第22話 王都の護り
ドォン。
ドォォン。
何十もの大砲からはひっきりなしに砲撃が撃たれていた。
見ただけでも重量感のある鉄の塊が城壁へと飛んでいく。
だがそれらは壁に届くことなく、見えない『何か』に阻まれる。
物理法則を無視して、地面にゴトリと落ちてしまう。
弓矢も射かけられるが、同じ結末を辿っていた。
守備兵に向かって放たれた矢は、数歩手前でポトリと落ちる。
これが話に聞いていた『魔緑石』を活用した防壁らしい。
確かにこんな守り方をされたら、打つ手などないかもしれない。
「かつての居城ながら、何とも腹立たしいぞ。弓や砲も効かん。梯子もかからん。さらにこちらから近づけば、向こうからは攻撃を受けてしまう」
「魔法はどうなんだ。大勢の魔法兵をつれてるんだろ?」
「あやつらにはマジックシールドを張らせておる。呪術対策にな」
言われてみれば、攻撃魔法は1度も放たれていなかった。
もちろんサボっている様子はなく、それぞれが魔力を前面に展開させている。
彼らには防御に専念させるつもりらしい。
「なんだそれ。お手上げじゃねえか」
「まったくだ。まさか非常時への備えに苦しめられようとはな。人生とはわからんものだ」
そう苦笑するジュアンは、どこか楽しそうだ。
ロックレアで見かけた姿よりも生き生きとしている。
やはり戦場が好きな人種なのだろう。
「まぁ、そんな反則級の守りも問題ない。なんせ聖女様がこっちには居るからな」
「妾か? タクミよ、そなたは勘違いしておらんか?」
「勘違いって、何がだよ」
「ここで役に立てるとしたら、呪術対策のみじゃ。あんな壁の事なんぞ知らぬわ」
そうだったのか。
てっきりマリィの力で全部解決できると思ってたのに。
それがダメとなると、しっかり対策を練る必要があるんだが……。
なにも思い浮かばないな。
「とりあえず、あれじゃ。炎龍を放ってみい」
「人の切り札を雑に扱うのやめてくんない?」
「いいから、御託を並べずにやらんか」
「へいへい」
ここ最近ご無沙汰な炎龍さん。
こんな扱いで、本当に申し訳ない。
「穿て、炎龍!」
強烈な熱風を辺りに吹き付けながら、真っ赤に燃え盛る龍が城壁へと向かう。
そして壁の数歩手前の辺りで、龍が弾けた。
ーードォォオンッ!
耳をつんざくような爆音とともに、痛烈な強風が吹き荒れる。
とたんに辺りは砂ぼこりで視界が通らなくなる。
防壁の破壊はできたのだろうか?
「ダメ……か。魔人王の力を以てしても破れんとは」
「待って、少しだけ欠けてるじゃない。上の部分が!」
指摘されるまで気づかなかったが、ブロック数個分だけ吹き飛ばしていた。
まぁこれくらいじゃ、誤差レベルの破壊行動だな。
「あと100発も撃てば壊せるんじゃないの?」
「バカ言え。オレがぶっ倒れるのが先だろうが」
「ふむ、これはもしかすると……」
「なんだよマリィ。なんか良い案でも浮かびそうか?」
「試したいことがある。妾の合図で撃ってみよ」
マリィは静かに片手を挙げた。
オレはそれを横目に二撃目に備える。
タイミングを見計らい、その手が降り下ろされた。
「撃てぃ!」
大砲の音に併せて炎龍が駆けていく。
砲弾とほぼ同時に城壁へと激突し、やはり手前で爆発した。
壁は先程と同じように、崩れることは無かった。
「ねぇ、さっきよりも大きく壊せてるわよ!」
レイラの言う通り、城壁が少しだけ抉れていた。
わすかながらも、守りを突破できたのかもしれない。
「そうか、最大出力の問題じゃな」
「わかんねぇ。説明しろ」
「魔緑石が引き出せる最大限のエネルギーを越えられれば、こちらの攻撃が通るのじゃ」
「じゃあオレらが取るべき行動は……」
「一斉攻撃しかあるまい」
それを聞いたジュアンは、周りの兵に伝えた。
攻撃の足並みを揃えよ、と。
慌ただしく伝令が駆け回り、すぐに各地の砲撃が止んだ。
戦場とは思えないほどの静寂が辺りを包む。
そこへマリィの大音声が響き渡った。
「これより一斉攻撃にでる。矢でも魔法でも、石つぶてでも構わぬ。可能な限り城壁に攻撃をしかけるのじゃ!」
レイラは詠唱をはじめ、リョーガは辺りから岩を調達した。
イリアは投げナイフを握りしめている。
そしてオレは三発目の炎龍だ。
「準備はよいか! 妾の合図を見よ!」
いつのまにか主導権がジュアンからマリィに移っている。
兵士たちもごく自然に受け入れてるから不思議だ。
これは『女神様』のスキルか何かだろうか?
まぁ、些細なことだがな。
ゆっくりと掲げられた右手。
それは頭上で止まり、そして。
「撃てぃッ!」
「おりゃぁあーーッ!」
「せいッ!」
「アイス・ブレイド!」
「穿て、炎龍!」
数えきれない程の砲弾が、弓矢が一斉に放たれる。
オレたちの攻撃も負けじと壁に向かって飛んでいく。
ーードォォオオン!
地響き、暴風、土煙。
誰一人として、顔を上げることができない。
視界が戻ってきた頃に、味方から歓声が上がった。
城壁の一部が崩れたからだ。
馬車一台が通れるくらいの綻びだが、十分な戦果と言える。
「おお、崩れた! 崩れたぞ!」
「ざまぁみろ、お前たちももうお終いだぜ!」
兵士たちは早くも勝った気になっている。
まだ城壁を崩しただけなんだが。
「マリィ、オレたちはどうするのが良いと思う?」
「一刻も早く呪術を止めるべきじゃろう。我らは突入するのが良い」
「ジュアン、オレたちは中へと向かう。ここは任せてもいいか?」
「ううむ。あの集魔の兵がやっかいだが、任されよう。くれぐれも気を付けるのだぞ」
予想外な結果に守備兵たちは混乱しているようだ。
突入するなら今がチャンスだろう。
「よし、これから制圧しに行くぞ!」
オレたちは一斉に駆けていった。
少数精鋭にしても、あまりにも少なすぎる数で。
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