第21話  暗躍する影

フワ、フワ、フワリ。


ーーとうとうニンゲンにケンカ売ったんだってね。そこまで魔人に肩入れするなんて何考えてんの?


目覚ましがあの女神の声って嫌だな。

敵対したはずなのに割と頻繁に連絡を寄越してくる。

別に没交渉にした訳じゃないからいいけどさ、あー腰いてぇ。

オレは寝ぼけ半分で外に出て、痛む腰を叩きながら返事を書いた。



『ほとんど成り行きだが仕方ないだろ。これはオレ自身の為でもある』


ーー腰なんか押さえちゃって、昨夜はそんなにも大盛り上がりしたの? 最初は女に興味ないフリしてたのにさ、本性出たね』


『邪推すんな、寝具がねえからだこの野郎。用が無いならオレは二度寝する』


ーーまぁいいわ、今日は忠告よ。今までニンゲンを簡単にあしらえてきたけど、あまり見くびらない方がいいわよ。あいつらの底力は連帯感と技術力であって、身体能力そのものじゃないから。


『そうか。んで用事は? まさか忠告だけじゃないんだろ?』


ーーそうね。魔人王の力、アンタのスキル、リョーガのスキルを返しなさい。そうすればアンタたちを解放した後、下級貴族くらいのポジションは用意してあげられるわ。



まぁ、それ以外要求はないだろうな。

オレを魔人王と戦わせようとしたのも、力を取り戻すためだろうし。

それはともかく、オレの気持ちはこんな感じ。

カリカリカリっと、丁寧に返答をね。



『お断りだ。街造り楽しい』


ーーあっそ。後悔しない事ね。後になって泣きついてきても知らないからね!



そこで連絡は途絶えた。

突然からんで来たかと思えば一方的に消えていくよな。

超絶マイペースなヤツ。

まぁ、そんな事より今日は大事な話があるんだ。


『第7回! レイラさんの扱いが悪いぞ討論……』


そっちじゃなくて。

オレはシスティアとドンガを呼び出した。



「腰痛い。寝具欲しい。なんとかして」

「うーむ、そうすると綿花が必要になるが、農作物は軒並み燃やされてしまったしのう」

「人間の街から調達することも出来ますけど、お金は持ってます? 身一つで逃げてきた私はコイン一枚持ってないですー」

「ワシら魔人がニンゲンの金なぞ持っていようはずもない。王様は持っとるかね」

「オレは財布すらない、完全に無一文だ。レイラとリョーガもな」

「あははー、何ていうか浮浪者の集まりみたいですねー?」



信じられないことだが、これだけの人数がいて誰もお金を持っていないらしい。

冗談抜きで浮浪者集団じゃねえか。

寝具については枕と同様に、草を編んだ袋に枯葉を詰め込むことで間に合わせることにした。

以降はこの国の産業についてが話題となった。



「……という事で、人間の街から品物を手に入れようとしたら、こちらからも何か売りに出さないといけないわけです。これがいわゆる『外貨獲得』なのです」

「ふーん、あっそ。どうすんの?」

「私の見立てでは、売れそうなのは塩、動物の毛皮、薪(まき)、鉱石くらいですかねー。特に塩は運びやすいし需要はありますのでオススメですねー」

「そう。じゃあやっといて」

「待つんじゃ。今手が空いとる者がおらんぞ。今から着手するのは無理じゃ」


ここに居るみんなには、食料班、清掃班、資材班、建設班といった具合に班わけをして仕事を与えている。

どうやら売り物を作って売買をする程の余裕は無いらしい。

フカフカのベッドに出会えるのはいつの日になるんだろう。

散らばっている魔人の連中たちよ、オレの暮らしの為に早く戻ってこい!



________________________



大陸某所。

フードを目深に被っている男が、数人の護衛を引き連れて、とある建物に入っていった。

そこは鍛冶場なのか、鉄を叩く音がひっきりなしに響いている。

熱と湿気のせいなのか、空気がまとわりついてくるような気にさせる。


奥の部屋に通されたフードの男は、入室しても正体を明かさなかった。

それでも出迎えた男は慣れたもので、それを糺そうとはしない。



「これはこれは、第二王子殿か……」

「声が高い。余計な事は喋るな」

「ハッ、これは失礼を」

「昨年の征伐時に製作した『機鉱兵』だが、再度依頼を頼みたい」

「……お言葉ですが、あれは確かご禁制となったはずでは?」



ーーご禁制。

つまり国は禁止する方針を打ち出している訳だ。

その言葉を聞いても、フードの男は口調を変えずに続けた。



「そこは上手くやる、気にするな。悪いようにはしない」

「承知致しました。して、いかほどご所望で?」

「5機を早急に仕上げろ。期間は1ヶ月だ」

「申し訳ございません、誠心誠意努めましても、ひと月では2機が限度でございます」

「では3機だ、死ぬ気でやれ。報酬と必須素材はここに置いておく」



来客用のテーブルに置かれた2つの皮袋が、ドカリと大きな音を立てた。

その質感からは相当な量の『何か』が詰まっている事だろう。

ここの主人らしき男は、歪みそうになる口元を抑え込むのに必死なようだ。

眉の動きが活発になっている。



「確かに3機、承りました。必ずや期日までに」

「何かあれば使いを寄越せ。頼んだぞ」



フードの男は振り返る事なく部屋を後にした。

部屋の主人はというと、男の足音が遠ざかるのを確認してから袋に手を伸ばした。

袋の口紐をほどくと、眩く輝く金貨が行き場を求めるようにこぼれ、テーブルの上に溢れ出た。

それを見た主人は下卑た笑みを隠す事なく、作業場の部下へ矢継ぎ早に指示を出し始める。


これから始まる恐るべき計画を、アシュレリタの住民たちはまだ知らない。

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