第23話 本拠地を叩け
ランプから橙の灯りが照らされている。
何十もの灯りが並び、辺りを真昼のように彩っている。
それでも地下空間の圧迫感を拭うには不十分で、胸を突くような重苦しさが漂う。
「ロックレアに伝令。作戦は成功、行動に移れ……と」
「ハッ」
年嵩の男が部下に命令を出した。
かけ去っていく部下には目もくれず、上役の男は魔方陣を注視する。
目深く被られたローブのせいで、その表情は見えない。
「まさか神の力を手にすることが出来ようとは……何が起こるかわからんものだ」
男が静かに笑う。
周りの人間はひれ伏すだけで、その声には応えない。
「アイン様……。あなたの悲願であった、魔人どもの撃滅も間もなくです! この禁じられた呪術と、神の力さえあれば、もはや達成されたも同じ!」
男は芝居がかった動きのまま叫び始めた。
聴衆らしきものの居ない演説だ。
自分自身に酔っているのかもしれない。
「これより地底王の召喚を始める」
唐突に声を絞り、ボソリと呟いた。
周りの人物は立ち上がり、足元の模様を囲むようにして並んだ。
文字と幾何学模様が入り交じった、どこか神々しい絵図。
それらの中央に、本来は女神のものである『力の玉』が据えられていた。
ーーーーーーーー
ーーーー
寒気がするほど静かな王都を、オレたちは一団となって駆けていた。
往来も広場もひとっ子1人居ない。
戦時中だから家に籠っているんだろうか。
あるいは街の人にも『集魔の法』が掛けられているのかもしれない。
一刻も早く元凶を叩く必要がある。
「タクミさん! 背後から敵が追ってきます!」
「レイラ、魔法で牽制はできるか?」
「もう試した! けど走りながらじゃどうしても……」
レイラはそう言いながらも、背後に向かって氷弾を放った。
2体の敵兵はそれを避けることもなく腕で弾く。
城壁でも見かけた、一際体の大きい『集魔兵』だ。
オーガと呼ぶに相応しい凶悪な顔つきと、筋肉で膨れ上がった身体。
それが駆け足も早いとなるとなかなかに厄介だ。
「一度撃退するぞ、リョーガはオレと一緒に迎撃、レイラはその援護だ!」
「わかりました!」
「任せて!」
「イリアはマリィと探索を続けろ!」
「はい、ただ今」
「わかった、気を付けるんじゃぞ!」
素早く二手に別れ、オレたちは迎撃に向かった。
追ってきたのは2体の集魔兵と、その後続として現れた20人くらいの人間兵。
「まずはでかいのにオレとリョーガで当たる! レイラは後ろの20人を足止めしろ!」
オレが指示を出すと、レイラは両手をつきだし、体が青く煌めいた。
「フリーズキャスケット!」
人間兵の足元が凍りつく。
足の自由を奪われた兵が盛大に転がった。
突然の出来事に対応できず、全員が将棋倒しのようになる。
「どう? 範囲も精度も十分でしょ?」
「あの時のえげつない魔法か。久々に見たな」
「その扱いやめてくれる? 結構難易度の高い魔法なんだから」
「タクミさん、前に集中してください! 来ますよ!」
集魔兵は巨大な棍棒を振りかざしながら、こちらに迫っている。
体格を活かしての体重を乗せた攻撃だ。
オレは新品のロングソードを抜き放って、右の一体に攻撃した。
ーーガァァン!
火花を散らし、棍棒とつばぜり合いの形になる。
さすがはドンガのお墨付きの武器だ。
並みの剣だったら初手で折れていたかもしれない。
ーーグググ。
ゆっくりだが、徐々に押し返される。
こいつは力だけならオレより上のようだ。
隣でリョーガも力比べをしているが、そっちは互角のようだ。
「リョーガ、遊ぶんじゃねぇぞ! 一気に終わらせるんだ!」
「ったく……わかりましたよッ!」
オレは集魔兵の腹を蹴り飛ばし、その反動で距離を取った。
あんな檄を飛ばした手前、オレもキッチリ決める必要がある。
ここは人間時代の剣技の出番だろう。
「斬魔剣……」
オレは腰だめの姿勢で剣を構えた。
刀身の回りを黒い稲妻がほとばしる。
当時、対魔人戦を想定して編み出した技だ。
呪術も魔法と根本が同じなら、この技が効くはずだ。
オレは跳躍し、超かっこいい掛け声と共に一撃を食らわせた。
「そいやぁっ!」
「グォォォオオーッ!」
肩口から腰まで一閃。
それで勝敗は分かれた。
集魔兵は体が見事に真っ二つになり、ゆっくりと崩れ落ちた。
技のお披露目でやられる栄誉をくれてやる。
「ウガァァーッ!」
「グァァアアーッ!」
リョーガは背負い投げで相手を地に伏せた。
そしてがら空きの腹に向けて正拳突き。
それで相手は絶命したようだ。
これじゃあどっちが怪物かわからねぇな、言わないけどさ。
「さすがは陛下。惚れ惚れするような、欲情を掻き立てるような剣の冴えにございます」
マリィをだっこしながら、イリアが屋根から降ってきた。
報告よりも先に逆セクハラとは肝が座ってんな。
「戻ってきたってことは、目星がついたんだろうな?」
「左様にございます。賊の本拠地は地下迷宮跡地と思われます。そこから呪術の波動と、力の玉の存在をマリィ様が確認しました」
「地下迷宮……嫌な予感がビンビンだな。遠いのか?」
「ここからおよそ300歩の距離かと。ちなみに、陛下と私の現在の距離は半歩となっております」
首筋にイリアの鼻息が当たる。
息が荒いのは駆け通しだったからだよな?
「案内しろ。あと3歩以内に近寄るな」
「承知いたしました」
イリアに続いてオレたちは走り始めた。
マリィの力が敵方にあるらしい、という点が気がかりだ。
「マリィ、本当に力の玉があるのか?」
「間違いない。どうやら一番の大物がここにあったようじゃ」
「それが敵方にあると、力を奪われることになるのか?」
はっきり言って、それがどの程度の結果を生むかはわからない。
集魔兵とは比べ物にならないほど強くなるのか。
あるいは単純な力ではなく、不可思議な能力に目覚めるのか。
「人間に妾の力を宿すことはできぬ。それをするのに必要な『手続き』があるからじゃ」
「じゃあ敵側が持っていても、何の脅威もないな」
「悪用ができない訳ではない。ヤツらが扱い方に気づく前に叩くべきじゃ!」
ここまでオレたちは快勝を重ねている。
難攻不落だったミレイアの城壁を崩し、最大戦力である集魔兵を2体も倒した。
そして今、敵の本拠地まで突き止めたのだ。
戦局はこちら側に傾いていると言って良い状況だ。
それでも嫌な予感が拭えない。
不安な心を押し潰したまま、地下迷宮へと向かうのだった。
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