護られてるのに気づかないから子供なんですけどっ!?






「でも、仮説が正しくても新しい能力を得るのは時間がかかるんだよな」


 俺が前世で立てた仮説。


 それは<志念>が死後も<亡念むねん>として残る事がある事と、前世の俺に覚えたはずのない<志念能力>が、ある事が解ったから生まれた仮説だ。


 俺が前世で選んだ現波エンテは、マンガ『イェーガー²』風にいうなら【設定者コスモス悳献シンフォニア】。


 簡単に説明するなら、任意の<志念>を簡単に目覚めさせる呪法系のわざだ。


 ただし、契約として【設定者の悳献】で<志念>を得た者は、<志念>を制御するための<志念領域アレア>と<志念>の燃料である<波気>総量の三割を、俺に供与せねばならないという奇跡もの


 呪法系は特異な能力で直接戦闘力が低い代わりに在り得ない現象を起こす。


 とはいっても<志念使い>相手だと、抵抗される可能性が高く、見ただけで殺すなどという【邪視】を発現したものの、武闘系の肉体を強化した相手に、成す術もなく殴り殺されるなどという場合も多い。


 これは、呪法系が修行なしで覚醒する事が多く、修行で武術の延長として<志念使い>に至った武闘系に<波気>の量や扱いで及ばないという事が多いためだ。


 まあ、呪法系の干渉力が武闘系の干渉抵抗力を上回れば別だが、そうなるには<波気>の総量が武闘系に対して1.5倍は必要なので直接戦闘では部が悪いのは間違いない。


 自分が八極のどの系統に当たるかというのは、理性と情念のバランスによるため、人間の個性が系統に直結している。


 だから、本来なら俺がアメツチになった時点で、人格が変化している可能性もある。


 けれど、俺がアメツチに転生しているという事実が、やはりその可能性を消しているのだ。


 なぜかといえば、それは前世で、【設定者の悳献】に付随する<志念>解析で自分を解析した際に<輪廻転生>という<志念>を見つけたからだ。


 <輪廻転生>とは、死に瀕した時に自動的に自身の人格を受け入れてくれる存在に転写する<志念>の呪詛わざだ。


 前世で俺が呪詛を受け入れたのは、家族ごと死ぬ悲劇を避けるためだったのだろう。


 それなのに、<志念領域アレア>と<志念>の燃料である<波気>総量の七割を<輪廻転生>に占有されたせいで、力が足りず呆気なく殺される事になったのは皮肉な結末はなしだ。


 ……9ミリ程度の銃が効かないのは判っていたから、自作で60口径を作ったのに、それすら弾かれたんだよな……殺人ピエロアイツ、属性系なのに。


 だから、今ここに再びこうしている事が、同じ事が起こったのだという証拠で、<輪廻転生>という無自覚の呪法系<志念>を得ている俺が、他の系統であるはずがないという証でもあるのだ。


「という事は、【設定者の悳献】を使えるようにするしかないだろうな」 


 それならば、新しい<志念>を数年かけて覚える必要はない。

 ただ、<波気>量を増やす修行は必要だが……。


 【設定者の悳献】は協力者さえいれば自分の<志念>を拡張強化できるしな。


 前世では色々やらかしたのと、自分の能力を隠すために、思うような勧誘ができなかったが……。


「……ん? 誰だ?」


 そんな事を考えているうちに、円筒状に薄く広げた<波気>の中に人が入ってくるのが判った。


 <波気使い>四方行の応用わざで、探捜波ゼーテオという<波気>感知のわざだ。


 <波気>は、万物に宿るので精度を鍛えれば、千里眼まがいの事ができるようになる。


 アメツチの<波気>の総量が足りないので、<波気>の動きをコントロールする修練も兼ねて、地上1メートルに厚さ数センチというように、工夫して広げても、半径十数メートルしかカバーできないんだけどな。


 それでも、誰かが幕家に近づいてくるのは感知できるし。<波気>の制御のみなら前世までと同じレベルに達している。


 とはいっても、中堅レベルでしかないから先は長いのだが……。


 数メートルにまで近づいて、幕家の掛布扉かけおおいの前まできて、やっと気配の主が解った。


「おう、アメツチ。生きとるかーっ♪」


 それと同時に、そう言いながら入ってきたのは、地造司祭ディーダラ爺だった。


 2メートル近い禿頭のガッシリした体格の巨人というに相応しい体格は、いかにも巨深タルタラと呼ばれる御霊みたまの祭司らしい姿だ。


 明らかに古代欧州の血を色濃く受け継ぐ蛮族を思わせる風貌の爺さんだった。


 俺になった今だからこそ解るが、たぶん古代ギリシアから大八洲に流れ着いた一族で、だいだら法師伝説になった少数民族なのだろう。


「平気だよ。オモダル婆が一日は寝てろっていうから寝てるだけだ」 


 仮病だとは言えないので、無難な返事を返すが、エニシさんや、義弟妹の時ほどではないが、アメツチの心は痛んだ。


 態度こそ気軽だが、ディーダラ爺がアメツチを気にかけてくれているのが解るからだ。


 転生以前には気づかなかったが、俺とアテルイが対立しないように心を配ってくれてたのが、今なら解る。


「そうか。アテルイにられたんだってな。アイツ、母御に叱られて、罰で水汲みをやらされとるぞ」 


 今回も、俺の鬱憤が溜まらないように、アテルイが罰を受けた事を報せに来ててくれたのだろう。


 一応、罰という事にはなっていないが、今日は晩めし抜きで安静にしていろというのは、事実上の罰だしな。



 『恩讐のアテルイ』のアメツチは秩序に拘り、<和の心>を置き去りにしてしまったから、孤立したのだと今なら解る。


 そして、周りの者がアメツチを嫌ったとアテルイは感じていたが、決してそうではない事も。


 一族のおとな達は、アメツチもアテルイも同じように和の中へ導こうとしていたのだろう。


「そうか。り返してやればかったな」

「そしたら、お前も罰を受け取るぞ」

「アテルイが罰を受けなきゃならないようにしたんだから仕方ない」


「そうか。仕方ないか」

「うん。アテルイは間違ってると思うけど、俺のやり方も間違ってたから仕方ない」


 環をつくる手を離し、アメツチがアテルイの手を先に放したから、アテルイは離したその手で殴りかかってきた。


 そして、アメツチもアテルイも同じように和を外れたのだ。

 けれど盟守ムスビの一族の和は乱れなかった。


 環を外れた子供を、環の内に包み込み護ろうとし続けたのだ。


 外から問答無用で平和を崩されるその日まで──。


「それなら、またアテルイと話し合ってみい」


 ディーダラ爺の言葉に俺は黙って頷いていた。







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