第14話 観光の終わり
オレたちは辻馬車をつかまえて、街道を一気に駆け抜け、あっという間にロックレアにたどり着いた。
……とはならず。
森の小路を往きながら大きく遠回りしていた。
地図で言うところ、ディスティナから真西に向かえば目的地だが、南に膨らむようにして移動中だ。
マリィがそう頼んだからだ。
単なるワガママなら却下だが、真剣な眼差しでの提案だった。
無下にするのも収まりが悪いので、こうして遠回りしている。
「ねぇ、この臭い。何なのかしら……」
まず最初に気づいたのはレイラだった。
それに賛同するヤツは居なかった。
オレ自身も違和感は覚えていない。
気のせいだろう、という事でその場は決着が着いた。
だがしばらく歩くと、オレたちは異変を察知した。
ーーこれは、腐敗臭か……?
まるで動物の死骸でもあるような。
何かが腐りゆく、鼻をつく臭い。
オレたちは顔をしかめるしかなかった。
一切の心当たりが無いからだ。
ただ、一人を除いては。
「お主ら、ついて参れ!」
「おい、どこに行こうってんだよ?」
「この先に村があったはずじゃ、そこへ向かう!」
マリィは1人で駆けていった。
よほど焦っているのか、オレたちに気を配ろうともせず。
ここは整備された街道ではない。
獣道がワンランクだけマシになった森の小路だ。
そんな悪路を急ぐと、こうなる。
「ヘムッ?!」
「システィア、大丈夫?」
受け身も取れずに、顔から地面にビターン。
ウチのどじっ子がすいません。
このペースで走るのは無理そうです。
「システィアには私がついてるから、マリィをお願い!」
「わかった、ゆっくり来いよ」
「すいません、ご迷惑おかけしますー」
幸運にもマリィを見失うこともなく、その背中を追いかけた。
その表情は見えないが、険しいものだろう。
腐敗臭いが一層濃くなったからだ。
村で一体何があるのか。
明るい見通しが立たないままに、小さな村落へとたどり着いた。
見る限りは普通の村だ。
死体が積み上がってるとか、村全体が屠殺場になっているとか、そんな事は一切ない。
古びた家屋に、畑や井戸。
人の気配がしないのは、村人が内乱から避難をしている為だろう。
臭気もさらに強くなったが、それくらいしか気になる点がない。
「なぁマリィ。この静かな村がどうかしたのか?」
「やはり、恐れていたことが……」
「マリィさん? ずいぶんと怖い顔してますけど……」
「家々を見て回るぞ、ボヤボヤするな!」
何なんだよ、説明くらいしろ。
いつから傍若無人キャラになったんだ。
全然ハマってないからな?
オレは最低限の意欲で参加した。
少し開いている家のドアから、こっそり中を窺ってみる。
すると部屋は薄暗くてよく見えない。
奥の方からは、小さな呻き声が聞こえてくる。
「おい、誰かいるのか?」
問いかけに返事はない。
やがて暗がりに目が慣れてくると、奥の方まで見えるようになった。
人が倒れている。
1人だけじゃない、何人もだ。
「おい、大丈夫か?」
抱き起こしても反応は無い。
顔を真っ青にして喘(あえ)ぐだけだ。
他の連中も同じく、体を起こせるものはいないようだ。
「マリィ、人が倒れてるぞ! それも3人もだ!」
「街の中央に集めるんじゃ、そこで治療を行う!」
他の家でも変わらないらしく、アイリスやイリアも同じ報告をしてきた。
見つかったのは15人。
子供から年寄りまで幅広く。
これは伝染病か何かなのか。
「離れておれ、これより解呪の儀を行う!」
マリィは両手を併せて、意識を集中させた。
詠唱を唱えながら、手が青白く光始める。
それはやがて、腕、肩と伝播し、全身が輝き始める。
「悪鬼封陣!」
そう叫んで、右手を地面に当てた。
体を通じて、青い光は稲光のように大地を走り、あちこちへ拡散していった。
遅れて強い風が吹き荒れる。
まるで居座っている悪意を吹き飛ばすように。
風が止むと、辺りの臭気も消えていた。
不思議と感じられた、重苦しい空気もない。
「タクミよ。旅行気分での旅は、もう終わりかもしれんぞ?」
不吉な言葉を残してマリィは立ち去った。
村人の容態を確認する気のようだ。
オレたちは村の近くでレイラたちを待った。
その間、これまでのような浮かれ気分は全く無かった。
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