ACT.4 発進チェルノボーグ
管制塔司令室――、正直ジョニーは焦っていた。いや当然だろう、作戦や奇襲でどうにかする事ができないレベルの敵が14機出現…。チェルノボーグでここを防衛し切れるか?いや、防衛ラインを突破されれば1機のレーザーでここは容易く壊滅する。考えろ…考えるんだジョニー…!何かあるはずだ。最善の手が!
「すみぇーろすち…。」
「……ライカ?」
管制塔前方で待機させてあるチェルノボーグからの通信だ。だが…何が勇気だというのだ?!
双眼鏡を構えるジョニーの横にいたタゲナホンズがザッと立ち上がり宣言する。
「デモクラッドは全機後退、ウラル基地の防衛にあたれ!ファナティスは前線支援……そして、チェルノボーグは敵新型天使カマエル14機を撃破せよ!」
「だー!」
『Да!』ライカがロシア語のYESで返した直後、80mの巨大超兵器は機動を開始する。遠くからは管制塔に接近するデモクラッドの影、隣にいるエロ本で卒倒した男にあの時の情けない面影など微塵も無かった。
「ジョニー…、ライカを頼んでいいか?」
「…タゲナホンズ、あんたは一体何者だ?」
チェルノボーグが熱核ブースターを使って加速するまでそう猶予はない。だが聞いておかねばなるまい、この男の正体を。
「『コートレィラー』…忘れるな、お前が辿り着く真実への鍵だ。」
「コートレィラー?なんだそ…。」
ジョニーが聞き返し切る前にタゲナホンズは懐から25mm大型対物ライフル『ファイアーアームズ』を取り出し管制塔の防弾窓を粉砕する。
「さぁ行け、もう時間は無い!ドイツ・ネクロスへ向かえ!コートレィラー、ジーンテイル…ッ、全てはそこで一つに繋がる!」
「ネクロスに何があるってんだよ!」
タゲナホンズの言葉を背に管制塔から飛び出す…。そこは地上から約120m!
普通なら死、あるのみだが6階下から飛び出した愛機、まもるくんを踏み台に2段ジャンプ!チェルノボーグの背面キャノンを三角飛びで降りながら頭部に華麗に着地した!
「ライカ!後ろいいか、いいよなァ!」
「え…、ジョニー?い、今ハッチ開けるから!」
チェルノボーグ首後ろのハッチを開けた瞬間、後部の射撃管制シートに大男が参上する。チェルノボーグは機体操作、出力チェック、射撃管制の3人が必要であったが、ライカは賢いので一人で十分だった。
というか、純粋にライカの能力に並ぶ兵士がいなかったということもある。だが今は違う。ジョニーがいる!
「……射撃管制は大体デモクラッドと似てるな。こっちは俺に任せろ。」
「大丈夫…かな。」
機体の揺れが収まると共に全身に強烈なGがかかる。脚部の熱核ブースターは7200トンの巨神を時速300キロまで加速させる。ただひたすらに大きい人型兵器が高速で動く、それだけでも凄まじい光景である。
「お気をつけて!」
撤退するデモクラッドのサムズアップに背面キャノンを左右に振って応える。
迫る追撃の天使38機を見てチェルノボーグの速力が減少、ライカは足を止めここを防衛する気だろうがそうはいかない!
「撃ち漏らしは連中に任せろ!」
胸部152mm4連装ガンランチャーを速射!破壊力はあるが弾速が遅いこの兵器、フリンゲル相手なら狙ってもまず当たらないだろうが、それでも構わない。地面を吹き飛ばして足止めするには十分だからだ!
案の定倒れた天使共の上をチェルノボーグは熱核ジェットで通り抜ける。7200トンを支えるジェット気流に踏み潰されて無事なわけも無し!残骸は粉雪の如く散華!
「すみぇーろ…ん。いいや。」
「どうした?勇気の出るおまじないなんだろ。」
「うん、でもいいの。今はジョニーがいるからいらない。」
既にチェルノボーグの目は敵大型天使カマエルを捉えていた。胴体と一体化した角のような頭部と異様に長い腕と脚、そして大型レーザーカノンを備えた背部ウイングユニット。ヤツのサイズはざっと35mくらいか?
考えている間に数本のレーザーが襲う!たとえ核シェルターを殴り壊せるチェルノボーグといえど無傷では済まない。
…だが、
「止まるなライカ!こいつの装甲は伊達じゃないんだろ!」
「だー!」
スラローム爆走しながら両腕の35mm二連装ガトリングで制圧射撃をかける!有効打ならこいつで押し切ってやりたいところだがそうもいくまい。
…いや待て、超音速の弾丸がカマエルの至近距離で蒸発している?!周囲の薄い閃光…レーザーバリアか!
「…となればッ!」
バリアを張った瞬間、動きと攻撃が止まったのをジョニーは見逃さなかった。ライカもそれはわかったようで、周囲に弾幕を張りつつ1機に向かい突進をかける。
ミィィィィイイイイイン!
振り抜いた閃光が左腕ガトリングを溶解する。複数本のレーザーをバリア展開中の機体に照射し、反射させた集束レーザーで防爆シェルター並の装甲を貫いたのだ!
ライカがとっさに防御していなければ頭部をやられていたかもしれない。
公開通信が入ったのはその時である。
「ハハハ…いい格好じゃない、チェルノボーグ。貴様は…貴様だけは……、ゆっくり捌いてディナーに添えてあげましょうね!」
その主はカマエルの女パイロット。ゲルマン貴族らしくツバのあるフリッツタイプのヘルメットを被り、軍服すらも着こなしている。
通信コード名は…『エーデリカ・フリッツメット』!欧州Heaven's三銃士の一人だ!
「連携が取れたいいチームだなエーデリカさんよ!だがそいつらも人間である以上…」
「チーム…ハハ、カマエルは…私の手足だッ!」
14本の集束レーザーが背面キャノンを焼き切る!
(チームじゃない、カマエルは手足…。)
いや、考えたくはないがまさか…。ジョニーの頭にあの名前がよぎる。
「ドルイドシステムか…ッ!」
「ご名答!よく知っていたなウラルの民よ!これは…褒美だ!」
集束レーザーがチェルノボーグの肩を焼く!
脳波で複数の機械を統率できるドルイドシステム…。精々誘導ミサイルや基地の防衛システムに使われる予定だった筈だが天使まで動かせるのか?!
「ライカ、リーダー機を狙うぞ。最悪アレと相打ちになれば…俺達の勝ちだ!」
「うん!」
カマエルは既にトドメのチャージを完了していた。一か八か…突っ込むしか無い!もしここで死んだらライカには悪い事をしたな、なんて反省がよぎった。
……利用しておいて反省か、俺も甘くなったな。
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