魔法少女になってしまった僕の受難

yukke

始まりの時

第1話 壊れていくいつもの日常

 暖かな日差しが射すこの日は、入学式には持って来いですね。


 今日僕は高校生になり、また1つ男らしくなりました。それなのに……なんで男子からの視線が激しいのでしょうか?


 桜の花が舞い散る中、僕はこれから通う高校へ向かう道すがらで、色んな人の変な視線に晒されています。そんな時。


「よっ! すすむ!」


大輔だいすけ!」


 いつも通りの挨拶をしてくる幼なじみの大輔が、僕の背中を叩いてきた。いっつもこの挨拶なんだよね、大輔は。

 僕は慣れちゃったけれど、彼はガタイが良いから他の人だとつんのめっちゃうんだよ。


 短髪でサイドは刈り上げていて、キリッとした顔付き、身長も僕より高い。ちょっと見上げないと駄目なんです……男らしいイメージ全て詰めこんだ感じなんだよ。


 だから、僕はいつも大輔が羨ましく思っています。


「そんで、今日から楽しい高校生活が始まるっていうのに、お前は何で暗いんだ?」


「うぅ……中学の頃から変わらない視線が……」


「あ~まぁ、お前可愛いからな」


「可愛いって言わないで下さい!」


 そうなんです……僕はどっちかというとパッチリ二重の女顔で、背も低いから女の子と間違えられる事が日常茶飯事なんです。

 髪の毛の長さは普通の男子と同じくらいのセミショートなんだけど、やっぱり顔付きで変わってくるよね。


 学校の制服を着ていたら間違えられる事はないけれど、普段着で街中出たらナンパされる事があります。それも男から……。

 だから、僕は男らしくなるんだ! 高校デビュー、ここでまた同じ事が起きていたら、僕はまた3年間……。


「君、可愛いね……同じ新入生? 良かったら仲良く……」


「……僕の着ている制服が見えないんですか?」


 言ってるそばから、いきなり誰か馴れ馴れしく話しかけて来たよ……僕はまた同じ事になるんですか?!


「おい、お前見て分かんねぇのか? こいつは男だぞ!」


「えっ……えぇ?! 事情があって男子の制服着ているのかと……」


「そんなわけありません!!」


 僕がそう怒鳴ったら、声をかけてきたその人はトボトボと去って行きました。本当にどうなってるの……。


「おっはよ~お二人さん~また2人仲良く登校かな~?」


 その時、僕達の後ろから女子の声が聞こえてくる。いつも安心する透き通った素敵なこの声は、幼なじみの女子の1人です。


「あっ、かの……」


「よぉ! 花音かのん! また同じ学校だな。この腐れ縁もいつまで続くんだっての」


 僕が先に返事しようと思ったのに、大輔に先に返されちゃったよ! いつも大輔が先に花音に返事するから、彼女の印象がね……。


「確かにそうだけど、私はずっと皆と変わらない時間を過ごせる方が嬉しいかな~ねぇ! 進君!」


「うぁ……あっ、う、うん。そうだね……も、森本もりもとさん」


「……あっれ~? いつから私の事を苗字で呼ぶようになったの?」


 うぅ、思い切り目を細めて見られてる。怒ってる? でも、そっちが先じゃん。


「そ、それを言うなら、そっちだって『君』付けじゃないか」


「あ~ごめんね……なんだか弟みたいで。許して、進」


「気を付けてね……花音」


 そう、彼女の中で僕は弟みたいになってるんです……はぁ、せめて男として見られたいです。


 そうなんです、僕は小さい頃から花音の事が好きなんです。だから、彼女に認められる為にも男らしくなりたいんです!


 だけど……。


「あっ、大輔。今日のオリエンテーションだけど……」


「んぁ? いや、俺は適当に聞いてるぞ」


「駄目だよ~ちゃんと自己紹介しないと! クラスに溶け込めないよ!」


 そう言いながら、花音は大輔に引っ付いている。誰が見てもハッキリと分かる……彼女は大輔が好きなんだって。


 しょうがないと思うよ……だって彼女は、つり目ながらも整った綺麗な顔付きをしていて、癖っ毛があっても茶髪のロングヘアーは大輔の好みだったりします。この前髪の長い子が好きって言ってたからね。


 花音は小学校の頃は僕と変わらなかったのに、中学生の頃から伸ばし始めて、今では腰辺りまで伸びています。


「……はぁ」


 しかも花音は体型もスレンダーで、出るところは出ている感じです。お尻もしっかりと女の子らしいお尻だし……って、僕はどこを見ているんでしょう。


 だけど、慌てて視線を外した僕の目の前は、誰かの両手で防がれました。でもこの匂いと、背中に当たる柔らかい感触は……。


「……心忍しのぶ?」


「なんでバレたの?」


「いや、匂いです……」


 胸とは言いませんよ。


 今後ろから両手で僕の顔を覆っているのは心忍しのぶ。大輔、花音と同じ僕の幼なじの1人です。


 たれ目で眼鏡をかけていて、黒髪の肩までのセミロング。ちょっとおっとりしているけれど、花音と同じように顔は整ってるから、結構可愛い方だと思います。しかも胸も花音よりも大っきいし……。


「……そう、匂いだけね」


 そして、それを余計に僕の背中に押し付けてきましたね。分かっていて押し付けてますね。この子は少しおかしいんです。小学生の頃から、僕に色々と変な事をしてきます。


「お~お~朝からお熱いな~お二人さん~」


「ちょっ! 大輔! 違うから! 花音も違うからね!」


「ふふふ。分かってるよ~」


 分かってない、あの目は絶対に分かってない! 微笑ましいものを見る目だ!


「高校生になったからって、私達は何も変わらないわよ。あ・な・た」


「誰がですか?!」


 でも、実はこれも僕達にとっては日常的な事です。


 これが僕達のいつも。高校の入学式の日も、いつもと変わらない登下校の風景に、きっと僕はこの3年間もこれを繰り返すんだろうなと思っていました。


 ―― ―― ――


同道どうどう君~!」


「同道君、明日のお昼休み一緒にご飯食べない?」


 入学式が無事に終わり、クラスメートの自己紹介も終わり、昼までで下校となる僕達は荷物を纏めています。その時、大輔の席の周りに女子が集まってきたのです。


 大輔は自己紹介の時に割と普通にしていたのに、あれだけ女子が群がってくるなんて……中学とは違うんだなぁ。もちろん同道は大輔の苗字です。


 そしてそれを、花音がソワソワした感じで見ています。すると、その花音に同じクラスの女子が話しかけてきます。


「そう言えば森本さん、今朝同道君と一緒に登校しているのが見えたけど……まさか2人は……」


「えっ? あ~! 違うよ! 私達幼なじみだから!」


「わっ!」


 そう言って僕の肩まで引っ張らないで下さい! わざわざ僕の席まで来て、もう……。


 それと、さっきの言葉は無理してたよね。顔が引きつってますよ。あと……。


「え~!! 同道君と高梨君と幼なじみなの?! カッコイイ子とカワイイ子が幼なじみなんて羨ましい!」


 僕を巻き込まないで下さい!! 因みに高梨は僕の苗字です。


 それにしても、このままじゃ中学の時と同じ事に……。


「あ~あんた達悪いけど、昼飯はこの3人で食いたいからな。まぁ、それ以外はいつでも話しかけて良いぜ」


「ワザと? 天然?」


「何がだ? 進」


「いや、別に良いです……それよりも」


 心忍がこの教室の外から僕達を睨んでます。彼女だけまさかの別のクラスでした……。


「くっ……こんな所で夫婦に壁が……」


 それ誰に言ってるんですか? 別に好かれるのは悪い気はしないし、心忍の事は嫌いじゃないけれど……愛が重いです。僕潰れちゃう。


 するとその時、花音と心忍と大輔のスマホが鳴り響きます。3人同時……ということは。


「ちっ……マジかよ。近いのか?」


「待って、ここではマズい。行くわよ大輔。ごめん、皆! 私達用事があるから先に帰るね」


 そして、いきなり3人の顔付きも変わります。中学生から高校生になり、しかもこの春休みで3人はもう……僕の幼なじみではなくなっちゃいました。


「進、ごめん。先に帰ってて、だけど……」


「分かってるよ心忍。安全に帰るから。3人も気を付けて」


 僕がそう言った後、3人は同時に教室を出て行きます。またアレが出たんですね。


 今から数年、この国にあるものが現れてから、住民は皆気が気じゃないんです。それは……。


「あっ! あそこ見て!」


「爆発?! まさか、怪人か?!」


 怪人という化け物です。人の姿はしていても、顔や体が人じゃない。そんな奴等が現れて、僕達の世界を奪おうとしてきているのです。


 その理由は分からない。ただ、誰が生み出したかの原因は分かっている。


 Dr.Jドクタージェイ。医師でありながら、新生命体の開発研究をしていた彼は、自宅の研究室で怪しい実験を繰り返していたらしいです。


 そしてある日、そこで爆発が起きて、彼の実験結果は日の目を見る事になったのです。

 爆発した後のその場にあったのは、怪人の肉体の一部と、その設計図らしき物があったのです。だから、彼が犯人だとされています。


 だけど、彼はその日から行方不明となったのです。


 そして翌日から、街には怪人と呼ばれる化け物が暴れる様になりました。


 ただ、彼の研究室にはあるものも残されていた。


 政府の研究施設はそれを持ち帰り、独自に研究を進め、遂にそれを開発して実用したのです。


「イヒャヒャヒャ! カワイイ女の子は皆俺のものだ!」


「あの怪人、こっちに来てる!」


「なんだあの頭! 女子のパンツみたいな物を被ってやがる!」


 パンツ被ってるのは最悪ですね……。


 そして丁度その時、学校の屋上から声が響き渡ります。


「そこまでよ! 怪人! あんたみたいなあくどい化け物は、私が成敗してあげる!」


 政府が持ち帰り研究したもの、それは――


 『魔法少女』への変身技術なのです。


 そしてその魔法少女になったのが……。


「おい、花音。こんなに学校に近いと……」


「分かってるわよ……それと、私は今はフラワーガールだから、そう呼んでよ」


「わ、悪ぃ。まだ慣れねぇもんでな」


 なにを隠そう花音なんです。


 そしてその花音を守る剣士として、大輔が護衛剣士となったのです。それだけじゃない……。


「2人とも、あの怪人のデータ出すから1回攻撃して」


「相変わらず攻撃しないと出ないのかよ」


「まだ精度が良くないの……」


 心忍も2人をサポートする役として、怪人のデータ解析をやっています。


 だから、僕は3人とは春休みの間、あまり会えなかったのです。

 連絡はしていたし、たまに会ってはいたけれどね。そしてこの前会ったら、3人はもう……遠い存在になっちゃっていました。


 僕はずっと……遠くで見ているだけです。


 3年間……この3人と変わらずに生活出来ると思っていた僕は、図々しかったのかな……。


 そしてなんだかいたたまれなくなった僕は、足早にその教室から出て行きます。恐らく3人はこのまま、高校デビューという事になると思うから。


「おい、あの3人!」


「間違いない! あれって……!」


 学校の近くまで来られたのは予想外だったでしょうね。3人の正体がバレたと思います。

 それでも、遠くから戦闘音が聞こえる。正体がバレていそうでも、ちゃんと戦っているんですね。流石、僕の幼なじみだった人達です。


 ―― ―― ――


 その帰り道、僕は肩を落としながら家路についています。だけど、そもそもあの3人には素質があったみたいなのです。だから選ばれた。国の研究機関にね。


 その研究機関は確か……魔法少女開発機関だっけ。そこから春休み前に、3人にアプローチがあったのです。


 3人は昔から特別凄かった。

 大輔は小学生の頃から剣道をやってて、中学でも色んな大会で優勝しまくっていたし、花音も弓道をやっていて、もちろん大会で優勝しまくり。2人とも表彰とかされていました。


 心忍は……確か海外の有名ハッカーから、国の重要な情報を守ったんだっけ?

 ハッキングしようとしているのを事前に察知して、逆にそいつらの所にハッキング仕返して、その時分かった所在を色んな所に通報したんです。そして、なんとその人達は捕まりました。


 何気に心忍が1番凄かったです。


 そして僕はというと、体力も知力も平凡……3人の凄い幼なじみを前に、僕の存在なんて霞んじゃいます。


「はぁ……これからあの3人とはバラバラに……うぷっ!」


 暗い気分になりながら、小さな通りの角を曲がった瞬間、僕は何かにぶつかりました。というか、ここで何かにぶつかるって人しかいないです。考えごとをしていたからウッカリです。


「ご、ごめんなさ……い?」


 だけど目の前にいたのは、大人の男性くらいある大きな可愛らしい熊の着ぐるみでした。何これ? なにかのイベントの帰り? それとも、近くで何かイベントやってるの?


「…………」


「あぐっ!!」


 するとその熊の着ぐるみは、無言で僕のみぞおちを思い切り殴ってきました。その急な衝撃と痛みで、僕は息が出来なくなり、その場に膝を突きました。そして……。


「……」


「かっ……けほっ、うぅ……」


 熊の着ぐるみは僕に近付き、そのまま僕を担ぎ上げます。これは、誘拐? 僕を攫ってどうするの?!


「は、離し……ひっ!」


 その後のあまりの出来事に、僕は引きつった悲鳴を上げてしまいました。


 熊の着ぐるみが自分の頭を取ったんだけど……中にいるはずの人の頭が無かったのです。そして、そのまま僕を着ぐるみの中に押し込もうとしてきます。


 空っぽ……着ぐるみの中には誰も入っていなかったのです。


 それじゃあこの着ぐるみはなんで動いてるの?! というか誰か見てないの?!


「だ、誰か!! 助け……うわっ!!」


 だけど、僕の助けを呼ぶ声に誰かが反応する様子も無く、そのまま空っぽの着ぐるみの中に放り込まれてしまいました。


 真っ暗で怖い……僕をどこに連れて行くの?!


 お願い、誰か助けて……ねぇ、誰か!


「助けて! 誰か助けてよ! 大輔!! 花音……! しの……ぶ……」


 しかもなんだか眠くなってきた……やだやだ、こんな所で死にたくなんかない! お願い誰か……助け……て。

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