最終話 オレたちの未来
王国歴50年 自室にて記す。
建国してより50年もの月日が流れ、アシュレリタは大いなる繁栄を果たした。
今では大陸で一二を争う大都市へと変貌し、万を越える人々が往来を行き交う毎日だ。
小屋ひとつない焼け野原から始めた事を思えば、魔人王の手腕の凄まじさが分かることだろう。
数々の困難を討ち果たし、ニンゲンも魔人もない国を樹立した魔人王タクミとその仲間たち。
読者も気になっているであろう、彼らのその後について記そうと思う。
まずは魔道将軍レイラ。
彼女は教育者としての立場を真剣に考え、数々の教育書を書き記した。
これまでの学問の体系を塗り替える画期的なものだったとか。
また、彼女は王の善き理解者でもあり、側室として大いに愛された。
王との間に生まれた2人の子は才気に溢れ、後に高名な魔道師として名を馳せる事となる。
次に財務官システィア。
税を安く保障を厚くという言葉を念頭に、懸命になって責務を全うした。
大きく荷を動かしては利益を生み、無駄な公費には目を光らせるという、気の休まることのない日々が続いた。
本日に至るまで財政が健全なのだから、これは彼女の功績と言えるだろう。
王との間には1人の子を授かった。
母に似ず計算が不得意で、細工物に没頭できる生き方を選んだ。
執政官リョーガ。
彼はあらゆる難題を解決へと導いた、魔人王の頼れる右腕。
戦場でも内政でも欠かせない優秀な男だ。
彼の力は建国後も遺憾なく発揮され、揺らぐことのない国の礎を築いた。
多忙な日々の中でも魔人の娘と恋に落ち、結ばれた。
彼の巨体に似つかわしくない、華奢で控えめな女であった。
法務官マリィ。
彼女は謎の多い女性だ。
いったいどこからやってきたのか、知るものは少ない。
彼女の制定した法に難解なものは少なく、それは学の無い者たちにもすぐさま浸透した。
現在も残る「5つの基本法」を制定した後、またどこかへと去っていった。
それ以降、彼女の姿を見たものは居ない。
万能なるメイド、イリア。
リョーガが右腕ならば、彼女は左腕だろう。
あらゆる局面にて王の補佐を担った。
微笑みを崩さないまま難事を片付けるその姿に、国民は口を揃えて彼女を称えた。
彼女もやはり王との間に子を授かる事となる。
5人もの子宝に恵まれ、その子達は次世代の王を助ける有力者となった。
魔人の后、アイリス。
イリアの厳しい指導のもとで数々の知識を得た後に、正式に王妃となった。
2人の仲は睦まじく、王の往く先々には常に彼女の姿があった。
それは年老いても変わることなく、生涯をかけて夫である魔人王だけを愛し続けた。
彼女は第一王女、第一王子を産んだ。
元来素朴な性格であるアイリスによって育てられ、2人の子も多くの人々に愛される人格者となった。
初代アシュレリタ王、タクミ。
叡知の王、武王、慈愛の王。
彼の呼び名は多くあるが、いずれも事実である。
的確な指示で民を導き、危機が訪れた際は矢面に立ち、時には人民を心から気遣った。
ーーおい。
だが、通り名だけで彼を表しきるには不十分だ。
どちらかと言うと不安定な性質で、数々の不完全な部分に……。
ーー無視すんな、聞け!
ーーーーーーーー
ーーーー
「あら、タクミじゃない。どうかしたの?」
「どうかしたの、じゃねぇよ。なんだその長大なポエムは?」
街中を視察してた時の事だ。
レイラの執務室から、妙に芝居掛かった声が聞こえてきたのだ。
その声は恥ずかしいくらい外にダダ漏れだった。
執務室には既にアイリスとシスティアが居た。
実名であんな空想話を聞かせられたら、当人は気になるよな。
「ちょっと歴史書みたいなの書いてみようかなーって。上手くいけば王立図書館に置いてもらえるかもしれないでしょ?」
「歴史書ってさっきのか? 根も葉もない架空の物語じゃねぇか」
建国50年とか聞こえた気がするが、まだ1年どころか半年が経ったくらいだ。
捏造もここまで来るといっそ清々しい。
「でも、なんか良いこと書いてませんでしたぁ? 私は功績が認められるし、子供もできるしー」
「私も良いことが書いてありましたね。生涯仲睦まじく……ですか」
「陛下と5人の御子、ふふふ。そうなると存分に仕込みを、ふふふ」
雲行きが途端に怪しくなった。
皆がどこか違う次元の夢を見始めたようだ。
お前ら、目の焦点が合っていないぞ。
怖い。
「でしょ? 良い未来でしょ? これが現実になったとしたら……」
「ほぉう。レイラさん、面白い発想をしますねー。その文章が現実になったら、ですか?」
「つまりはタクミ様に踏襲していただければ、そのような幸せが待っていると」
「うふふふ、御子が5人御子が5人うふふふ」
不味い、これ以上は危険だ!
ひとまずは何処かに身を潜めなくては!
「あぁ! 逃げたわよ!」
逃げたわよ、じゃねーよ。
猛獣に囲まれたままジッとしてるわけねぇだろ!
それから街の中をグルグル回って連中を撒こうとしたが、中々上手くいかない。
イリアが簡単に見つけてしまうからだ。
クソッ、無駄な能力を発揮しやがって。
しばらく逃走劇を繰り広げていると、マリィと鉢合わせた。
「おう、タクミ。丁度良いところに。ちと話があるんじゃが……」
「おぅ。助けてくれるなら話を聞いてやるぞ!」
「何がそんなに切羽詰まってるのかしらんが、また旅に出ようと思っての」
「旅だって?」
「集魔の法で掠め取られた力を取り戻す作業じゃ、また付き合ってくれると助かる……」
「いいなそれ! すぐ行こう今行こう!」
「お、おい。引っ張るでない!」
オレは女たちから逃げるため。
マリィはまた力を取り戻すための旅。
お互いの目的が噛み合った、まさに理想系の提案だった。
「ちょっとー、どこまで行く気よー!」
「タクミさーん。そっちはコモゾークですよー」
「タクミ様、遠出ですか? 私もお供します!」
「5人も育むとなると一代事業です。今すぐにでも仕込みを、私の中に仕込みをッ!」
逃げる2人を追う4人。
前回の旅出の時と構図が似ていると、なんとなく思った。
こうして逃げているオレは国王で、追いかけてくるのも王妃や重臣やらだ。
肩書きが重苦しいものに変わっても、中身は以前のままだった。
こんな騒がしい日々はこれからも続いて行くのだろう。
これからも、ずっと。
ー完ー
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