普通じゃないからチートなのに、あたりまえに拘るならバカ以下なんですけどっ!?




 普通じゃないから超常チートなのに常識あたりまえすがるなら愚物バカ以下なんですけどっ!?




「…………」


 言葉に詰まったアテルイに、俺は問いを重ねる。


「今まで、このさとに見向きもしなかったあいつらが、このさとを狙うのは何故だと思う?」


「……わからないけど、最初はこの土地を捨てて出て行けって言ってたから、この地が欲しいんだろう?」


「ああ、正しくはこの地の硫黄がぜにになると北条縁の商人が目をつけたからだ」


 アメツチは、ここで『恩讐のアテルイ』でアテルイが風魔の抜忍となり豊臣に与する事になった事実を口にした。


「何で、そんな事を知ってる? 日巫女さまに聞いたのか?」


「いや、御霊みたま天啓しめしを授かったと言っただろ」


 そう言ってアメツチは、懐に入れていた陰石かげいしを取り出し、掌に<意志の波気>を集中させ、頭の上まで石を持ち上げた。


「この<志念みわざ>と一緒に」


「……なっ!?」


 息を呑み目を見開き、今まで僅かにアメツチを警戒していたアテルイが、完全に硬直して、浮かび上がる小石に瞠目する。


 タネがないとはいえ、俺からすれば、ちゃちな手妻にすぎないが、<波気>を知らない者から見れば奇跡のわざだ。


 アメツチは、そのを只そのまま告げた。


「これは、<志念みわざ>ともいえないわざで、俺はさとの皆に<志念みわざ>を授けて、天啓しめしによってさとの滅びを防ぎたい」


「…………」


 俺が知る未来の歴史の予測しんじつを聞いた途端、アテルイの瞳がアメツチの瞳を貫くように見る。


 それは、一欠片かけらの嘘も見逃さないという決意に満ち、決して嘘を許さないという覚悟を持った瞳だった。


 だから、を見究めようと沈黙するアテルイに、アメツチは、それが道理だと、真理を示すために言葉を紡ぐ。


「お互いに諦めないで、争い合うならば俺達は決して勝てない。 何故なら俺達盟守ムスビの一族は、<和の民>を争い合わせないために生きていて、争いに勝つために生きてはいないからだ」


 という欺瞞ごまかしを捨てた者達は勝つ事を望まず、平和と人の幸せを人として望む。


 だからこそ、ひたすらに勝ちを望み負けを怖れて、鬼と呼ばれながら争う術を磨き続け、神と呼ばれる権威を使い大きな暴力を維持するための組織を造り、畜生といわれても、人から奪い、人を傷つけ、人を殺し続ける者達にはかなわない。


 ‘ 奪い、傷つけ、殺し、人類ひとを自滅させる暴力原理を、信仰し振興する者達 ’にとっては、人は敵だが、‘ 創り、許し、癒し、人を慈しみ育てる共存原理を、望み臨む者達 ’に敵はいないからだ。


「……………………」


 <波気>を使うアメツチには、俺を見定めるのと同時に、俺を理解しようとアテルイのオーラが俺に向くのが見えた。


「でも、だからといって和のくにを和を望まないくににして、神の子孫を名乗って恥じない公家もの達に服従していいとはさとの皆も、俺も、アテルイ──おまえも思ってないはずだ」

 

 奪い、傷つけ、殺し、人類ひとを自滅させる方法論みちを選ぶ事で栄華を得る‘ 国という仕組み ’で、くにを覆い尽くし、そして、くにとは国家であり、権威であり、暴力を操るための権力でしかないという誤魔化しで、人を魔へと化させようとする愚挙ことを、人である事が大切だと想う者は決して望まない。


「……………………………」


 ゆっくりとアテルイのオーラがアメツチに向って流れてくる。


「だから、俺達は抗い続けて来たんだ。でも、誤魔化しに騙されて争い合うための普通を信じようとする者達の中にも、そんな誤魔化しの矛盾おかしさに気づく者達はいる。けれど、そんな者達も一向宗のような‘ 新たな争い合うための仕組み ’に組み込まれてしまうのが戦国の世──今のこの邦の在り方だ」 


 奪いあい、傷つけあい、殺しあう仕組みで動かされる‘ 国 ’という組織に生まれ従属したからといって、それが正しい在り方だという誤魔化しに気づく人間は必ず生まれる。


 何故ならば、人という生物は、暴力原理とは正反対の共存原理を生存戦略として選んだからこそ生きていられる弱い生物だからだ。


  共存原理を否定しては社会を造れず、だからこそ社会に寄生して害を与える一握りの人間だけのために造られた‘ 国という仕組み ’が誤魔化しに満ちていると、善悪を知る者になら誰にでも判る。


 だからこそ、争い合う権力者達は、善悪を曖昧なものにしようとする理屈で、善悪を知ろうとする者を惑わし、互いに誤魔化しの正義を騙り合って善悪などないのだと思わせようとする。


 それは俺が知る現代にまで続いた‘ 戦国の仕組み ’だった。


「………………………」


 <波気>になる前の幽かなアテルイのオーラは、アメツチの纏う<波気>に触れて吸収されていく。

 

「それが普通だと、俺達まで信じてしまいそうになっていた。でも、<輪廻転生みたま>のチートみわざを俺は授かった。そして、皆やおまえにも授けられる。それでも、朝廷や侍達の暴力原理つくったあたりまえに従うなら愚かどころか猿同然だ」


 人を騙すための妄信が拘り固まったのが朝廷権威なら、人を傷つけ殺す力頼りの狂信が凝り固まったのが武家権威。


 野生の原理を捨て毛無の猿である事を止め、人の摂理で生き始めた人間未満の者達を、神秘インチキで騙して従えた詐欺師達が積み重ねた権威を、人殺し達が獣の原理で壊して新たな権威を立てる暴力原理の歴史。


 神や権威という神秘インチキと結びついた権力という暴力を撥ね退ける実在する奇跡チートを手にしてすら、暴力原理に従う必要があるのか?


 それは、人であろうと目指す道から外れる事ではないのか?


 モブ主人公アテルイにかけ続け、決して届かなかった言葉を、理想を実現するための御業チートと一緒に差し出す。


「………………」


 黙ったまま表情も変わらないが、情念に従うオーラは正直だ。


 アテルイがアメツチを拒絶しているのなら、俺に向って流れては来ず、否定しているのなら、吸収される事なく弾かれている。


 だから、アメツチは、浮かべていた陰石をゆっくりと降ろしながら、石を浮かべるために使っている左手を掲げたまま、反対の手をアテルイに差し出す。


「だから、一緒ともさとを、<和の民>を、‘ 人 ’と人の道を護る援けになってほしい」


 それは、信頼する相手に援けを求めるための仕草だ。


天地アメツチ──、いつも正直すぎだったけど、何ていうか、こう……もっと突き抜けたな。でも、今の天地アメツチのほうが、わたしは好きだ」


 そう言ったアテルイは、裏表のない笑顔で、右手を俺の掌の上に乗せた。


「うん、判った。勇者アテルイの名を継いでいても、わたしも盟守ムスビの一族だから、諸共もろともに生きよう。」


 諸共に生きる?


 その言い回しに、引っかかる事があって、俺は瞬時にアメツチの記憶を探る。


 それは、女系で多妻多夫の乱婚を認めるさとでは、共生めおとの契りを示す言葉だ。


 そこで、初めて俺は、‘ 右手で男から女へする仕草 ’の場合、ただの信頼だけではなくがあった事を思い出し。


 無邪気に笑うアテルイが美少女だとアメツチは改めて気づき、俺は常識の違いというものを改めて思い知った。


 これだから、常識というやつは性質タチが悪い。





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