第4話 意識高い系と 意識無い系
「旅っていいわよねぇ。これから何が起こるかワクワクするもの」
街を出たオレ達は街道をノンビリ歩いている。陽が高いからか、同じ道を行く者も少なくない。
「私ってあの街から出してもらえなかったからさ、だから外の世界を見るのがすっごく楽しいの!」
行商人、旅人、早馬を走らせる配達員、道端でうずくまってブツブツ言ってる男。
こうして見ると、世の中いろんなヤツがいる。それぞれがそれぞれの人生を生きてんだなぁ。
なんとなく感慨深い気持ちになってきた。
「これからどうしようか? 宝探しとか迷宮探検? それとも伝説級の魔物退治とか! 世界中の街巡りもいいよねぇ。 ねぇ!」
「なんだよ、さっきからうっさい。大声出すな」
「だから、目的だってば! 私たちはこれからどんな冒険をするのって話!」
「は? 何もしねぇよ」
「え?」
ビシリッと音が聞こえそうなくらい、キレイに固まったんだが。オレそんな変な事言ったか?
「え、旅しないの? 大迷宮とか踏破しないの?」
「しないの」
「邪竜退治とかは? 世界の果ての秘宝探しとか、失伝した魔術の発掘とかは?」
「しないの」
「じゃあ今何してんの?」
「新しい寝床さがしてんの」
「世界中を巡らないの? そんなに強いのに?」
「強いのになの」
それを聞いてレイラは死人のような顔色で項垂れた。コイツおもしれえな、秒単位で表情がコロコロ変わる。
「しよーよぉー、邪竜退治ぃ。行こうよぉー、大迷宮ぅ」
「やだ。めんどい。だるい。カス野郎」
「何がそんなに嫌なのよ。あとこっそり毒はくのやめて」
「そんなことしてもメリットがないだろ」
「あるわよ、すんごいメリットが!」
レイラは鼻息を荒くしつつ、得意顔でオレを見た。『何も知らないあなたに教えてあげる』みたいな目がイラッとくる。
ロクでもない話っぽいが、一応聞いてみるか。
「なんだよ、言ってみろ」
「ふふん、そんな偉業を達成するとね……なんと! 『世界の偉人伝』に載っちゃうのよー!」
「……は?」
「すごいでしょ、ステキでしょ? 権威ある図書に載るなんて。決して消えることは無く、私たちの伝説が永遠に語り継がれるの!」
目を輝かせて小躍りし始めたぞ。お前は夢見る少女か。あ、少女だった。
レイラの頭に花畑が咲いている。今が見頃の満開ってやつだ。
そんなプランター女の脇を掠めるように、幌馬車が駆け抜けていった。車内は荷物を満載しているのか、車体が大きく沈んでるように見えた。
その一台を見送っていると、また一台、また一台と走り去っていく。ムチの打ち方も激しく、馬の悲鳴が聞こえてきそうだった。
「なんだこれ、引っ越しブームか?」
「どうせまた噂が流れたんでしょ。きっと真に受けて逃げ出してるのよ」
「噂ってなんだよ」
「魔人王絡みの噂よ。最近はどこの地方で復活するか、よく話題になるの」
「マジンオウ?」
「え、知らないの? 数百年前に人間を圧倒した魔人の王よ。本気で知らないの?」
「記憶がゴザイマセーン」
「……そうだったわね。まだ名前くらいしか思い出せないんだっけ」
ため息混じりにレイラが魔人王の話を教えてくれた。
まず、魔人ってのは突然変異して生まれた人間で、メチャ強いらしい。そんで魔人が増え出して、集団ができて、王を名乗るヤツが出たと。
人間は負け戦が続いたけど、どこかから現れた救世主が魔人王を倒したらしい。
なんかどこにでも有りそうな話だな。
「この英雄譚もかっこいいのよ! 最後に救世主は魔人王と相討ちになるの。救世主は壮絶かつ、見事な最後を遂げたって話で締め括られてね」
「ん、なんで最後のシーンまで正確に語られてんだ?」
「その場に人が居たからよ。大勢の人が見たって物語には書いてあったわ」
「え、それおかしいだろ」
「どこが?」
「超人同士の戦いの場を、なんで多数の人間がノンキに見物してんだよ。ちょっとした攻防戦の巻き添えで皆死んじまうだろ」
「あ……」
『遠くから見てた』とか『結界を張ってた』とか言ってるが、当の本人も納得がいってないみたいだ。すごく沈んだ顔をしている。
どうやらレイラの花を一本折ってしまったらしい。悪ぃな、夢見せてやれなくてよ。
翌日。野宿でダルさが倍増したオレのもとに、女神からチート能力が届けられた。
■無垢なる魂
?どんな話でも心から信じるようになる。信じた回数分能力がアップ!
だとさ。
ケンカ売ってんのかあの野郎。
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