第13話 ほのぼの思い出語り
「そこで言ってやったのよ。『元の木阿弥(もくあみ)かよ!』ってね」
「あはは。レイラさんはハッキリ言いすぎですってー」
レイラとシスティアは仲が良い。
いつ見ても側にいるし、ケンカしてる所を見た事がない。
食事時、街での自由時間、今のような移動時の休憩中も一緒だ。
まぁ、種族の壁もあるだろうから、アイリスやイリアとは接し辛いんだろうが。
「お前らいっつも一緒に居るのな」
談笑している2人に向かって呟いた。
独り言のつもりだったが、相手に聞こえてしまったようだ。
「そりゃそうよ。私たち仲良しだもん。ねー?」
「そうですねぇ。仲良しさんですねー」
「じゃあレイラ。システィアがなんで商人やってるか、知ってるんだな?」
「えと……。知らない、けど。急にどうしたのよ?」
「だって、こいつ全然商人ぽくないじゃん。鈍臭いし。経緯が気にならないか?」
「面と向かって言われると……さすがに刺さりますねー」
正直言うと、システィアは商人に向いていない。
商談はソコソコこなすようだが、他の要素が絶望的に酷いからだ。
沼にはまり、段差では大抵転び、蜂の巣をウッカリはたき落とし、熊の前では死んだフリをする。
注意力は散漫だし、情報収集力も致命的に欠けている。
これで商売なんかやっていけるんだろうか。
「んで、実際どうなんだ? 商売人になった理由とか教えてくれよ」
「うぅん。聴いて面白い話でもないですよー?」
「私も聞きたいな。教えて教えて!」
「経緯ですかぁ。えっと、騎士団長をしてたお父さんが商売始めて上手くいったので、お母さんと一緒に会いに行ったんですけど、仕事に身が入ってなかったので、私が行商を始めたんですよー」
うん、わからん。
単語自体は簡単なのに、なんて複雑な言葉を吐くんだか。
レイラも置いてきぼりになったようで、首をしきりに捻っている。
その結果……。
「第1回、システィアさんの過去を知ろうの会! 拍手ー!」
「ぱっちんぱっちん」
「えぇ、なんですかこれー?」
「今日はシスティアの過去を丸裸にしちゃうからね、覚悟なさい!」
なんでこんな事になったのか。
ただ一言『◯◯だから』で済むような質問だったはずだ。
いつの間にか、面倒な流れになっていた。
「でさ、まずは騎士団長のお父さんの話かな?」
「ええと、お父さんは王国の騎士団長だったんですね。いわゆる叩き上げじゃなくて、世襲というやつですね。お父さんはお坊ちゃんなんですよ。剣の腕が悪かった事もあって、嫌気が差して辞めちゃったみたいですー」
「世襲で騎士団長ってのも凄いわね」
「本人は嫌だったみたいですがねぇ。騎士団を辞めた後は商売を始めたんですよ。でも開店して間もなく騙されちゃって、運転資金を全部持っていかれちゃったんですよー」
わかった、これは『悪い商人に騙された』パターンだろ。
何せ素人同然だからな。
大した保険も無しに商談を進めたに違いない。
「運転資金を全部って、よっぽど大きな仕事だったの?」
「いえいえ、飲み屋で知り合ったお姉さんに騙されたらしくって。『一緒になろう』って言われてお金を預けちゃったらしくってー」
「えぇと、それはお父さんの独身時代の話よね?」
「違いますよぉ。結婚してました、私が7歳の時の話です。だから不倫ですね」
「うわぁ、それは何と言うか」
ヤバイな。
想像以上にダメ親父だぞ。
それを嬉々として語るコイツもどうかと思うが。
「それでお母さんはカンカンに怒っちゃって、しばらく別居状態ですね。私はお母さんの方に引き取られたんですよー」
「そうなんだ。ヘビィな幼少期ねぇ」
「そこで心を入れ換えたお父さんは、次の仕事を始めたんですよー」
「へぇ、一体何の仕事なの?」
「レアメタル・ハンターですね。全国の稀少鉱石を探し回る仕事ですよー」
また唐突な事を始め出すんだな。
こういう思い付きや、経歴と関係ないことを
始める時は大抵失敗が付きまとう。
「でもお父さんは、高いところも狭いところも暗いところも嫌いなんですよねー」
「ダメじゃない。どうやって坑道に入るのよ?」
「そうなんですよね、だから手ぶらで帰ってきたんですよー」
「なんだ、あちこちの街を楽しく観光してお終まいか?」
「いえいえ、隣町に行って戻ってきただけですねー。そこで知り合った女性に路銀を取られちゃったようでー」
想像以上にヤバいヤツだ!
全然学ばねえなお前の親父は!
「結局お父さんは実家からの仕送りで暮らすことになって、そこで私たちを呼び戻したんですー」
「……何て言うか、壮絶なお話ね。今は何をしているの?」
「お父さんは壁のシミ眺めたり、セミの脱け殻集めたりする毎日です。お母さんは何も言わずに家事をしてますよー」
その光景を想像して悪寒が走った。
何も言わないって所がおっかねぇ。
「だから私も親に甘えるわけにはいかないんです! なので自立の為に商売人の道を選んだんですー」
「そっか。頑張ってね、応援してるから!」
「はいー、ありがとうですー!」
「お主ら、そろそろ出発じゃぞ」
休憩時間の終わりをマリィが告げてきた。
一言で済む会話が随分と冗長になったもんだ。
話のキリが良かったのは幸いだがな。
次なる目的地はロックレア。
二大派閥の片割れの本拠地だ。
今までのように、のほほんと観光はできないかもしれない。
厄介事に巻き込まれないよう、気を付けなくては。
そこまで考えてハタと気づく。
重要な情報を取りこぼしていたからだ。
ーーアイツが『商人を選んだ理由』を聞けてねぇ……。
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