一試合目を終えて

 あの時のことはあまり覚えていない。


 撃たれて、血が吹き出して、無我夢中で怪我にティッシュを押し当てた。

 それでもなかなか血は止まらず、1袋近い量のティッシュを使って何とか止めた。


 やっと血が止まったと安堵した瞬間、耳が吹き飛んだ。

 撃たれた。そう思った時には既に耳から血が流れていた。


 痛み、死ぬかもしれないという恐怖。意識が朦朧とする中、その二つはハッキリとしていた。

 意識が朦朧としているのに、痛みと恐怖だけはハッキリとしている。これが、死ぬという事なんだと思った。


 これ以降何があったのか、殆ど覚えていない。気が付いたら待合室に居て、スタッフに自分が勝った事を伝えられた。訳がわからなかった。殆どの記憶が無いのだから。


 だけどただ一つ、諦めた事だけは覚えている。何もかも諦め、無理矢理自分を納得させた事だけは。


 こんなの理不尽だ。もうどうしようもない。仕方が無い。諦めよう。


 自分の意思に関係なくこんな大会に参加させられている事、

逃げ出すのも自ら負けを認めるのも許されず戦うしかない事も、

怪我する事も、

死ぬ事も、


全て仕方が無い事なんだ。


 自分には何も出来ない。諦めることしか出来ない。




……怖い。諦めても怖いものは怖い。戦いたくない、死にたくないとは思わない。それでも怖い。


 肩と耳の怪我は全て元通りになった。傷は見当たらず耳はある。

肩にも耳にも痛みはない。だけど心には恐怖がある。


 次の試合は恐怖を感じる間も無く死にたいな。

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