第25話  出所不明の力

ミレイア地下迷宮跡地。

かつて、ここの国の王が呪術を悪用しようと企み、そして闇に葬られたという曰く付きの場所だ。

事件以来厳重に封じられて居たようだが、現体制側によって解かれてしまったようだ。

今も鉄の大扉は開かれ、誰一人阻むことは出来ていない。



「見張りの制圧、オッケー」

「小さい方の集魔兵は大したことないですね。大きい方は要注意ですが」



犬の顔をした半獣の兵士が見張りとして立っていた。

様子見がてらオレとリョーガで当たったが、それほどの脅威ではなかった。



「地下迷宮とはやっかいじゃのう。早う敵の元へたどり着きたいのじゃが」

「レイラ、地下迷宮ってのは深いのか?」

「深くはないみたい。その代わりワンフロアが地上の街と同じくらい広いらしいわ」

「本当ですか……。だとすると、探索に時間が掛かりそうですね」

「こんな時に総当たりでの調査って、本当にやべぇな」



一刻も早く迷宮なんか突破したい。

だが、その為の有効な手だてが無い状況だった。


「あのさ、イリアさんに道案内を……」

「イリアねぇ。残念ながら今はコレだ」

「あぁ……そうだったわね」

「ひぃひぃふぅーー。ひぃひぃふーーぅ」



オレたちは本当にツイてない。

迷宮入り口にアカスジヘビが現れたのだ。

しかも2匹。

その結果、イリアはこんなんになってしまった。

息遣いも荒く、何かを産み出しかねない様子だ。



「イリアー。ここ敵の本拠他なんだけどー? すっげ戦い辛いんだけどー?」

「陛下、これは偉業チャレンジです。女を首にぶら下げたまま世界を救うという、制限付きの救世です」

「うっさい阿呆か離れろ焼くぞ」

「そんな……あんまりです。そこまで仰るなら私を好きになされば良い! 性的な意味で!」

「シレッと性交渉すんな! 離れろッつうんだよ!」



肝心な局面でイリアがポンコツ化した。

戦力どころか、完全に足手まといだ。

コイツも置いてくるべきだったと、今更ながら後悔した。



「そもそも、探索は私よりもアイリスの方に分があります。あの子の才には遠く及びません」

「マジかよ。あいつって、実は凄い出来る子?」

「常に確実に食料を調達出来ているのです。しかも決められた種類を。私であっても、毎日指定の品目をとなると骨が折れます」

「確かに、あいつはいつでもクルミを拾ってくるよな」



そうか、それはすなわち探す力。

そして探索力に繋がるというわけか。

あぁ、失敗した……イリアの代わりにアイリスを連れて来れば良かった!

そうすりゃここも素早く突破出来たかもしれないのに。



「……んん?」

「どうかしたの? 急に変な声だして」

「なんか今、暖かい風が吹かなかったか?」

「風じゃと? こんな地下空間で吹くもんじゃろうか」



そうか、気のせいか。

なーんか暖かい風に撫でられたような気がしたんだがなぁ。



「ともかく、先へ急ぎましょう。時間がないんでしょう?」

「じゃあ、先頭は僕に任せてください。敵がこの先も居るはずです」

「リョーガ、オレが行く。お前は最後尾で後ろを警戒しろ」

「そうですか? わかりました、お気をつけて」



オレが先頭を志願したのは理由がある。

いや、直感と言った方がいいかもしれない。

そしてそのカンが正しかったと、この後すぐにわかった。



「まずは左右の別れ道。どっちに行くべきかのう」

「ここは右だ。着いてこい」

「タクミ、道知ってるの?」

「うまく言えないんだけど、わかるんだ」



実際道は知らない。

この地下迷宮も初めて来たし、予備知識もない。

それでもオレは完全に構造を『理解』出来ていた。



「レイラ、その壁に触んな。矢が飛んでくるぞ」

「え……? うん」

「マリィ。そのドア開けんな。そこはガス室だ」

「う、うむ」

「リョーガ、足元の出っ張り踏むんじゃないぞ。天井が崩れる仕掛けだ」

「はぁ……わかりました」

「イリア、離れろ」

「お断り申す」



迷路のような道を物ともせず、数々の罠を即座に見抜いて、サクサク攻略していった。

連れのヤツラは驚きを通り越してドン引きだった。

上手くいってんだからその反応やめろ。

あとイリア、耳元でオッサンみてぇな声出すな。



「すごい、本当に下への階段見つけちゃったわ……」

「おし、このままどんどん行くぞ!」

「タクミよ、お主に何があったのじゃ? 探索スキルなんぞ持っとらんじゃろう」



確かに不思議だった。

突然ダンジョンの中身が分かるようになってしまったのだ。

『見える』じゃなく『分かる』っていう感覚なんだけど、どう説明したもんか。



「陛下、それはきっとアイリスの力です」

「アイリスの?」

「恐らく、魔緑石を介して能力を送ってきたのでしょう。野太い掛け声と共に」

「なんで妙に限定的なんだよ。魔人ってそんな事も出来るのか?」

「さぁ? 私は聞いたこともありません」

「ふざけんな」



物知顔で言うから信じちまったじゃねーか!

もうポンコツ時のお前は当てにしないからな。



そして、五階層ほど降りた時だ。

迷宮もそろそろ終わるらしい。

とうとう長い一本道となり、前へ進むだけとなった。



「なによこれ。私が読んだ本には、攻略に何ヵ月もかかったって書いてあったのに……」

「まぁ、探索じゃなくて突破だからな。あちこち寄ってたらそれくらい時間が必要だろうよ」



道の先に赤い点が見える。

近づいていくと、それは部屋の灯りであることに気づく。

いかにも魔術師な男が、何やら部屋の中央居た。

もしかすると、あの男が元凶なのかもしれない。



「不味い、もう召喚の儀式が終わりかけておる!」

「マジかよ! 急ぐぞ!」



最短ルートで進んだつもりが遅かったか。

いや……最短で来れたから、このタイミングで到着できたんだ。

今ならまだ阻止できるはずだ。

オレたちは脇目も振らずに真っ直ぐ駆けていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る