第5話  即レス地獄

 朝飯を食った後ノンビリしていると、レイラは川の方へ向かった。どうやら髪を洗いたいらしい。ずいぶんマメなやつだな。

このまま待ってんのも暇だ、二度寝しよう。 

道端にちょうど切り株があったから、頭を乗せて寝転がった。天気は快晴なので太陽の日差しが眩しい。

 視界から太陽を追いやって頭の向きを変えると、空から見慣れた光が落ちてきた。毎朝見掛ける女神のアレだ。


 今日のギフトはもう貰ったよな、突っ返したけど。

 フワリフワリと落ちてきた光は、いつものようにオレの体に触れてからフッと消えた。



『なんでアンタ、技能を変えないの?』



 クレームだった。

 その為だけにわざわざ光を送ってきたのか、暇人か? つうかコレに返事なんて出せんの?

 何もせずに寝ていると、またフワリと降ってきた。何なんだよ……。



『地面に大きめの文字書いて。それ読むから』



 クソうぜぇ。でもこれ返事しないと延々続くパターンじゃないか?

 もったいぶる様に体を起こして、手頃な木の棒を見つけて地面に書いた。



ーー使えねえのばっかだから



 剣聖はまだいいとしても、無垢なる魂は完全に悪ふざけだろ。

 人のことを悪質な客みたいに言いやがって。

 しばらくすると、また光が降ってきた。



 フワリ。


『あっそ。それで、なんでアンタそんなに強いの?』


 いや、オレに聞くなよ。あれこれ操って生き返らせたのはお前だろ。

 てっきり全部把握してるもんだと思ってたが、違うのか?



 ガリガリ。


ーー知らん



 フワリ。


『そっか、知んないかー』



 ……え、終わりかよ。

 何だ今の返事。この流れ要る?

 コイツひょっとして延々話し続けるタイプか?



 ガリガリ。


ーー用があるなら いっぺんに言え



 ったく、人の二度寝を邪魔しやがって。無駄なやり取りさせんな。

 しばらく間があいて、またフワリ。



『あーすいませんね色々邪魔しちゃってさ? 転生者様はお忙しいですよねーこんなクッソくだらない会話に巻き込んじゃってすいませんでしたー! 次こそすっげえ能力くれてやるから吠え面かくなよ? じゃあな!』



 やっぱりそこで終わりかよ。

 結局用件はなんだったんだ、グチと暴言しかなかったぞ。

 オレが返事をしなかったせいか、新しい「お告げ」は来なかった。



「タクミーただいま。……なんかあった?」

「ちょっとクレーマーを撃退してた」

「え、道端で?」

「なんでもない、そろそろ行くぞ」



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 あーークッソムカつくーーー!

 なんだあの転生者! 全然コントロールできねえーー!


 モニタリングした画面にはタクミと美少女がくっちゃべってるシーンが映し出されている。使命そっちのけで女連れとはいい身分だなこの野郎。


 ……本人も知らなかったか。


 冷静になった私は、タクミをモニターで追い続けながら呟いた。

 今タクミが身に付けてる「全属性補正・極大」はあくまでも攻撃の時にのみ効果を発するものだ。もちろん、物理攻撃に補正はかからず、魔法を使った時にのみ意味のあるもの。

 先日見せた大立ち回りは、明らかに異常だった。タクミ本人は一般人と比べたら「いくらか」強い程度でしかないはずだ。


 ひょっとして、私の知らない何かが起きている?


 仮にも女神を自称する者だ。この世界で起きている事の大体は把握している。ほんの一部を除いては。

 いや、タクミが強い事自体は悪い事ではない。今は目の前の問題に取り組もう。


 魔人王復活まで、現地時間でおよそ半年。それまでにタクミには強くなってもらわなくては。

 私は次のチート技能の準備の為、モニター前から席を外した。

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