拠る辺、得る術

やっぱり、俺は俺だし俺も俺でしかないんですけどっ!?



 


 考え込んでいるうちに、いつしか辺りは暗くなっていた。


 病人を安静に隔離させるための幕家に灯りはなく、既に濃密な闇が満ち、清寂の中で一日を終えようとしている。


 俺の中の、アメツチも、既に考え疲れて睡りに落ちかけていた。


 それに伴い、アメツチとの''''''''''''''''''''前世の俺の情念も、薄まり眠りについた。


 既に名を失い、自我の拠り所も無い俺の情念など、どんなに強く激しくても一時の幻のようなもので、アメツチの精神活動なしには在り得ない夢想ものだ。


 それでも、アメツチの情念が駆り立てられていれば、共に強められる想念ものではあるのだ。




 前世までの俺達は、本当の意味の善を理想と敬遠して、争い合う事で権力を得た人間達が、自分達の利権を守るための建前を正義とし掟とする世界で生きてきた。


 そして、戦い、負けた負け組だ。


 けれど、アメツチは違う。


 <和義の治証ヤマト>を破って、人の我欲を制し支えあい公平に富を配りあうという支配の意味を、上下関係で他人ひとを征し屈服させて従えるという概念ものに変える'''''''''となえるように成った一族の人間ではない。


 信仰を利用する事で共存のための法を否定し、権威という形のない暴力の掟で人間を縛る朝廷権力かくさしゃかいを造った蛮族に屈服せず、媚び従うという甘えに逃げず。


 '''''''''''''''''''をする武士シグルイにも堕さず。


 ひたすらに、<和義の治証ヤマト>という人と人が援けあい支えあい、物を心を配りあい生きるためのちかいを護り続けた盟守ムスビの一族の人間だ。


 自分とは違う理念りねんを知るのとは違い、違う人格を受け入れるのは大人でも難しい。


 だから、違う常識で生きた63年分の記憶と意志と情念は、七つの子には重すぎる負担となる。


(……結局、<制厳>を増やすしかないって事だな)


 そうしなければ、アメツチはストレスに押し潰されて萎縮していき、やがて俺に呑みこまれて消えてしまうだろう。


 それだけは、避けねばならない。


 俺は、アメツチを護らねばならないのだから。


 前々世の俺の34年の記憶も意志も情念も、前世の俺の29年の記憶も意志も情念も、ただそのためにある<亡念むねん>のごうによる生の残滓ざんしだ。


 <輪廻転生>とは、そういった<志念>。


 生きる事を諦めずに足掻き抗おうとするもう一人の俺を探し亡念むねんを憑かせ融合する呪いであると同時に、受け入れてくれた俺を護り援ける祝い。


 呪いという無念から生まれた矛念むねんの情であり、祝いという理想のこころざしだ。


 死者の死念しねんから生まれながら、<志念>のことわりから外れない事で、ただ害悪のみとならない奇跡めいた亡念むねん


 <輪廻転生>とは、そうでなければならないごうなのだ。


 愚かな生き方しかできない哀れな人間達が、その事に気づかず、その実感を持たずに生きた果てに生み出す悲惨で陰惨で凄惨な因業カルマを覆すための呪いでなければならない。


 前々世の俺と同じような理不尽な死が振りまかれないように。


 前世の俺と同じように理不尽に抗う人間が、名もなきままに葬られないように。


 争いの理屈を信仰する人間達の因業カルマにより誰一人、不幸にならないように。


 それができないのなら、争いをいとう者達を、戦いに巻き込もうとする者達から、一人でも多く護れるように。


 力で奪い殺し争い合うための理屈を振りかざす者こそが高貴だと騙る下衆達に脅かされる俺と同じ者達の叫びに応える事ができないのなら、<輪廻転生>に意味はなく。


 つまり、'が存在する意味もない。


 そのためには【設定者の悳献】の<制厳>を考えて、即座に盟守ムスビの一族の大人達に、決断を委ねなければならないだろう。


 俺は英霊ではなく、弱いからしかたないのだと理不尽を押しつけられた負け組の志念から生まれた'''''''''で、アメツチも強さに憧れ戦う生き方を選んだ英雄げんそうではなく、自分の弱さを知り抗い続けるただの人間の子供だ。


 それでも時間をかければ、アメツチアメツチのまま、俺を受け入れられるだろう。


 だから、その時までは俺の意志をアメツチに突きつけてはならない。



(<制厳>……か)


 <制厳>を増やすためには、もう一度【設定者の悳献】という<志念>の本質を考え直さねばならないのかもしれないな。


 とりあえず、一つの<制厳>は考えついた。


 【設定者の悳献】という<志念>の本質は契約で、商売に例えるなら俺の利益という部分を削る事を<制厳>としたのだ。


 本質が契約なのだから契約を縮小して、対価を下げる<制厳>をしたんだが他に<制厳>となると……まてよ、ひょっとして……。


 ああ、そうか!

 

 受け取る利益を縮小するだけでなく、取り扱う規模を縮小するのも契約の縮小だ。


 という事は…………。


(そうか、【設定者の悳献】で相手に与えられるわざの系統を減らせばいいのか)


 事業に例えるなら、他業種を経営していた内の幾つかの部門を廃止するわけだから、これも<制厳>になる。


(という事は現波エンテ八極の、どれかを【設定者の悳献】で与えられなくするって事だな) 


 具体的にどれにするかというなら、やはり…………。


 <現波八極>のうち、使う事で<波気使い>を覚醒させるリスクが高いのは、武闘系だ。


 <波気>を破壊力に変えるので、直接戦闘力は上がりやすいが、数に圧殺される可能性も高い。


 具体的に武闘系のわざと云えば……。


 <装波>を攻撃に使うレベルに高めた武装波ステーリや、武器にまで及ぼす器層波エピュメタに、身体に纏う<波気>を高速で移動させる流送波ルゥーオや一点に集中させる剛極装波アダマス


(それら武闘系のわざを覚えさせられない技術として<制厳>にすれば……うん、たぶん直ぐに【設定者の悳献】を<現波>させられる!)


 その確信と一緒に、俺は<波気>を情念で高め、理念でプログラム化して<現波>という奇跡に収束させて発現させ始める。


(さあ、'までには<現波>するぞ!)


 その意志を奇跡かたちにするためのわざを、修め行うシステムへと俺はただ化していった。

 



 




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