第34話 みんなの役割
国を名乗るからには、決めなくてはいけないことが数多くある。
今日は主だった者を召集して役職を決めることになった。
参加メンバーはリョーガ、レイラ、システィア、アイリス、イリア、マリィ。
そして都市組からドンガ、クライ、マーガレット(誰?)が選出された。
「じゃあ役割について一個一個決めてくか」
「ママー、アタシおなかいっぱーい!」
「残しちゃダメよ。全部食べなさい」
これだけの大人数が集まれる場所は食堂くらいしかない。
食事を時間による分割制にしてしまったので、閑散とした時間もほとんどもない。
だからこの場の空気は基本的にほのぼのしているし、うっすらと腹が減りそうであった。
「まずは内政のトップである執政官だ。これをリョーガに任せたいと思う」
「いいんじゃない、適任よ」
「異義なーし」
「はーい決定ねー」
「即決過ぎやしませんか?!」
オレらの万能クマさんが驚愕の顔で吠える。
実績もあるんだからへーきへーき頑張ってー。
「次に金を管理する財務官だ。これはシスティアにやらせよう」
「いいんじゃない? 他に出来そうな人も居ないし」
「まぁ、金勘定には向いとるじゃろうな」
「タクミさん! ありがとうございますぅーッ!」
システィアが感極まった声をあげた。
よっぽど嬉しくて堪らないんだろうな。
だがオレはその感激に水を差すように、話を付け加えた。
「ただし!」
「た、ただし?」
「監視役にイリアを付ける。数字をごまかすんじゃないぞ」
「ぁぃ」
そこで小声になるなよこの野郎。
何か企んでやがりましたか?
不正が発覚次第キツーイ罰が待ってるから、真面目にやれよな?
それからも話は続き、役職がサクサク埋まっていった。
兵士長がクライ、戦闘指導はマーガレット。
この辺は今まで通りらしい。
特に反発もなく決まった。
法律を決める法務官はマリィ。
これは珍しく自薦だった。
マリィは本来ゲストだったはずだが、ここに住み着く気なのかもしれない。
他に任せられそうなヤツも居ないため、即決となった。
街の建築物の管理をする造営官はドンガだ。
最初は散々に渋られたが、研究費の増額を伝えたら即座に応じてくれた。
『手のひら返し』の波はこんな所にも届いている。
子供たちの教育係となる文部官の魔術・文学担当にレイラ、礼儀作法にはイリアだ。
レイラは本を良く読むから適任だ、という話である。
イリアだって腐ってもメイドだから、マナーには精通している。
この2人に育てられた子供たちの精神性が気がかりではあるが、まずは任せてみよう。
「さて、目ぼしいものは決まったな。じゃあ解散……」
「まだよ」
「まだですね」
「重要事項が決まってませんよ、タクミ様」
「お妃様の選出が完了しておりません」
クソッ、逃げ切れなかった。
女性人だけでなく男性人からも『早く決めろ』という空気が流れている。
「うーん、じゃあ……アイリスで」
「わ、わた、私ですかッ?!」
「まぁ消去法からーーじゃなくて、うん。お前に決めた。これからもよろしく頼む」
「ハイィッ! もちろんです!」
アイリスは両手で顔を包み込み、足を忙しなくバタつかせている。
床まで届いていないから、その足は空を蹴るばかりだ。
こいつは『嫁さん』というより『妹』に近いんだが、この中から選ぶとしたら他に人はいない。
妹っぽさも大人になれば変わるだろうし、今後に期待しよう。
「その代わり、アイリスはまだ幼い。正式な務めは5年後とするからな。それまでイリアに諸々教えてもらえ」
見た目12歳かそこらの少女を后にするような度胸は、オレにはない。
いずれアイリスをお偉方の前に連れ出す事になるのだから、マナーの勉強もそれなりに必要だろう。
少なくとも引き延ばしに対する名目としては、一番筋が通っている。
「陛下、お任せください。私がアイリスを大陸一のテクニシャンに育ててみせます」
「わかりました。とんでもねぇテクを体得してみせます!」
「オレが言ってんのは礼儀作法についてだ!」
それから各人の報告や雑談をして、解散となった。
家に帰る途中でふと気づいた。
今後は1人でゆっくり寝られる、という事実に。
アイリスは修行中だから、しばらく寝所には来ないだろう。
他の連中も正当性がないのだから、同様にやってこないはずだ。
いやぁ、ようやく手足を伸ばして寝られる日が来るのか。
そんな快眠はいつぞやの旅館以来だ。
……と思っていたのだが。
レイラ、システィア、アイリス、イリア。
4人とも当たり前のようにやってきた。
「私は正妻じゃないけど愛人だから」
「私は側室がいいです。やっぱり奥を握ってこそ荒稼ぎが出来そうですからねぇー」
「タクミ様の貞操をお守りするために、これからも私がお守りします!」
「陛下のメイドとして昼夜離れるわけには参りません。夜も優秀な奉公人にございます、試されますか?」
后を決めたときに反発しないと思ったら、そんな事を考えてたのか!
お前ら帰れよマジで!
それから阿呆4人との押し問答は深夜まで続けられた。
オレは国民のみんなに平穏な暮らしを約束した。
じゃあオレの平穏は誰が保証してくれるのだろう?
それに答えてくれる人は、誰もいなかった。
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