第12話

北上ちゃんが帰って来たのは10月の終わり、中間テストが始まる直前のことだった。「おはよっ」の一言でわたしは少し困惑して、「おはよう」と言った。

1限目の授業を受けながら、わたしは北上ちゃんの方をみる。席替えした新しい席に座り、少し難しくなった数学の授業を真剣な顔で聞く北上ちゃんは、全然変わってない、いや、眼鏡がなくなってる。コンタクトにしたのかな。

何を喋ろう。

映画の話、本の話とかもいいかも。北上ちゃんに教えてもらった本、面白かったよ。あとスタローンの「クリフハンガー」をレンタルしてみたけど、おじいちゃんが撃たれるシーンが辛かったんだ。

北上ちゃんはどうしていたの?夏休みはどうだった?

夏休みってさ、7月が終わったらあっという間に過ぎていくよね。


昼休みに、北上ちゃんがわたしの席に来た。

淀川くんと少し話をしていて、彼がトイレに行ったあとのことだ。

「淀川と、仲いいんだ」

「うん、まあ」

ふーんと言って北上ちゃんは隣の机にぴょんと座る。

「部活は?」

「初戦敗退したよ」

「そりゃ残念」

わたしは腕でつくった枕に顎をのせる。

「あのさ」

「うん?」

「……なんでもない」

「えーそういうのやだよ」

「忘れちゃったんだ、ほんと」

北上ちゃんがおもむろに何か紙を取り出した。丁寧に折りたたまれたその紙を、乱雑に開いていく。

「ほい!」

「なにこれ」

「高校の文化祭だよ」

開かれた紙はポスターらしく、よくわからないタコのキャラクターがこっちに向かって手を振っている。

「一緒に行こうよ」

「まだ中二だよ」

「もう、中二なんだよ」

北上ちゃんは机からおりて、わたしの前にくる。

「……ってお母さんが言ってた」

わたしはポスターをぴらぴらと揺らす。

「ていうかむしろ今行かないと、中三、時間ないし」

「そんなものかな」

「そんなものだよ」

北上ちゃんと二人、電車に揺られて高校へ。

今はまだ、胸にもやもやがあるけど文化祭は11月始め。

まだまだ先、だと思う。



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