何もできないのに先の心配とかしてたんですけどっ!?
「俺にできる事──か」
「アメツチに、できる事って何だ?」
「そりゃあ……って、イサハヤ? アヤカもか」
いつの間にか追い出されていた二人が幕家に戻ってきていた。
まあ、それを
「アメツチ、痛い?」
「いや、痛くないよ」
『恩讐のアテルイ』で描かれた破滅の未来を想い浮かべそうになるのを、アヤカの心配そうな声が止めてくれた。
「────もう、大丈夫だ」
終わりは、いつか必ず訪れる。
でも、それは今じゃないし、
「だから外で遊んでおいで。
「でもアメツチ、独りで寝てるのつまらなくないか?」
「いや、色々と考えてたから、つまらなくないよ」
「そっか、ないかー」
ほろりと笑ってイサハヤが言うと。
「ないかー」
アヤカも、ふわりと笑って
それは、ここが俺の居場所で、ささやかな幸せを抱ける大切な
「ああ。でも
俺を気づかってやって来た幼い二人を邪険に追い出すのも気が引け、一計を案じる。
「……俺もやだ」
「……痛いのやー」
あの婆さんは
それでも、皆のためにならない事だから叱るのだと一族の者は判っているので尊敬されているから、こういう時にひきあいにだすのには最高の相手だ。
まあ、ナマハゲとかブラックサンタみたいなもんだな。
「うん。俺はもう平気だから、やっぱり見つからないうちに
辺りを見回すふりをして言うと。
「アメツチ、平気か?」
「平気?」
もう一度、俺の顔を見て、俺が笑ってうなづくと、二人は嬉しそうに笑い返して幕家から出て行った。
それにしても、いくら敵意もなく、よく知った気配の
和んだ気分を引き締め、未来を切り開くための方策に考えを
気配を隠してたり、敵意のある相手や、知らない気配なら、気づけただろうか?
前世までの記憶と情念を取り戻した時に、<志念>の燃料である<
けれど、身体に宿る<
だから、外部に薄く広げた<
だというのに、<志念>が使えるようになった後の事をうじうじと心配してたのか、俺は。
自分というものが定まっていない状態ってのは厄介だな。
でも、まあ俺が独りじゃないと気づけただけマシだ。
前世はしばらく勘違いした英雄志願をやってたからな。
とりあえず、<志念>の修行をして、特殊能力を発現できる
<志念>を覚え、それを元にどうするかを長老衆とエニシさんに相談して……。
「
ハッ! いかん、妄想がっ!?
なんか、精神的に安定してきたせいか、元の俺の悪い癖まで出てきてる?
くっ! またキモイとか言われてしまう。
いや、今世では言われてないけどっ!
それに前世は、ちょっと混乱してただけで、ちょっと自分が特別だからスゴイ存在と勘違いした…………やめよう、心が痛い。
それに、
「でも、婿になるなら……エニシさんの婿がいいな」
「アメツチは、わたしの御婿さんになってくれるの?」
……この状況では、聞こえてきてはいけない
金属ではなく堅い樹で造られたころころとした鈴の音を思わせる聞きなれたやわらかな声。
「……か、
「昔はそう言ってくれてたけど、近頃はそっけないから寂しかったけど、嬉しいわ」
にこにこと嬉しそうにエニシさんが、身内びいきでなく前々世の美人女優達すら足下にも及ばない美貌を、輝かんばかりの笑みで満たし、寝床の横に立っていた。
エニシさんは、『恩讐のアテルイ』の永遠のマドンナで善き人の象徴として描かれる理想の女性だ。
だから、女優ぐらいじゃ……って、違う!
イヤ、違わないけど……って何でここに!?
いや、心配してたから、様子を見に来てくれたんだろうけどっ!?
「でも、大丈夫そうで安心したわ。」
自分の内心を図らずも吐露した
慈愛を感じさせるしぐさで、男を意識する女の
だが、我ながら青いことだと心の奥で微笑ましく自分を見つめる前世までの俺につられて、
「あ、ああ、もう平気だよ」
「でも、
「判ってる。
それは、命令というのは
「
子供相手だからこその気軽さなのか、アメツチの憧れを受け止める言葉を口にして微笑むエニシは、綺麗で美しかった。
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