第3話
「ごめん、映画もうみれないかも」
昼休みに北上ちゃんが、胸の前で手を合わせて謝って来た。
すこし、どきっとした後、体が少し震えた。もしかして、迷惑だったのかな。調子に乗って自分の趣味を押し付けすぎたのかな。
「親に、深夜に見ていたところをみつかっちゃって」
これは、わたしを傷つけないための嘘なのか、本心かは、よくわからないけど、どちらにしても、反省。
「ちょっとぐらい、映画ぐらいみせてくれたっていいのにね。もうわたしの中学時代は暗黒だよ~」
彼女は笑ってそう言う。
「今日の6時間目、音楽だっけ」
「う、うん。そうだよ。明日本番だから、最終確認」
「栞は、音楽好き?」
「バンドの曲しか聞かないかな、バンプとか結構好き。合唱曲も、いいのあるけど今回の曲は嫌い」
「わかる、なんか説教臭いよね」
チャイムが鳴ったので、みんな自分の席に移動する。
ああ、夢にみていた友達との映画の貸し借りが、こんなにはやく終わってしまうなんて。わたしの席から離れていく北上ちゃんを見送っていると、隣の男子と目があった。何か言いたげに口を開けていたけど、先生がくると、口を閉じて前を向いた。
今日は体育館で最後の練習。また、男子はほとんど声を出していない。アルトはソプラノにつられにつられてる。音楽の先生からしたら最悪だろうな、と目立たないくらいの声量で歌いながら、思う。
案の定だけれど、リーダー格の女の子はぷりぷり怒っていた。ホームルームでわざわざ手を挙げて男子を叱り始めたくらいだ。
「明日本番だろっ、声出せよ!」
もしかして彼女は本当にこの合唱を満足いくものにしたかったのだろうかと、ふと思った。「クラスの結束」みたいなもの、恒例行事、そんなものとしか思われていないこの行事で、ホールに集まった暇な老人と保護者に綺麗な歌声を響かせてやろうと思っていたのかな。
でも、ドラマみたいにいかないのが人生だ、なんて、知ったふうなことを思ってみる。
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