第56話 冥土


「どうしたのそんなに見つめてー☆」


と覗き込んでくるが、そのまま張り手か、かち上げを喰らわせてきそうな迫力がある。


もしくは、土俵の立会いでそのまま額にぶち当ててひるんだところをそのまま寄り切って勝ってしまいそうな・・・

そんな強さも感じる距離感と圧力。


そうこのカナと名乗る多分女性?はまごうごとなき相撲取りだ。力士だ。


しかし、声は何ていうか妹系キャラのような可愛らしい声なのが非常にむかつく。


だが肝心の見た目が頂けない。


力士がパンパンのパッツンパッツンでメイド服を着ており、髪はロングヘアーと言えば聞こえは良いが、まだ髷を結えない力士が伸ばしっぱなしにしている髪というような感じである。


一言で言うと『  恐  い  』


うん、これはハズレだわ。

地雷だわ。


今すぐ帰りたい。


「キミはじめましてだよねー☆」


「あ、ああ」


そりゃあ、はじめましてだろう。

こんなのに何度も会いに来るなんてどんな罰ゲームなんだ。

とりあえず、チェンジしたいのだが声の割には見た目の迫力が恐すぎて言えない私が居た。


「普通はさー、横に座るけど私はちょっと無理でさ~」


ちょっと無理だと?


むしろ全然無理だろう。

むしろ私が押しつぶされるわ!!


「ちょっとどいてね」


そう言って私が椅子から退くと力士が椅子にドカっと座る。

気のせいかミシミシと椅子の悲鳴が聞こえた。


「さあ!おいで!!」


おいでって何がだよ。

まるで椅子にハマったような窮屈そうな姿勢の力士が両手を広げて呼び込んで来る。


「そのまま私の上に座っていいから!!」


えー、何だよそれ初めて聞いたぞこんなサービス。

何か凄く暑苦しいイメージしかしない。


「大丈夫だから!恐くないよっ☆ うふふ」


恐いわっ!!

まあ、そう思いながらも恐る恐る座ってみるおっさんであった。


だがしかし・・・



ぽよんとした感触が全身に伝わった・・・こ、これは何だ!?



絶妙に柔らかい感触が体全体を包み込む・・・。


しかも、力士のような鍛え上げられた硬い肉体かと思ったら女の子らしい柔らかさ・・・そして、何故か鼻にちょっとだけにおって来る女の子らしい香り。

断じて力士から漂ってくるような鬢付け油のような臭いでは無かった。


「ふふふー、どう?癖になるでしょ☆」


くっ・・・何か微妙にむかつくが確かに・・・これは癖になるかもしれない・・・。


しかも、頭の後ろから聞こえる妹キャラボイス・・・何だこれは異次元の世界だ。


「ほら、そのまま触りたいところも沢山触っていいんだよ」


力士なのに力士なのに・・・後ろからは背の低そうで可愛らしい妹しか想像出来ない。

さ、触っても良いんだろうか・・・。


ムニュ。


「あんっ、もういきなりえっちだよぉー」


ダメだ。力士のはずなのに何かこの全身を包まれる柔らかさと触った感触。

そして、後ろから聞こえる妹系サラウンドボイスで熱くなってくる自分がいる。


しかも・・・揉んだ瞬間に気が付いた。


このメイド服・・・ただのメイド服じゃ無い。

かなり良い生地だ。


「このメイド服本物みたいだね~」


「本物?ああ~、オーダーメイドだから結構良い値段したんだよー☆」


ああ、そうか考え見たらこの力士だと市販品はまず無理だよなぁ・・・。

オーダーメイドと言えばオシャレに聞こえるが、要は特注9Lサイズくらいなんじゃなかろうか。

そう考えると微妙に切なかったりする。


だからこその素晴らしい生地感・・・本物感出ているのか。


そのせいか、生地&肉感による素晴らしさを堪能出来るのか・・・しかし力士だ。

だがデブ専では無いが、これは微妙に癖になってしまう。


「それにしても、お兄さんー、今日はどうしてこの店に来たのカナの噂でも聞いてきたの?」


どんな噂だ!

しかも、力士目的で来るようなディープなマニアでは断じてない。


「ああ、いや実はね。入るか迷っている時にJKぽい子が入っていったから・・・それに釣られてね」


「はぁ?JK?」


「ああ、若い子だったし普通に制服着てたけど居るんじゃないの?」


「あ、ああー、それお店の子じゃないよ。だってもし居たらオーナー捕まっちゃうよ」


なんだと!?


「多分、オーナーの娘さんだと思うよー。確かにあの子JKだよー。上の階に住んでるし~、私には敵わないけど可愛いよね☆」


ちくしょう騙されたっ!!

リアルJKの勤めている危ないお店だと思ったのに違う意味であぶない店だったよ!!


はあ・・・ここは仕方ない。

本来の情報収集に努めるか。


「なんか最近、この辺で変わったこと無い?事件的な事とかさ」


「いきなりどうしたの? でも、事件ねー場所柄トラブル何かはしょっちゅうだけど」


そう言って語りだす力士だが、あまり参考になる話は無かった。

そうこうしていると、女の子の交代の時間になった。


「ねぇ、延長して~☆」


誰がするか!!!


「ああ、ごめ・・・」


その瞬間後ろから手が伸びで股間をキュウっと握られた。


「延長してくれるよね」


声がやや低い・・・恐い。

潰されそうだ・・・。


「は、はい」


そうして、ほぼ脅される形で延長に入り妙な感触を楽しんだが複雑な気分になった。


そう、一言で言えば『負けた』そんな気分だった。


帰りの際。


「如何でしたか?当店No.1のカナさんは」


えっ、あれNo.1なの??


「いやぁ・・・何ていうか凄かったですね」


「そうでしょう!リピーターも多いんですよ!今日はたまたま入れてお客様は本当に運が良い!」


リピーター多いんかいあれで。

いや確かにあの感触は他では味わえない体験だけども。

う~ん、まあ世の中色んな趣味趣向の人が居るんだなぁ・・・。


そうして、店を出て歩いていると、ふと見たことあるような後姿が。


あれは・・・坂田くんじゃないか。

しかも、一人でこんな場所で何をしてるんだ?


声を掛けようと思ったが余りの人の多さであっという間に消えてしまった。

まあ、今日は用事があるって言ってたし、まあいいか。


そんな感じでおっさんはこの後は気分転換に居酒屋に入り飲み食いして帰るのであった。



******


某所にて


「頼んでいた物届きましたよ」


「おおー、助かるわー。とりあえず、そこ置いておいて」


「ところで一尉。明日の会議の資料は大丈夫なんですか?」


「ああ、まあ何とか仕上げたよ。ふぅー、ここんところ事務処理ばかりで肩が凝るわ」


「一尉は事務処理苦手そうですもんね」


「まあな」


「一尉! 後藤一尉!! 作戦群長がお呼びです」


「あー、はいはい。了解。」


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