第11話 私と追憶されたもの

 夏にも慣れたものだった。最初は冬の記憶が先行して違和感しかなかった服も、記憶を辿れば辿るほど自然なものになる。蝉の鳴き声も当然のことで、夢の中でもせっかちな奴が鳴き始めた頃にまでなった。今年は特に早かったらしく、6月下旬にはヒグラシが鳴き出した。

 私と葵くんが本当に彼氏彼女の関係になったのは、私の誕生日のことだった。6月10日の土曜日、それはもう情けないほどの醜態を晒し、泣きながら好きと言ったのだが、思い返すのも恥ずかしい。

 その日本当に私たちは付き合い始め、恋をした。なお、私の体は清い。そういった話は気恥ずかしいので詳しいことは考えないでおく。

 兎にも角にも、私は夏を迎えるほどに記憶を思い出した。記憶に釣られ感情にも変化が起き、最近では就職活動もしている。三年生の夏は過ぎるのが早いと、長兄が以前忠告していたのをよく実感した。

 記憶を思い出すことになんの戸惑いもなく、寧ろ早く全て思い出したいと思って何日過ぎたことだろう。夜を迎えることに抵抗を感じなくなり数日、見る記憶は7月16日に近付いて行く。クリスマス当日から記憶が飛んできたあの日。16日に何かが起きたのだと、私の本能は気付いていた。

 一体何があったのか。好奇心と恐怖心を膨らませ、毎日眠りに就く。経過としては8月13日の夜に思い出すことになるだろう。その時を待ちながら、私は漸く8月11日の夜を迎え、記憶を巡った。


 6月26日から7月2日までの記憶をメリーゴーランドに乗ったあの景色を眺めるように辿っていく。日に日に大きくなる思いは照れくさく甘ったるいもので、しかし大切で仕方ない。

 気恥ずかしくとも既に過ごしたものなのだ、と自分に言い聞かせても感情が記憶に引き摺られ、朝目覚めては頭を抱える日が多い。此処まで自分は女子だっただろうかと思うほど、以前の自分は枯れていた。

 緩やかに流れる記憶が一週間目を終えようとしている。もう目覚める時間なのかと名残惜しさを感じた自分が更に羞恥心を煽る。自分に言い訳をするというわけのわからないことを終えて、いつも通りテレビの電源が落とされるように目覚めるかと身構える。

 ところが、記憶の終わりだろう所が訪れても、意識は途切れてはくれない。何事かと今までになかった異変に置いてけぼりにされていると、耳元で声がした。

「……なんで、どう、して……!」

 その聴き慣れた声に気付く前に、意識は覚醒を迎えた。

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