転生って呪いみたいなものなんですけどっ!?





 その後は、大した話をするのでもなく、そろそろアテルイの親父達スクナの一族も、塩採りを兼ねた海への漁から戻ってくるとか、村外れの土防壁の補修を始めるとかの四方山せけん話をして、ディーダラ爺は出て行った。


「何ぞ話があれば、仕事場にでも良いんで、いつでも来い」


 最後にそう言い残したのは、おそらくアメツチの変化に気がついたからなのだろう。


 大雑把な造りの顔と身体とは違って、鋭い爺さんだ。


「まあ、隠すつもりはないのでいいんだが、最初はエニシさんにだよな」


 アメツチが、前世までの俺の見識を得た事を告げるのは決めていたが、順番はエニシさんが最初でなければならない。


 だが、その前に【設定者の悳献】を<現波>させなければならない。


 たぶん、今の俺は<輪廻転生>にほとんどの<波気>を費やしているはずだ。


 <志念>の制御をする<志念領域アレア>は、<波気>を簡単に覚えられた事を考えれば、<輪廻転生>によって持ち越されているから充分だろう。


 そうでなければ凡人のアメツチが、こんな超天才的な覚醒ができるわけがない。


 『イェーガー²』の主人公というマンガ的な天才達でさえ、外部からの干渉なしで覚醒するなら1週間はかかるのだ。


 どう考えても、、ほぼ瞬時に覚醒なんてできるわけがないのだ……哀しい事に。


 前々世の俺は、その事を嫌というほど知っていた。


 けれど、前世の俺はそれを忘れたがり、自己満足の英雄願望で、家族を守ったのは良いけれど、守ったのだとすら誰にも気づかれる事なく独りで死んだ。


 そして、アメツチは、前世のように自分にできる事を黙ったまま生きるのはめ、皆で未来を切り開く道を選んだ。


 皆に、護られて生きている事をったからだ。


 前世の俺も知っていたのだが、前々世の俺のように負け組みにはならないと考えてしまった。


 前々世の争い合う人間達の行いを好しとしない生き方を負け組と考え、争そい勝ち取らなければ生き残れないのだというを信じてしまった。


 前々世の俺は、前世の俺に干渉して無理に変えようとしなかったせいだ。


 でも、今は前世の俺がアメツチに干渉しようとするのに干渉しているというか、一貫して生きてる俺と生きていない俺の想いを比べて、生きてる俺を優先しているのか。


 だからなのか、アメツチは、前世と前々世の俺の名を知らない。


 どういう風に生きたかは思い出せるのに、その名だけは空虚だ。


 それは、俺が虚無とは何かを生み出す根源だと思っていたからかもしれない。


 そして、たぶんアメツチが、前世までの俺に呑みこまれて消えたり、膨大な知識や記憶に溺れて、どうすればいいかさえ解らずに立ちすくまずにいられるのも────。


「<波気>を増やすには<錬波>を行い続けるしかない」


 だが、それとは別に少ない<波気>で<志念>を覚醒させる裏道的な手段もある。


 誓現オルクス制厳デュナム


 理に則り行動する事を誓う事で意志力を高めるか、あるいは欲望を禁じる事で自らを縛り情念を高めるかという<志念>増幅のわざだ。


 魔術風に言うならば、自らにかけるクエストとギアス。


 どちらも破れば代償を払う事で成り立ち、その代償が大きいほど少ない<波気>で<志念>を覚醒させる。


 言い換えれば、同程度の<波気>で生み出した<現波>の効果を高めるという方法ものだ。


 体内の<波気>の総量が少ない凡人が<輪廻転生>を習得できるのも、半分は'''''を避けるという誓現オルクスの効果だ。


 そして、もう半分は、前々世の俺が死ぬ前に覚醒させた<輪廻転生>が、死んだ後に数十倍にも強化された<亡念むねん>となったからこそなのだろう。


 政治屋とその手先や派閥の連中を<亡念>の一部が祟り殺したみたいだが、一度動き出した政策は止まらない事は解っていた。


 政治屋の悪事が起こすだろう災厄を防げずに、多くの人々を死なせてしまうという無念と、未来に訪れる災厄を<亡念>から知らされた人間の想いが共鳴する事で、<輪廻転生>は覚醒する。


 それが前世で俺が立てた仮説だ。


「前のときは、ここから一年半くらいかかったんだよな」


 <波気>と<志念領域>を増やすのに、平均一日八時間修行して一年半。


 <波気>だけに絞って訓練するなら半分だけど……。


 問題は、前世みたいに引きこもって修行なんてできない事だよな。


 手伝いもあるし、自由時間は一日ニ時間程度しかとれないだろう。


 三年……ダメだ長すぎる。


 となると制厳を強めるしかない。

 

 【設定者の悳献】の本質は契約だ。


 この<現波>の目的は、相手の<波気>を貸借する事にあり、『イェーガー²』に出てくる犯罪組織のボスの<志念>で<現波>したわざを強奪するわざにヒントを得ている。


 強奪する代わりに契約で、発動するわざでなく、燃料となる<波気>と制御するための<志念領域>というあたりが凡人の限界なのだが……。


 まあ、その<波気>の借り受けの前払いとして、<志念>のわざを開発するという苦行を代行するのが【設定者の悳献】なのだ。


 この場合、誓現は苦行の代行。

 制厳が対等な五割の借受けではなく三割に留める事だ。


 その他の覚えたときの誓現としては、三つ。


 俺が死んだ時には三割の借受けはそのまま消えるという事実を説明して同意させる誓現。


 相手の<現波>のわざが定着するまでに一年からニ年かかり、その期間に俺が死ねば、能力が消え、自力で再習得する必要があるという事実を説明して同意させる誓現。


 そういったリスクの説明をきちんとした上で、相手を心底納得させる誓現だ。


 つまり、誓現はこれ以上増やせないほど増やした上で覚えたので、制厳くらいしか増やす要素がないのだ。


 制厳の三割は下げる事が可能だが、<現波>のわざが定着するまでの<波気>操作を自動的に行うには一割分くらいは使うので、そこが限界だろう。


 これでたぶん数分の一くらいに短縮できるだろうから…………それでも半年か。


 【設定者の悳献】を覚えれば、時間がたって<波気>と<志念領域>の総量に余裕ができた後に、変更はできる。


 あと、もう一つくらい制厳を増やすなら……使える時間の制限か……いや、それは不足の事態に対処できないからダメと却下したんだった。


 半年も秘密を持ち続けるのは、アメツチにはキツすぎる。


 まだ七つ、数え年なので前世の感覚でいうなら、小学校入学間際の子供だ。


 情報が溢れている前世までの常識で考えるなら、平和な発展途上国の濃密な人間関係が在る農村で育った無邪気な子供が、孤独に秘密を背負うなんてのは無理なのだ。


 けれど、【設定者の悳献】を覚えなければ、先々の話をする事もできない。


 盟守ムスビの一族に新たな可能性が生れた証拠を提示せずに、滅びの日が来るとだけ訴えても、不安を煽るだけで、どうしようもないからだ。


 危機と解決策の提示は同時でなければ……。

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