第33話  新生アシュレリタ

ーー重大発表につき、中央広場へ集合せよ。


全住民に出された初めての告知だ。

リョーガたちも昨日に戻ってきたので、話を把握してるはずだ。

把握してるはずなのだが、正確には伝わらなかったらしい。


オレはアシュレリタの今後について演説する積もりだったんだが、こいつらは揃いも揃って別の事を考えたらしい。



生え抜きらしい屈強な兵を連れてきたリョーガ。

着なれていないハーフプレート姿のレイラ。

胸元に大量の花を着けているシスティア。

純白のロングドレス姿のアイリス。

そして、ビキニ水着風の装いのイリア。


お前たちは何をどう聴いたらそこまでチグハグになるんだ?

オレは一人一人のネタ見せに対して丁寧に問いただしてやった。



「リョーガ、その物々しい連中はなんだ?」

「これからジュアンさんと戦争をするんですよね? 落とし前つけて貰うために」



発想がチンピラじゃねぇか。

お前はオレの事を狂戦士か何かだと思ってんのかよ。

やらずに済む戦争を誰がやるかっての。



「レイラ、お前はなんで騎士風な出で立ちなんだよ」

「これから四天王の発表でしょ? 決めるのが遅かったくらいだもんね」



まだそんな肩書きにこだわってたのかよ。

そして選ばれる気満々なのが厚かましい。



「システィア、その花は?」

「私も間違ってますかぁ?! てっきり私の財務官の叙任式だとばかり……」



頑張りに応えるつもりはあったけど、今じゃなかったな。

演説の後にその件に触れてもいいけどさ。



「アイリス、その格好はもしや?」

「あの、その、私頑張りますから! だから、しゅわわせにしてくださいッ!」



やっぱり花嫁衣装かよ!

顔を真っ赤にしつつ、祈るようなポーズで叫んでいる。

これは受け止めてやらないと、オレが悪者になっちまうのか?

というか、そういう話は折りを改めてくれよ。



「イリア。聞くだけ無駄かもしれんが、それは何の真似だ?」

「陛下の強行軍が無駄に終わってしまったと耳にしました。さぞかし鬱憤が溜まっておられるでしょうから、存分に発散していただこうかと」



あっぶね、これニアミスじゃねえか。

失意の心がノーパンメイドの侵入を許してしまったかもしれない。

ナイスセーブだぞ、アイリス!



「これから発表するのは今後の指針についてだよ。みんな待ちくたびれてるから、早く列に並べって」



連中を聴衆側に戻し、オレは演壇に登った。

ドンガに急ピッチで造らせた、木製で飾り気のない舞台。

廃墟から再建したオレたちの初演説の場としては、一番似つかわしいかもしれない。


一段高い場所から皆の顔を見た。

知った顔も知らない顔も、大人も子供もジッとこちらを見ている。

聞く姿勢であることを確認してから、芯の通った声で告げた。



「みんな、ここまで良くやってくれた! 危うく街を犯されそうになったが、無事に済んだことは大変喜ばしい」



咳払いひとつ聞こえない静寂。

そこにオレの声だけが響いている。



「この場に居る者たちは、一度は故郷を失ったものたちである。あるものは家を焼かれ、あるものは土地から追いやられた。気丈に振る舞いつつも、心は大きく傷つけられたことだろう」



聴衆のうち、何人かの頭が揺れた。

心の琴線に触れたのかもしれない。



「だが、安心して欲しい。二度とそんな目に合わせることはないと約束しよう。オレは本日を持ってこの地にオレたちの国を建国する!」



ざわめきが辺りに広がった。

枠組みの話なんかしてこなかったせいだろう。

なんとなく魔人が集まり、それを統べるオレがいる街。

今までのアシュレリタはそんな認識だったに違いない。

だがこれからは違う、心の内が別物となるだろう。



「オレたちは間違いなく生まれ変わった。人間も魔人も分け隔てなく手を取り合えている。人間世界では叶わなかった偉業をここでは易々と成し遂げたんだ。よってここに『新生アシュレリタ』の建国を宣言する!」

「全ては偉大なる王の為にッ!」

「全ては偉大なる王の為にーッ!」



さざ波のように住民に掛け声が伝播し、やがて大合唱となった。

みんなが一丸となった瞬間だ。

これもマリィがもたらした『叡知の王』の力かもしれない。

だが、そんな事は些細なことだ。



「数百年に渡る争いも間もなく終焉を迎えるだろう。新時代を築くのはオレたちだ!」

「偉大なる我らが王に栄光あれ!」

「アシュレリタに陰りなき繁栄あれ!」



オレが偉大かどうかもどうでもいい。

みんなが当たり前のように生きて、当たり前のように平和に暮らせる国。

そんな場所を用意してあげたかった。

心にあるのはそれだけだ。


後日ジュアンから祝辞が述べられた。

それは人間側も公式にオレたちの事を認めたことになる。


こうして自称ではなく正式に『アシュレリタ王国』は産声をあげたのだった。

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