大会後:帰還する前のお話
どのくらいの時間が経っただろう。
いくつの世界を渡っただろう。
あの大会が終わってから、しかし元の世界に拒絶されたこの体は、幾度試そうとも帰還することができなかった。
もともと人の精神は永遠に耐えられるようにはできていない。
だから、一ノ瀬アザトは忘却することで無限にも思える繰り返しを凌いできた。
それでも、忘れないことも多くある。
忘れてはならないことも、多くある。
恋愛とは少し違う、しかし確かな、真実の愛を見せてくれたメイド。
礼儀、誠実さについて考え直させてくれた、可愛らしい少女と犬のコンビ。
アザトが、正体も分からない彼女を愛してしまっていることに気付かせてくれた、鬼神を身に宿す青年。
そして、欲してやまなかった平穏の意味に気付かせてくれた、聖なる鳥。
直接対面し、触れあったのは4人。しかしその5倍の参加者たちが鎬を削った、あの熱狂的な5日間。
対戦表次第では、全く別の出会いがあっただろう。全く別の変化があっただろう。
それもいい、と思いながら、しかしアザトは、今の自分を、あの5日間で得た自身の変化を、少しだけ好ましく思う。
……どうしたの? アザトくん
(また、会えるかなって、思っただけさ)
……変わったね
(ああ。そうだな)
……あの人たちの世界に、寄り道してく?
守護霊からの、魅力的な提案。是非頼むとか言いそうになる自分を抑え込むのに、アザトは刹那の時間を要した。
(悪くないな。だが、あの子が、心配だ)
元の世界で、アザトは一人の少女を異形の群れの中に残してきているのだ。
それもまた、忘れられない、忘れてはならないことだ。
だから。
……愛してるって言ってくれたのに、その私の前で他の女の子が心配って言う?
(言うさ。なにせ、お前が好きなのは)
……うん。そんなアザトくんだもんね。
よく分かっている。お互いに。だから、やはり自分とともに在るのは、彼女だ。
(失敗した時、たまたまあの人たちの世界だったら、少しだけ話をしよう。わざとその世界を狙っていくのは、なしだ)
一ノ瀬アザトは、元の世界へ帰る。
さて、その次の試みがうまくいったかどうか、それは、御想像にお任せしよう。
究極のシスコン【自主企画「第一回『カクヨム』最強キャラクター決定トーナメント」参加】 七篠透 @7shino10ru
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