第12話 おまえの望みはなんだ?
「えっと……さっきの話だと、あなたは、水の神様ってことですか?」
『神などではない』
竜は語った。
雨として降った水は、地面に深く吸い込まれて岩をうがち、また地表に出て川となり、海へと注がれる。そして日に照らされて天に昇り、雲を結び、また雨となる。
竜はその水の循環の象徴であり化身であり、司るもの。天と地を繋ぐものなのだ、と。
「はあ、難しすぎ。水の神様でいいんじゃね?」
『そう呼びたいならば、呼ぶのは勝手じゃな』
うなずく竜は、小さな前脚でカリと首の後ろをかいた。
その仕草は少しだけちび竜を思い出させる。本当に同じなんだと思ったらあまり怖くなくなった。むしろ少しばかりユーモラスに見えた。
水の神様で竜なのに体がかゆいなんてことあるんだろうか。
『吾を呼び出したのはなにゆえにか?』
再び竜がきいた。
翔太は急いで頭を整理する。
「呼び出したっていうか……この笛を吹くと、あなたが現れるんですか? じゃあ、最初はなんであんなに小さな姿だったんですか?」
『吾の生まれしはここじゃ。この流れからあまりに離れていては体を作るにも力が足りぬ』
なるほど、ちび竜の姿は竜なりのエコの結果だったらしい。
翔太はうなずいてからおそるおそるたずねた。
「じゃあ、この笛は本当はこの近く……おじいちゃんの家にあるべきものなの? それとも成瀬のおじさんに渡した方がいいですか?」
『おまえの祖父とはオノダのことか?』
「はい。小野田武史といいました」
『オノダはもう死んだのだろうが、お前はオノダからなにも伝えられていないのか?』
頭を上下にふってみせると、竜は鼻から霧のような息を吐いた。それがシャワーみたいに三人に降りかかる。蒸し暑い夜の空気が少し涼しくなった。
『持ち主からゆずられた者が次の担い手じゃ。オノダはナルセよりゆずられ、お前はオノダからゆずられた。次にお前がどうしようと吾の知ったことではない。お前は笛の担い手として吾になにを望んでおるのじゃ?』
突き放すような言葉に翔太は口をぎゅっと引き結ぶ。
自分がなにをしたくてここに来たのか、なにを知りたくて笛を吹いたのか。頭が混乱してうまく働かない。
「あの……おじいちゃんはぼくに手紙を……でも意味がわからなくて…それで……あの……」
ちらりと後ろを振り向いた。トオルがこぶしで軽く翔太の肩をたたき、村井は行け行けとでも言うように手をひらひらさせている。
ゴクリとつばを飲みこんで、翔太は再び竜に目をやり、それから手に握りしめた笛を見た。
そうだ、おじいちゃんのことを知りたかったんだ。
それからこの笛のことを。ちび竜のことを。
「おじいちゃんは、亡くなる前にぼくにこの笛と手紙を残してくれたんです。でも手紙の意味がわからなくて。そしたらちび竜――あなたが出てきて。それでぼく、おじいちゃんのこともよく知らなかったことに気がついて。だからもっと知りたい。おじいちゃんがなぜ笛をぼくに残したのか。あなたは知っていますか、おじいちゃんのこと」
竜は金色の瞳で翔太を見つめた。
その強い視線に後ずさりしたくなるけれど、後ろにはトオルと村井がいる。二人を背中に感じると竜と向き合うのも怖くはなかった。
『オノダは悩んでいた』
「おじいちゃんが? なにを?」
『オノダと初めて出会ったのは、ナルセが死んだ後じゃ。そのときオノダは吾に聞いた。吾に、この姿から解放したほうがいいのかとな』
「どういうことですか?」
竜はミストのような息を長く吐いた。
『天と地は、遙か昔は一つであった。煮えたぎり、大気は地中にあり、大地は冷え固まらず、天と地は分かれていなかった。あるときそこに、遙かなる虚空より引き寄せられた星がぶつかったのだ。その衝撃はすさまじく、煮えていた大地は引き裂かれて、一部は飛び出し、やがては月になった。飛び散った星のかけらは大地の中に取り込まれた。吾らはもともと飛来したその星に宿りしものであったのだ。その惨禍の末に、重いものが沈み大地を作った。大地から逃れ出たものは大気となって天に昇った。吾らはいく憶回も地と天を巡り、大地を冷やし大気を清めたのだ』
いきなり始まったのはまるで天地創造の話だった。
戸惑う翔太に、村井がささやいた。
「青木部長や福原先輩がいたら喜びそうだけど。これって地球の起源を神話風にしたものじゃないかなあ」
「地球の起源って?」
「だから。太陽系ができて、その中で地球と月ができた話」
「さっぱりわかんねえ」
トオルが眉の間に深いしわを刻む。
「でもさあ。そうすると竜って神様じゃなくて宇宙人?」
翔太は、竜が言った『星に宿りしもの』という言葉をくり返す。
「そう言っていたよね? うわあ、伝説の陰に隠されていた真実が今明るみに……」
村井はすっかり魅了されたように竜を見つめていた。歴史オタク女子だと思っていたけど、どうやらもう少し趣味の幅が広かったらしい。SFオタクの素質もあったようだ。
『話を続けてもよいか?』
興奮している三人の中学生の脳に、竜の声が響いた。すこしばかり困っているように聞こえたけど、それはきっと翔太たちの反応が長い人生――いや、竜生の中ではあまり見られないものだったからだろう。
恐れおののいてひれ伏すべきなんだろうか。でも目の前の竜があのちび竜だと思うと、それもなんか違う気がする。
「あ、ごめんなさい。続きをどうぞ」
翔太はもごもごと答える。どういう態度が正解なのかよくわからない。
竜は首をもたげたまままたふぅと息を吐いた。ひんやりとしたミストがふわりとかかって夜の森に吸いこまれていく。
それから竜は続きを語り始めた。
『吾らは大地と大気をめぐるもの。生きているこの星の一部じゃ』
「ええっと……はい……」
『しかし、ときには人間たちに害をなすこともある』
「ええっ?」
『大気は常に動いているな。雨が降り風がふき、それはときに苛烈なものにもなる』
「ああ、台風とか、大雨とか」
『大地もまた動いておる。その動きをとめることはできぬのじゃ。大地が動きを止めるときは、この星全体が死ぬるときよ。そのときは吾らの存在自体も消えてなくなるであろうな』
「はぁ……でも、それがどうして笛の中にいたり、ぼくの前に出てきたりしたんですか?」
『それじゃ』
竜はするすると巻いていたとぐろを解いた。長い体をうねらせて川の中に身を浸す。
『吾はもうずいぶん長い時をこの姿で過ごしてきた』
「……って、太陽系ができてからずっとってこと?」
『いいや数百年じゃな。つまり吾が吾という個体であると認識してからのことじゃ。星が生まれてからと比べればつかの間だが、人から見れば長かろう。人は数十年しか命を持たぬからな。しかしその短くせわしない命の人の思いが、吾に水からこの姿を与えたのじゃ』
言われていることがさっぱり飲み込めない。後ろではトオルと村井も首をブンブンふっている。
青木部長なら理解できるんだろうか。それならぜひ解説してもらいたいところだけど、いまここにはいない。それどころか大人たちに言いわけをしてくれているはずだ。
「人の思いが水から竜を産んだ?」
『その通り。およそ五百年前であったか。濁る水を清水にして欲しいと、人が願い、吾が応えた。しかしこの姿の吾はまもなく消滅するのじゃ』
「消えちゃうの? えぇっと、そうすると何か変わるんですか? この川が枯れるとか、逆に大洪水になるとか」
背中に伝わる汗が急激に冷めた気がした。無意識にぶるっと体をふるわせる。
『水は濁ることもあるであろうよ。この洞穴はまた地の裂け目を通じて燃えさかる星の内部へとつながっておる。濁りはそこからやってくるものだからな』
「ええっと……あなたが消えてしまわない方法はないんですか?」
竜にも寿命があるんだろうか。病気とか、ケガとか。といっても医者にかかる訳にはいかないだろうけれど。
しかし竜の答えは意外なものだった。
『人の祈りは絶えた。もう吾に祈る人はおらぬ。そうして笛はこわされたからのう』
「こわされた?」
三人の目が翔太の手の笛に集まった。
そうだ。だからぼくたちは一度もこの笛の音は聞いたことがないんだった。
「すみません、よくわからないんだけど、それならこの笛を直せばいいんですか?」
翔太があわてたように口をはさむと、竜は体をくねらせてパシャン、パシャンと水音をたてた。
山をおおうほど大きかったときは向こうが透けて見えたし、実体なんかないようにしか見えなかった。
けど、いまは水をはね返している。ということはもしかしたら触れるんだろうか。
そういえばちび竜はなでることもできた。
同じことを考えたのだろう。後ろから村井がそろそろ歩みでると、川のすぐそばにしゃがみ込んだ。
「ねえねえ、なでてもいい?」
村井の目は好奇心でキラキラ輝いていた。銀のウロコに負けないくらいに。深刻な話の最中なのに、さすがは村井だ。
『あごの下に触らねば良い』
竜はおおらかに言って目をつむった。伸ばした村井の手が水色に染まるが、かまわずに頭の後ろあたりをそっとなでる。
なでられるのが気持ちいいのか、心なしかうっとりしているようだ。
「なあ、触ったらどんな感じ? ヘビみたい、とか?」
トオルの問いに、竜に負けず劣らずうっとりした顔の村井が答えた。
「冷たくも暖かくもないよ。すべすべしてしっとりした感じ」
翔太はトオルと顔を見合わせて、口をへの字に曲げてみせた。
「なんだよ、おまえも触りたいんじゃねえの?」
「べ、別に!」
「あ、それは禁句だろ」
『それで笛の話じゃ』
こそこそつつき合っていたら、竜はまたため息をついた。
「は、はい!」
教室で当てられたときよりもしゃきっと背筋を伸ばすと、竜はゆったりと続きを語る。
『その笛は人と吾とを結ぶもの。笛に人の息吹を感じれば、吾は姿を現し、人の祈りに応えてきた。しかしその年月も終わりじゃ』
「え? でもさ、壊れた笛を吹いても出てきたじゃん? そんなら今まで通りって訳にいかねえの?」
トオルが手をあげて口をはさむ。竜はゆっくりと長い首をゆらした。
「吾と人を結ぶ笛がなくなれば、吾には人が見えなくなる。人の言葉もわからなくなる。笛の調べは言葉。言葉は他者との思想感情の交換。それがなくなれば、やがて吾は、ただ吾の存在することわりのみによって天と地を巡ることになるであろう。変化はゆっくりしたものだが、その日はもう間近じゃ』
竜は短い前脚で首の後ろをカリッとかき、村井にそこをなでろとばかりに体をうねらせた。それはまるで犬か猫が飼い主に甘えるようにも見える。村井もそれに応えて手をのばした。
竜は水の化身だって言ったけど、どうしても生き物にしか見えない。
水が意識を持つとか、ましてや竜の形になって人になでてもらいたがるとか。科学的じゃない。
でも目の前の光景はそんな常識をどこかに放り投げてしまったみたいに現実的でもあった。
『ナルセは笛の役割を知っておった。代々笛の担い手の家に生まれたからのう。だから笛を大事にしておった。だがオノダはナルセから教えられた笛の役割に疑念を抱いていたのじゃ。そして、おのれの死を悟ったときに、笛をこわしたのじゃよ。それがオノダの思い、オノダの結論じゃ』
「え、おじいちゃん、わざとこわしたの? そんな……」
翔太は目を丸くした。大切なものだからこそ自分に残したんじゃなかったの? という疑問がまずおこり、つぎには自分が責められたかのように、まゆじりを下げた。
大事にしていた笛を友人に託したナルセさんにも悪いし、目の前の竜にもごめんなさいと謝りたくなる。
『オノダは川に堰を作る仕事をしておったじゃろう。山を削り、川筋を変える工事をいくつも行っておった。だからじゃろうな。オノダは吾にこう言ったのじゃ。人の手で大地を変えられるようになった今、もう吾との盟約は必要ではないのかもしれぬとな』
竜の尾がパシャンと水音をたてる。肩からしぶきを浴びた村井が小さく悲鳴を上げた。そのくせ側から離れようとしないで、なだめるように竜の背をなでた。
黙って見ていたトオルが肩をすくめて、その場にしゃがみ込んだ。
「なんかよくわかんねえけど。そうしたらの川の水は濁っちゃうってこと?」
『流れを固定してから長い時がたった。しばらくはこのままでももつじゃろうな。しかし地の底は常に少しずつ動いておる。また流れが変わることもあろう』
「ふぅん。でもそうなったらなったで、人間が人間の力でなんとかするから、あんたはもういらないって、そういう意味? そうこいつのじいさんが言ったの? なんかひどくねえ?」
胸がキリキリ痛んだ。
あの優しいおじいちゃんが、長い間この水の流れを守ってきた竜に本当にそんなことを言ったのだろうか。
『なにを怒っておるのじゃ、子どもらよ』
しかし竜はさもおかしそうに大きな口を開けた。
『吾は人の祈りが形を作ったもの。祈るものがなくなったのならばあるがままにかえれと、オノダは言ったのじゃ』
「あるがままに? じゃあ水になってもう竜じゃなくなっちゃうの?」
村井がなでる手を止めて聞いた。心なしか残念そうに口のはしっこが下がって見える。
『そういうことじゃ。笛は割れ、吾はゆっくりと人を忘れ、消えるはずであった。しかし突然、おまえが現れて笛を吹いた。吾を呼び戻したのはおまえじゃ、オノダの孫よ。もう一度聞く。おまえは吾になにを望むのか? 吾のこの意識はもう薄れかかっておる。が、最後の一つくらいは願いを聞いてやろうぞ』
翔太は口の中でうめいた。
何百年も人の祈りに応えてきた竜への最後の願いをぼくが決めるなんて、そんな大それたことできっこない、と思った。
答えを探してトオルを見たが、トオルは両手を広げて「オレに聞くなよ」とささやいただけだった。
おまえが笛の持ち主なんだろう、と。
しかたなく竜の金色の目を見つめる。だけどそこにも何の答えもなかった。ただ翔太の言葉を待っているだけだ。
それで気がついた。
自分は、いつも人の目の中に答えを探してばかりいた。自分の中に見つけようとはしないで。
翔太は竜から視線をそらしてうろうろと目を空中にさまよわせる。
ここで「別に」とか「どうせ」とか言うわけにはいかない。ちゃんと自分の中に答えを見つけなきゃ。
でも、ぼくの望みってなんだろう。
「あの……ぼくがこの笛を吹いたのは、たんなる好奇心で。吹いたら不思議なことが起きたから、どうしてだろうって思って。今夜ここに来たのだって、あなたを呼びたいとかじゃなくて、お父さんから逃げたかっただけで」
壮大な物語の後に、自分はなんてちっぽけなことを言っているんだろうと思うと、顔から火が出そうだ。
『なぜそうも自己を卑下するのだ?』
竜は静かに問うた。
「だって、自分に自信なんかぜんぜんないし」
言葉に出すと情けなさが募る。翔太はうつむいて笛を見つめた。
竜にしてもらいたいことも思い浮かばないし、自分がしたいことも思いつかない。空っぽだ、と思った。
竜は、まるで翔太を慰めるかのようにゆっくりと尾を揺らす。
今度は水音はあがらず、代わりに水色の光が渦となって空気を染めた。
『おまえの望みを言え。他人のためではなく、おのれの中にある望みを。消滅前の置きみやげに、吾にできることならばしてやろう』
翔太は逃げ出したくなる気持ちと戦って考える。
お金が欲しい? でも母と二人の生活は贅沢ではないけれど、不自由でもない。
では父と母に復縁して欲しいかといえば、ぜんぜんそんな気持ちはない。父はきっと何年たっても変わらないし、そんな父に振り回されるのはごめんだ。父は父で好きなように生きればいい。
もっと自分に自信が欲しい? いや、それって竜に何とかしてもらうことなんだろうか。何とかできるとしても。
翔太は考え続けた。
そもそもは学校で聞いた里神楽の笛の音がはじまりだった。
それからこの笛が自分のところにやってきて、おじいちゃんのことを思い出して、そうしたらちび竜が現れたんだ。
笛の音がおじいちゃんの記憶をよみがえらせたんだった。
あの家で、庭に向かって、自分をひざにのせて笛を吹いていたおじいちゃんは、この笛が竜を呼び出すことを知っていたはず。ぼくに竜を見せたかったんだろうか。
それなのになんで笛を壊しちゃったんだろう。たとえ竜に頼らないで人は人の手でなんとかやっていけるようになったとしても。笛を壊すことはなかったんじゃないか。
ましてや謎めいた手紙と一緒に壊した笛を自分に残すなんて。
わからない。
もう一度笛の音を聞いたら、おじいちゃんの気持ちがわかるだろうか。
竜もトオルも村井も、黙って翔太が考えるのを待ってくれていた。
やがて翔太は顔を上げた。
「あの……おじいちゃんの笛って上手でしたか? ぼく、一度しか聞いたことがなくて。そのときはとてもきれいだなって思ったんだけど、この笛は壊れちゃっててもう二度とあの音が聞けないんだなと思うと、すごく残念で。もっとも笛の吹き方なんて知らないから、壊れてなくても吹けないけど」
『技量は関係ないのじゃよ。人の強い祈りが吹き込まれた時に吾は応える。だから実を言えば音すら関係ない。こわれた笛であっても、おまえのオノダを思う強い想念が吾を呼んだのだから。それは祈りによく似ていた』
そこで竜は笑うように尾をゆらした。
『もっともほんの小さな姿しか取れなかったじゃがな』
「祈り? でもぼく、なにも考えてなかったと思うけど」
おじいちゃんのことなんて、笛を手にするまですっかり忘れていたくらいなのに。亡くなってから知ってもなんにもならないじゃないか。
それだけじゃない。何かを死にものぐるいで欲したことも、願ったこともない。ただぼんやりと生きているだけ。
勉強も、遊びも、どこかで単なる時間つぶしのように感じていた。
将来なんかわからない。なにかになりたい夢もない。
『本当にそうか?』
小さなつぶやきに竜が聞いた。
『本当におまえにはなにもないのか?』
「ぼく……」
『吾は固い地をうがち、水の道を開く。空を舞い雲を集める。奔流となって流れ下り、大海に潜り、この星を巡るもの。時を超えて異なるものを繋ぐもの。天と地、生者と死者』
「死んだ人を蘇らせられるの?」
竜の尾が水を打つ。パシャンとしぶきがあがる。同時に青い光が幾筋もあたりに飛び散った。
『そうではない。時を戻すことはできぬ。だが生ある時に息と共に笛に吹き込まれたオノダの想念は再現できるぞ。おまえの望みを言え』
村井が大きくうなずいた。トオルは親指を立てて見せた。
こんなちっぽけな望みでいいのかな。こんな自分だけの願いをかなえるので、本当にいいのかな。
そんな気持ちを、翔太は息と一緒に飲みこんで言った。
「ぼくは、おじいちゃんの笛をちゃんと聞きたい。それを聞いたらおじいちゃんが本当はなにを願っていたのかわかる気がするんだ。だから……それがぼくの望みです!」
『よかろう、よく言った』
竜は頭を高く持ち上げた。とたんにあたりが白銀に輝き、翔太はたまらず目をつむった。
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