第46話 後処理


「すまないな。わざわざ来て貰って」


平日の仕事終わりにいつもの駅前の喫茶店での事だった。

正面にはゴールドさん。

あの能力者との戦いの翌日にゴールドさんより電話が有り、更に翌々日にいつも利用している喫茶店に行く事になった。


「いえ、大丈夫です。ゴールドさんこそあの後は大丈夫だったんですか」


「・・・まあ、色々と大変だったな」


「あの・・・同僚の方は」


「死んでいた。まあ、一人は既にやつらのSかな・・・に色々とされた後だったらしい。太田もダメだった・・・」


「そうでしたか・・・何ていうか私ももっと動けていれば」


「いや、山本くんが気にする事は無いよ。あれは俺のミスでもある・・・そう、一番最初の時にミスしてあいつが捕まったときに。

むしろ、今回協力してくれた山本くんに結果的にとは言え被害が無くて良かった。

能力者とは言え、俺は一般市民を巻き込むような事をしてしまったんだ許してくれ」


「いえ、ゴールドさん!そんな!私だって了承して着いて行ったんです。許してくれだなんて・・・」


「いや、今回は俺も簡単に考えすぎていた。結果一人は倒したとは言え、もう一人はみすみす逃がしてしまった。しかも、山本くんの顔だって覚えられている。

これは危険だ」


ああ、確かに危険な犯罪者に顔覚えられてしまったんだな。

考えてみれば不味かったかもしれない。

夜道には気をつけないと。


「いえ、でも大丈夫ですよ。私だって能力者ですから」


「まあ、そうかもしれないが・・・」


「なので、今後も何かあれば言って下さい。私も協力しますから」


「山本くん・・・すまない」


楓さんが言っていた。

ゴールドさんは冷静には見えるけど正義感があって熱い人だと・・・それが何か分った気がした。


「ところで、私が倒してしまったSは能力回収はどうなったんですか?」


「ああ、あれか。死体でもカードを当てると回収が完了するから大丈夫だ。だがな・・・今回はMを取り逃がしたから依頼は失敗扱いだ」


「そうなるとどうなるんですか?」


「今回は一応半分は成功していると見なされたようだが・・・俺は1週間能力が使えない」


「ええっ!?依頼失敗すると能力使えなくなるんですか??」


驚いた。

向こうから強引に依頼送って来ているのに能力停止されられるのか・・・。

まあ、勝手に貰った能力だから勝手に止めるのも与えた側の都合ではあるのか。


「そうだ。完全に失敗すると1ヶ月は使えなくなる」


「それは地味に長いですね」


「ああ、結構不便だ。特に俺の場合は鑑定が使えないと仕事にかなり支障を来たしてしまう」


「捜査とか便利そうですもんね」


「ああ、半分反則な気もするが犯罪者には容赦しないよ」


とニヤリと笑う。

やっぱ刑事なんだな。


「ああ、それとMのその後に関してなんだが」


「はい」


「完全に姿をくらました」


「そうなんですか?」


「あの手の拉致するタイプの人間は直ぐに次を行うはずなんだが、今回はそういった情報が直ぐに出てこない・・・しばらく身を潜めるつもりなのかもしれない」


「何かえらく冷静なタイプでしたよね」


「ああ、ああいうのが一番やっかいだ。とりあえず、山本くんも何かあれば連絡をして欲しい。可能な限り協力しよう」


「ええ、お願いします」


「じゃあ、今回は本当に色々とありがとう」


「いいえ」


そうして、喫茶店を後にした。


今回は本当に色々あった。

初めて人を殺してしまった。

そして、人を助けられなかった。


未だに自分の中で、これは現実なのか?という思いがうっすらとある。


人を殺した事も、助けられなかった事も何かゲーム感覚で軽く思ってしまうところが自分の中に少なからずある。


銃で肩がえぐられた時も痛みも恐怖もあったが、その後の治療と回復で既にその痛みも忘れかけている。


自分の元来の性格か、この能力のせいなのか分らないが・・・未だに私はこの能力者との戦いに実感が沸いてないのかもしれない。


それとも・・・この感覚が他の能力者と同じく暴走しそうになっている前兆なのだろうか。


・・・分らない。


考えても分らないから、今は自分の行動と直感を信じてみる事にする。


そう自問自答しているとスマホが鳴った。


・・・後藤さんからだ。


「もしもし山本です」


「よういっちゃんー!元気していたかい?」


うん、電話越しでも分る元気よさとガチムチおっさんな雰囲気。


「んー、元気ですけど、ゴールドさんの依頼を週末は手伝っていましたよ」


「うわぁ・・・大丈夫だったか?」


「いや、大変でしたね」


「まあ、あの人の依頼は難易度高いし、あと臭いしなぁ・・・」


やはり、臭いと思うか・・・。

今度はマスク必須だな。


「あー、それは同意です」


「っと、それはいいとして、続けざまになっちゃうのかな・・・ちょっと依頼の協力してくれない?」


「えっ?依頼ですか・・・」


「うん、まあ今度の日曜は大変だろうから、再来週でいいよ期限も長いし」


「再来週ですか・・・」


スケジュール帳を出して確認する。

ああ、とりあえずフリーだわ。


「大丈夫ですね」


「おっしゃ!じゃあ、まずは作戦会議だなっ!再来週の土曜日にいつもの喫茶店で、日曜日に狩りで」


「了解です」


「じゃあ、また!何かあったら連絡してくれ!」


「はいー」


何かこれから頻繁に週末は能力者狩りになるんじゃなかろうか・・・。

しかし、頼られるとどうも断れないこの性格。


まあ、後藤さんの依頼なら多少は大丈夫だろうかと思ってしまう自分が居る。


だが、ゴールドさんの依頼は本当にヤバイのが多いようだ。

後藤さんも難易度が高いとか言っているし。

先に知りたかった。

いや、それでも断れる雰囲気じゃなかったもんなぁ・・・。


それに、報酬として結果的に新しい武器は買えたしな。

これは正直良かった。

使い勝手もかなり良かったし。


とりあえず、今度の後藤さんの依頼もいつもの装備で大丈夫か。

あとは打ち合わせ次第かな?


そう思い気持ちを切替えて再来週を待った。

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