第20話 不公平な住み分け
ドンガが言うには、前回の打ち上げ花火は成功だったらしい。
あれだけの芸当ができるのは魔人王くらいである、と受け止められたらしい。
ものの数日で、若い魔人の男たちや、中年夫婦がアシュレリタへやってきた。
この調子で増えてくれれば、いずれ街としての機能も復活させられるだろう。
だが宣伝としては成功だったが、同時に人間に強い警戒心を抱かせたはずだ。
次は本腰を入れて攻めてくるだろう。
居住空間と防壁の建築を急ぐべきだった。
特に防壁は取り急ぎ必要だったが、そこでドンガの発明品が大いに役立つ事になる。
「これがご先祖様の発明品、資材用ノリじゃ」
「へぇ、そんな役立つものがあるのね。なんて名前?」
「資材用ノリじゃ」
「いや、だからさ、品名を聞いてるんだけど」
「レイラ、それは資材用ノリなんだ。それ以上の事は期待するなって」
「もったいない、折角なんだから名前を付けたらいいのに……」
実際、雑な名前から想像できないくらい扱いやすく、優秀な接着剤だった。
皮膚にうっかり着いてもポロリと落ちるのに、資材同士でくっつけると、相当頑強に連結する。
形状も程よい硬度があり、塗りつける時も簡単だ。
そして防壁を積み上げていく作業は、オレが担当している。
レイラ辺りは自発的な動きに驚いたようだが、自分としてはしっくりきている。
曖昧な記憶を振り返ると、こういった黙々作業が好きだったようだ。
部屋で一人きりになって、ひたすら組み立てる作業をしていたような。
人型の模型を作る作業の事を、何ていう娯楽だったか。
ナントカ……プラって言うんだよな。
ノリプラ……違うな。
トンプラ……惜しい気がする。
テンプラ……だったか?
うん、確かにそんな言葉があった気がする。
それはオレの数少ない趣味で、部屋中テンプラだらけにしてたっけ。
棚とかにたくさんの種類飾ってさ。
「タクミ様、ずいぶんと上手に組み立てるのですね。歪みが全くありません」
「オレが生まれた国の趣味にテンプラってのがあってだな。その時の技術を活かせてるようだ」
「そうだったのですか。建築作業が趣味になってしまうなんて、とても勤勉な民族なのでしょうね」
「そういう話じゃないと思うんだがな」
うまく説明ができそうにないな。
転生前の、こことは違う世界の記憶だ。
オレの部屋を見せる事ができれば話は簡単だろうが、そんな手段は知らない。
街の建設はというと、防壁はさすがに巨大建築なので簡単には終わらないが、家は少しづつ増えてきた。
1棟しかなかった家も今では4棟に増えている。
内訳はというと、1棟が最近加わった若い魔人の男たち3人。
隣の1棟がジジイと、これまた新たにやってきた中年夫婦の3人。
その向かいにある1棟がリョーガ1人。
そしてその隣にある最後の1棟が、オレ、レイラ、アイリス、システィアの4人だ。
なんでだよ。
特にリョーガ、お前だけなんで一人悠々と過ごしてんだよ。
せめてシスティアはお前の所に置いとけよ。
こっちは何故か4人も集まって狭いんだっつの。
その3人娘がまた、何かとやかましい。
特に寝る時間になると、誰がオレに添い寝するかで毎晩揉める。
アホくさ。
激しい舌戦が繰り広げられる中、オレはさっさと枕片手に寝に入る。
それが日常になりつつある。
干して乾燥させた草を編み込んで作った簡易性の枕。
中には同じようにして水分を抜いた葉っぱが大量に詰まっている。
大地の匂いを味わいながら眠る事の出来る、お気に入りの一品だ。
それのおかげで快眠できるのだが、目覚めは決まって微妙な気分になってしまう。
オレの周りに3人が付き添うようにして団子状態になっているからだ。
妙に狭いし、そもそも暑苦しい。
今は涼しいからまだ良いが、寝苦しい季節になったら最悪だろう。
防壁建設の前に、穏やかな暮らしの為に家を優先させるべきだ。
スヤスヤ眠る3人の寝顔を眺めつつ、心に誓うのだった。
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