第7話
図書館までの道を歩く。遠くには小さな山々。住宅街の道を通りすぎる。
わたし達の町を包み込む山地に中学生にもなってくると、閉塞感を感じてきた。
せめて、雄大な2000メートル級だったらいいのに。
そういえば、小学生のとき、阿蘇にいったことがある。
家族をのせた車が外輪山を走っていた時、窓の外に見えたカルデラは、まるで日本じゃないみたいだった。毎日の日常が、あんな雄大な風景ばかりだったら、わたしの日常も、もう少し華やかになるのかな。それとも、日常は日常のままなのかな。
目前の一軒家で、花に水をやる男の子がいた。じょうろがしゃあしゃあと音を立てている。わたしは顔を下にして、通り過ぎようとする。同じクラスの子だから、隣の席の子だから、目が合っても、どう反応したらいいのかわからないから。
「雨森さん、北上さんのところに行くの」
どうやら、彼はわたしと同じ思考を持っていないみたいだった。
「違います……図書館に行くだけです。住所も……知らないし」
彼は右手で左をさす。
「僕の家の隣が、北上さんの家だよ」
マジですか。
あの青い家が、北上ちゃんの家。
思ったより、いや、北上ちゃんの家を想像したことはなかったけど、普通の家だった。もし神様がいるのなら、今すぐ彼女の家に入って彼女を救い出すなんてことを望んでいるだろうけど、わたしはそんなこと、しないし、できない。
「そうですか、ありがとうございます」
わたしは図書館への道を歩き出す。ふと、男の子の方をみると、また何か言いたげに口を開けている。何か言いたかったら言えばいいのに。わたしは口を開けようともしないけれど。北上ちゃんの家の前を早歩きで走り去ろうとする。
「バンプとか好きなんですか」
後ろから声を掛けられてゆっくりと振り返る。
「バンプ以外の好きなバンドはなんですか、僕はクイーンが好きです」
英語の教科書の日本語訳を聞いてるみたいだ。わたしはぽかんとして、その場に立ち尽くした。
「ええと」
彼はそこになにかあるかのように空を見上げる。わたしもつられて空を見上げる。
夏の青空は青いけど、少し黄色が入っているような気がする。
「ちょっと待ってて」
彼は泥のついたじょうろを丁寧において、家の中に入っていく。
こんな暑い中、外で待たなきゃならないとか、流石に、嫌。
目前に彼の家の車庫があり、車もなかったので、そこで涼むことにする。
なかなか、彼は帰ってこない。腹がたつ。彼に怒りをぶちまけるわたしを想像して、楽しんでみる。
「すいません、時間がかかってしまって」
車庫の外に現れた彼は、肩で息をしていたので、びっくりした。
100メートルを全力で走ったみたいな。
「大丈夫?」
「大丈夫……」
彼は車庫には入らずに、持って来たものを差し出す。
「CD?」
「はい」
マジですか。
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