第18話 首脳会談
オレたちは応接室へと案内された。
立ち話をやめ、じっくり話し合おうとの事だ。
そこには数々の調度品が所狭しと飾られている。
変な柄の絨毯とか、ひしゃげた壺とか、なんかの水晶とか、ゴチャゴチャと煩い。
アゴおじさんはこんな場所にいて疲れないんだろうか。
「さて、王都の情報を必要としているらしいが。何をお求めかな?」
「それに関しては、うちの『聖女様』に聞いてくれ」
「タクミ、貴様……」
「ほう、そなたが各地にて奇跡を起こしている聖女殿か。ご高名はかねがね」
マリィの神格化を万全のものにするために、顔を売っておくことを忘れない。
オレの策士ぶりに対して、マリィが青筋で応える。
クケケ、お前もこっち側に来るんだよ。
国家事業としてあちこちに像をこしらえてもらえ。
「して……王都の情報となると、王国軍の兵力や構成についてであろうか?」
「いや、そうではない。単刀直入に聞くぞ」
「なんなりと」
「これより南方にて『呪法』の発動を確認した。何か知らぬか?」
「うむ……。やはりそうであったか」
ジュアンは目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。
顔には深いシワが克明に刻まれている。
こんな王の姿もあるのだと、素直に感心した。
「王都包囲軍より報告が来ておる。『人智を越えた兵が現れた』とな」
「やはりか。ではそこで?」
「ミレイアに籠った連中が、禁じられた呪法に手を染めた、と見て良いであろう。『集魔の法』あたりで力を集約し、配下に分け与えているはずだ」
「そうなると厄介じゃな。止めるには城内に入らねばならんが、未だに城壁は抜けておらんのじゃろ?」
「左様。我らができているのは包囲のみ。それも近々崩されてしまうであろう」
どうやら敵さんは、呪法で強くなった兵の力で内戦を終わらせる気のようだ。
王国兵の全てが強化された訳ではなく、まだほんの数体が確認されただけらしいが。
だが今以上に強化兵が増えれば、今の拮抗は崩れ、包囲網を突破されてしまうとの事。
そこまでの状況になれば、ジュアン側は打つ手が無いそうだ。
「じゃあさ、早いとこ都に攻め落とせばいいんじゃん?」
「そうなんじゃが、ミレイアの攻略はお主でも容易くはないぞ?」
「聖女殿の申す通り。永年にわたり溜め込まれた魔緑石による、圧倒的な防衛力を持つ城だ。攻防ともに隙はない。城壁はあらゆる攻撃を防ぎ、砲は数多の兵を葬り去る」
「だったら魔緑石が尽きるまで攻めりゃいいんじゃねえか」
「それを敵側が許せばの話じゃのう。実際、呪法という手を打ってきておる。均衡が崩されるのも時間の問題じゃ」
オレが考えていた以上に逼迫しているのかもしれない。
その気になればミレイアにも簡単に入れると思っていたが、そうではないようだ。
「ジュアン殿、我らは王都に入りたい。そして呪法を阻止したい。包囲軍に参加させてはもらえんか?」
「こちらとしては願ったり叶ったりである。むしろお願いをするつもりであったぞ」
「タクミ、よいな。記憶のためにもこれは必要じゃからな」
「へいへいー、がんばりますぅー」
気合い十分のオレの返事により、話はまとまった。
オレたちは包囲に参戦し、ジュアン軍とは協力し合う。
また、領土不可侵条約を結び、互いの街の安全を約束した。
「これで背後の心配がなくなった。私も近衛隊を連れて出陣できる」
ジュアンは別人のように、ギラついた笑みを浮かべた。
このオッサンは戦場を駆け回ってる方が似合うのかもしれない。
それから細かい話をいくつか詰め、会談は終わった。
オレたちは一度アシュレリタに帰り、再編成をする必要がある。
アイリスとシスティアは置いて、リョーガと交代させる。
戦えそうな魔人も、ある程度は連れていきたい。
これに猛反発したのはアイリスだ。
留守番が本当に嫌のようで、火が着いたように泣き出してしまった。
今まで従順だった分、驚かされた。
「私は何が起きようとも、タクミ様から決して離れません!」
これは、場面によっては感動的な台詞なんだろうな。
ここで使われると本当に困るが。
「前にニンゲンが攻めてきたときは、私も居たじゃないですかぁ」
「アイリス、オレたちは戦争しに行くんだ。否応無しの防衛戦じゃなくて城攻めなんだよ」
「タグミさまぁー、ダグミさまぁぁー」
「いい加減聞き分けろよ。強情なヤツだな……」
このやり取りを8度繰り返している。
その根性の源はどこにあんだよ。
「陛下。差し出がましいようですが、愚考致しました」
「なんだ、勿体ぶるな」
「アイリスに『いちゃいちゃチケット』なるものを支給してはいかがでしょうか」
「なんだよそれ。一体何をするもんなんだよ?」
「何をするか、ナニをするのかはお二方次第にございます」
「そうかそうか、黙れ」
「承知いたしました」
馬鹿馬鹿しい。
そんな提案が通るわけが……。
「2枚で手を打ちましょう」
貰うんかーい!
ひょっとしてオレ騙された?
実はとんでもない約束をさせられたのか?
イリアは手早く「いちゃいちゃ(はぁと)チケット」と書かれた紙を用意した。
妙に達筆なのがまた腹立たしい。
まぁいいか。
内容については言及されていない。
ちょっと散歩するとか、その程度でお茶を濁すことにしよう。
何せオレは『叡智の王』だ。
ここぞとばかりに王権を行使するぞ。
こうしてオレたちはアシュレリタへと向かった。
まだ浮かない顔のアイリスを連れて。
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