第17話  チャームポイント

噴水広場でお年寄りに『ハートフルな日常』を見せつけてから、次の作業へと移った。

例の呪法とやらの情報集めだ。


マリィの心当たりとは、一体誰の事なんだろう。

うさんくさい情報屋とか?

それとも女神の使徒みたいな天使とか?

未知なる相手に期待を膨らませつつ、マリィの後に続いた。



「恐らくここに居る事じゃろう」



大きな鉄の門扉の前で立ち止まった。

何やら見覚えのある門だ。

具体的に言えば、アシュレリタ到着前にここへ1度来ている。


あの時は『アイリスを殺す』みたいな事言われたっけ。

ここの親玉にさ。

うちのアイリスを、殺すってさ。

……ふぅん。

あの健気な頑張りやさんをねぇ。

首をはねるって息巻いててねぇ。


……ふぅん。


こちらからちゃんと『返事』はしてなかったよな。

散々追っかけ回されてさ。

結局壁ぶっ壊して退散しただけだもんな。



「さて、中に居る者たちとコンタクトを取りたいんじゃが、どうしたものか」

「ここの連中と話せればいいのか?」

「そうなんじゃが、何を企んでおる? 言っておくが、まずは穏便に……」

「おっ邪魔しまーす!」



オレは門扉のど真ん中を蹴り飛ばした。

鉄扉はひしゃげた2枚の鉄板となり、勢い良く中庭の方へと吹っ飛んだ。

うち1枚は修復したての壁に突き刺さり、もう片方は庭のご立派な岩を盛大に粉砕した。

おっと、これはやりすぎたか?

壁を壊すのはこれで2度目だな、悪ィ悪ィ。



「オィィィー! 何をやっとるんじゃ?!」

「誰もいなくて良かったわね。あんなもん食らったら即死じゃない」

「敵襲ッ。王国軍の襲撃だ!」

「館を守れ、槍構えろ!」



瞬く間に迎撃の体制が整えられ、館の正面が兵士で固められた。

惚れ惚れする程の一糸乱れぬ動き。

どうやら練度は高いらしい。

なかなかやるじゃない。

オレたちは王国側じゃないけどな。

その見込み違い以外は満点だぞ。



場違いなオッサンが、精悍な兵たちの隙間から顔を出した。

忘れもしない、あれはロックレアの領主だ。



「貴様は、あの時の……。何をしに戻ってきた!」



相変わらず、ご立派なアゴ肉をお持ちで。

大振りな動きで叫ぶもんだから、それに合わせてプルンプルンと踊っている。

こんな場面でさえ笑わせにくるなんて、芸人の鑑だな。



「アゴおじさーん、王都の情報くれよー」

「なっ?! くれてやる訳があるかッ。それから変なアダ名をつけるでない!」

「教えてくれよー、じゃないと屋敷を灰にしちゃうぞー?」

「やってみるがいい! ここにいる近衛兵は精鋭揃いじゃ、前と同じようにいくと思うなよ!」



おっと、意外な回答が返ってきたな。

てっきりビビって教えてくれると思ったのに。

まぁいいか。

先日のお礼の『利子分』を回収させてもらおう。

オレは静かに炎龍の構えに入った。



「タクミよ、少しは落ち着かんか! まずは握手から始めるべきじゃろうが!」

「うーん。やだ。コイツらには浅くない因縁がある」

「黙らんか阿呆! ここの連中は味方になり得るんじゃぞ?!」

「いらね。情報もぶっ飛ばした後にもらう」

「タクミさん、なーんか凄く怒ってません? 笑顔でキレるタイプなんですねー」

「あの男はタクミ様に大変な無礼を働きました。制裁も仕方ありませんよ」



怒ってんのかな、オレ?

どうだろ。

割と冷静なつもりだけど、テンションがおかしいかもしれない。


相手は槍兵だけでなく、魔法兵も出揃ったようだ。

均整で美しいマジックシールドが展開されている。

お灸を据える意味も込めて、ヒヤリとしてもらおうか。

狙うは屋敷の屋根。

しばらく雨ざらしで暮らしてろ。



「両者、それまでッ!」



強い意思の込められた声が中庭に響き渡る。

この声はアゴ野郎じゃない。

もっと格上の人間のはずだ。



「魔人王殿、でよろしいな? どうにか矛を収めていただきたい」

「誰だよ、アンタ」



柔らかい表情をたたえてはいるが、その瞳に宿る光は鋭い。

一見すると血色の悪い50過ぎらしきオッサンだが、手強いと感じた。



「ワシはジュアンと言う。この国の王だ。と言っても、座るべき玉座を失った流浪の王だがな」

「国王陛下! ここは危のうございます。早く屋敷の中へ!」

「そなたこそ黙っておれ。客人に無礼であろうが」

「ぎ……御意。出過ぎた真似を致しました」



国王とやらに怒られてアゴおじさんがシュンとなる。

チャームポイントもそれに合わせてションボリする。

そっち見ちゃダメだ!

うっかりすると笑っちまうぞ!



「へえ、アンタが国王なんだ。もっとデップリ太ったヤツだと思ってたよ」

「ハッハッハ! これでも昔は戦場で暴れまわったクチでな。まぁ、そなた程の武名は無いがな」



ジュアンの高らかな笑い声が中庭に響き渡る。

一触即発だった空気は、あっという間に萎(しぼ)んでいった。

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