第37話商人アルバイ

商人ギルドの嫌がらせや貴族の利権などに

嫌気がさした私は旅に出た。

モルガ男爵やナズール技師には一年程で帰って来るとかれーはんばーぐ店と新しく出店した魔道具店を頼み、馬車一つで南へと向かう


ダンジョンマスターや純真無垢なゴブリンさん達に会いたくなったのも一つだが

もしかしたらダンジョンマスターに何か良いアドバイスが貰えるかもと打算もあった。


三月程の旅路で無事にダンジョンのある洞窟へとたどり着いたのだが


なんと!!


入り口の穴が崩落したのか岩で塞がれていたのだ。洞窟の脇には昔懐かしいあいすの棒が朽ちて悲しげに並んでいた。

近くの村に立ち寄った際に、数年前に

領兵とオークキングやゴブリンとの大きな戦闘があったと聞いて心配していたのだが…。


まさか!!


いや、ダンジョンマスターが討伐されたとの情報等は無かった。しかしどうすれば…


途方に暮れていると、突然「ヒヒーン」と馬がいななった。

しまったここは、森の中。

久々の景色やダンジョンマスターの領域であることにどこか安全であると安心仕切っていた。

見れば周囲にはゴブリンの影が…

体の何処かに黄色の布を巻いたゴブリン達である。


私はホッと息を吐く。

村で聞いた黄布ゴブリン達の事であろう、

彼らは近隣の村民と友好関係を築いており

言語は通じないが話は通じるらしいのだ。


私は彼らこそがダンジョンマスター配下のゴブリン達ではなかろうかと思っている。


手に構えたナイフを腰の鞘に直す。

剣術などかじった事なども無く、見かけ倒しなのではあるが。

私は敵意はないと両手を挙げた。


「ダンジョンマスター殿に会いたいのだ。

私は8年前に助けて頂いた。商人のアルバイ。」



ゴブリン達に連れられ、ダンジョンの洞窟ではなくゴブリンの村へと案内された。


村には木や藁で作った粗末な家が数十件並ぶ

助けて頂いた時に比べればゴブリン達の数は大きく増えている。皆一様に黄色の布を持っている。


頭にバンダナのように巻いたり、腰ミノに挟んだり。首や腕や足に巻き付けたりと。

どうやら彼ら黄布ゴブリン達の目印でありファッションなのだろう。


キョロキョロと見回しながら先導のゴブリンに付いていくと一際大きな家へと連れられる

どうやらゴブリンのリーダーの家らしい事が伺える。

中に入ると懐かしい顔を見つけた。


「ゴブ太さん!!」


私はゴブ太さんと握手を交わす。

どうやらゴブ太さんも私の事を覚えてくれていたようだ。彼はあの時のように見た目は

凶悪そうな笑顔をしていた。

一回り大きくなったような?

筋肉は引き締まり一流の冒険者のような体躯をしている。


ゴブ太さんと何とか話をした。

ゴブリンの中でもゴブ太さんは大陸語を話せるが、なかなか難しいようで片言である。

だが、魔物が大陸語を話すと言うのはすごいことなのだ。


ダンジョンマスターに会いたいと私はゴブ太さんに頼んだのだが、彼ら悲しげに首を横に振った。


「ますたー、今、いない、でかけてる」


もしや先の戦闘で亡くなってしまった可能性も心の中であるのではと思ってもいた私は

出掛けていると言う言葉に安堵した。


どうやらゴブ太さん達もダンジョンマスターとは随分会えていないのだとか。


ゴブ太さん達ゴブリンにもう一度会えたことを嬉しく思う半面、ダンジョンマスターに会えないのは残念である。


数日ゴブリン村にお世話になる事にした。

夜は彼らに食事をご馳走になり、翌日からは

ゴブ太さんに村を案内してもらった。


彼らが食べる食事は大変美味しいものだ。

お酒もあったが、最初私はお酒が苦手な為に酒精のあるものは断っていた。


昔一度飲んだビアーは生ぬるく舌触りも悪く、友人との手前無理に飲んでしまい

家に帰ると直ぐに戻してしまい、大惨事である。その上翌日は二日酔いで酷い目にあった。


しかし、ゴブ太さんが飲むお酒は透き通る琥珀色をしており、私が知るお酒では無かった。それで少し気になりなんのお酒かと聞いてみた。

すると明日原材料を取る所へと連れていってくれる約束をした。


翌日外が慌ただしくなり、早めに目が覚めた

其処にはゴブ太さんを先頭にゴブリン達が

列を成していた。中央の台の上にはゴブミさんが、今から戦争に行く兵士達に向かい演説をする将軍かの如く、ごぶごぶと息荒く他のゴブリン達を鼓舞しているようだ。


ごーぶごーぶごーーぶ


ゴブリン達一同が右手を振り上げ雄叫びを挙げる。ここまでが一幕のようだ。


此方へ近づくゴブ太さんに何事かと聞いたら

今から昨日話したお酒の原材料を取りに行くらしく、これから私を起こしに行くところだったようだ。


凄い雄叫びではっきりと目を覚ました

私は、頷きゴブリン達が列を成す最後尾に

付いて森の中へと進んだのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る