意識を失ったら死んじゃうの? そう思った瞬間、僕の頭に変な声が響いてくる。


『良い……嫉妬。この力に相応しい……』


 誰? 誰の声……嫉妬? 分からない……でも、もう息が出来ない、意識が保てない……あぁ、僕は死ぬんですね。


「お父さん、お母さん……大……輔、花音……心忍……」


 そして、皆の顔が頭に浮かんだ瞬間、僕は目の前が真っ暗になってしまった。


 ―― ―― ――


 どれだけ時間が経ったのだろう……眠りから覚醒するみたいにして、僕は目を覚ました。


 生きてた……。


 まず思ったのはそれです。その後、自分が横たわっている場所を確認するけれど、なんの無い飾り気もない部屋。そこのパイプで出来たベッドに、僕は寝かされていました。


「……逃げなきゃ」


 僕に何が起きたかよりも、先ずは逃げないといけない。誘拐されたならニュースになってるかも知れない。そもそも、今が何日で何時かも分からない。


「くっ……」


 とにかく僕は、体を起こしてそのままベッドから降りようとするけれど、足が中々つかないや……背まで縮んじゃってる?

 そして今僕は、肩が紐になっている黒いワンピースを着ているけれど、その中は何も履いてないような感覚がします。せめて下着くらい欲しいかな……。


 そのまま少し歩くと、部屋に唯一置いてあった姿見に、僕の姿が映し出された。だけど、いつもの僕の姿だったので少し安堵しました。


 この場合、全く別人になってる事が多いからね。

 でも、普段の僕となんら変わらないという事は、自分が女装しているような感覚になるからちょっと気持ち悪い。


「早くこの服から着替えないと……」


 だけど、僕の体は完全に女の子になっちゃってる。

 ここから脱出出来たら、今まで通りの生活が出来ると思いたい。でも、誘拐されたと世間で公表されていたら、保護された後に検査されると思う。


 そしたらバレちゃって、いつも通りの生活は出来なくなるかも……。


「ううん、とりあえずここからの脱出が先だ」


 先の事は考えてもしょうがないです。だから僕は、先ずはこの何もない部屋から出て、誘拐犯の潜むこの場所から逃げ出す事にしました。


 そして意気揚々と扉を開いた瞬間……。


「やぁ、どこに行くのかな?」


 目の前に僕の体をいじくり回した、あの変態が立っていました。そしてマスクの赤い口がニヤリと笑い、細い目が僕を見下ろしてきます。


 さっきまでは、頭に手術をする時の医者のキャップを付けていたけれど、今は何も付けていなくて、赤いショートヘアーの髪の毛が見えています。髪まで赤いとか……どれだけ赤い色が好きなんでしょう。


「うっ……!」


「脱走はさせないよ。大人しくしておくんだ」


 そして、そのまま僕はそいつに襟首を掴まれて、部屋に戻されてしまいました。


 こいつ何者なんですか? 男子を女子にするなんて技術、聞いた事もないです。

 そんなの開発するなんて……でもそれが可能だとしたら、この世界ではある1人の人物じゃないと出来ないでしょうね。


「……あなたは、Dr.Jですか?」


「そう言えばそう呼ばれていたね」


 僕をさっきのベッドに降ろし、そのまま僕の体に聴診器を当てたりして、色々と探りながら僕の質問に答えてきました。


 簡単に自分の正体を言うなんて、隠しているとかそんな事はしていないんですね。


「ふむ……異常は無し。素晴らしいね、こんなに簡単に馴染むなんて。君には素質があったんだね」


「なんの話ですか? それと、僕を家に帰して下さい。こんな事をして、僕の家族が警察に電話をして、直ぐに捜索が……」


「君の家族か……それは、この人達の事かな?」


 そう言うと、Dr.Jはテレビのリモコンみたいな物を取り出し、それを操作すると、壁に映像を投影してきました。するとそこには……。


「お父さん?! お母さん?!」


 別の部屋で縄に縛られ、身動きが取れなくなっている僕の両親の姿がありました。しかも、顔や体に傷が……僕の両親になにをしたの?!


「僕のお父さんとお母さんに何を……!」


「いや、なに。君はそう言うと思ってね……それと、君が私達に協力しないのは十分に分かっていた。だから手を打ったまでだよ」


「何の事を……」


「私達に協力して貰おうか? 高梨進君」


 すると彼がそう言った瞬間、その部屋に昆虫の頭をした怪人や、ムキムキの牛の体をしていて、顔が真っ黒で口や鼻のパーツがない怪人などが入ってきました。


 こいつら……もしかしてここって……。


「ようこそ、秘密結社シャフトへ!」


 今、政府の下で働く正義の魔法少女達が戦っている、怪人達の総本山、敵の本拠地……僕はそんな奴等に攫われたんですか?!


 しかも女の子にまでさせられて……もう嫌な予感しかしないです。


「君には偽りの魔法少女を倒す、真の魔法少女になって貰う!」


 悪の魔法少女じゃなかったのかな?


「あの……悪の魔法少女って言われるかと……」


 すると、Dr.Jは悲しそうな顔をしながら話し始めます。


「悪……か。確かに世間一般から見たら、悪の魔法少女になるのかも知れないね。だけど、私は許せない」


 あっ、今度は怒りに満ちた顔……この人の地雷って、魔法少女でしょうか?


「私が置いていった魔法少女の設計図を、兵器としてしか利用していないことにな! 魔法少女は兵器じゃな~い!! あれだけの演技をしたのに、なんだあれは!!」


「……えっ、あの……」


 もしかして、花音達は利用されているだけとか? いや、だけどこいつの言ってる事は信じちゃ駄目だ、悪の秘密組織の親玉みたいですからね。

 僕を悪の道に落とそうとしているのかも知れない。何よりこのままだと、花音達と戦う事になってしまう。それだけは嫌だ。


 何とかして逃げないと。


「真の魔法少女を作るために怪人を作ったと言うのに……怪人を作るのに精一杯で、魔法少女を作るための予算が……その為に政府に設計図を渡し、魔法少女を……それなのに」


 ブツブツ言ってる間に逃げましょう。バカですか? この人……。


「だけど、君はあの子に選ばれた! だから魔法少女として……おや?」


 遠くの方から何か聞こえたけれど、僕はとっくに廊下に出て、そのまま真っ直ぐ走り去ってます。


 着替え、先ずは着替え……でも、先に脱出した方が……その前にお父さんとお母さんを探さないと。

 そもそもここは1階で良いのかな? 階段があっても降りない方が良いのかな?


 とにかく僕は、今いるこの階に出口が無いか探すけど……そもそもここは悪の組織の本拠地です。


「おい! あいつ脱走してやがるぞ!」

「捕まえろ!!」


「うわっ! 怪人?!」


 目の前から、色んな姿をした沢山の怪人がやって来て、僕を捕まえようとしてきます。


「ど、どうしよう。僕に戦う力なんて……」


 すると僕の頭の中に、意識を失う前に聞こえた謎の声が聞こえてきました。


『あるよ……君は私の力を受け継いだ……だから戦えるよ』


「へっ? 君は誰?!」


 これ……女の子の声だ。僕が受け継いだって、いったい……。


『良いから……早くして。こう言えば……変身出来るから。プリティ・チェンジ』


「えっ? うぅ……わ、分かった……」


 なんだか嫌な予感しかしないけれど、ここを突破するにはそれしかないんですよね……それに、怪人がもう目の前で来ているし、急がないといけない。


 そして観念した僕は、言われた通りの言葉を叫びます。


「プリティ・チェンジ!」


 するとその瞬間、僕の着ていたワンピースが霧散して、僕は裸に……って、なんですか! これは?!


「わわっ!! 何これ何これ?!」


 だけどそのあと直ぐに、僕の体の周りには、黒い光りで輝く粒の様なものが纏わり付き、それが形を変えていく。


 足下から順番に可愛らしいブーツ、膝までのニーソックス。その先は、黒くて短めでサイドに可愛いリボンの付いたズボン。背中と腰の間には大きなリボンが付いて、その上は袖にフリフリのリースが付いて、色々な飾り付けのされた黒い半袖のドレスの様な服になった。


 ついでに星型のヘアピンで前髪が纏められていました。この格好、もう完全に誰が何と言おうと女の子です!


「な、なんで僕がこんな格好を!」


『そこを突破したいんでしょう……? それなら……戦わないと』


「うぅ……だけど、こんなので本当に何とかなるの?」


『良いから……腕を前に伸ばして……こう言うの――』


 その後なんだか変な言葉を言われたけれど、本当にこんなので何とかなるんでしょうか? いや、やってみないと分からないし、このままだと捕まるのも事実です。それなら……。


「母なる力に逆らうな。グラビディ・ショット!」


 そして言われた通り、手を銃の形にしてそう言うと、僕の指先から黒い球の様なものが現れて、それが目の前から襲ってくる怪人達に向かって放たれます。


「へっ? なんだこ……ぐわぁっ!!」

「ぎゃはっ!!」

「げふっ!!」


 そのままその黒い球が拡散したと思ったら、襲ってきていた怪人達が壁に押し付けられたり、地面に押し潰されたりしました。


 吹き飛ばされた感じじゃない、押された……何か強い力で押された感じだ。


「…………」


『うん、完璧……それじゃあ来て、私の所に……そのまま上に来て』


 あまりの事に呆然とする僕に、頭の中から聞こえてくる声がそう言います。


 信じて良いの? いや、でも……ここから出ようとしても怪人達が邪魔をするなら、この声の主の所に行って、脱出方法を聞くだけも良いかも知れない。


 襲ってきたら、この力で吹き飛ばせば良いんだ。

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