#9

「頑張るとは言ったけれど…」


一体何を撮ったらいいのか思いつかない。

由比に「今日は部活休んで、探しまくってきな!撮りたいものを!」とすごく熱を込めて言われた。


私が撮りたいもの…



ピリリリリ



「夏美?」

「千晶、写真撮れた?」


「まだよ。見つからないの…撮りたいものが」


「そっか。……あのね、千晶。

私は写真の経験ないし、ど素人だけど」


「?」


「ずっと自分の心に残しておきたいもの。とかどうかな…」


「え…」


「ちょっと恥ずかしい!けど言うね!

…思い出なんでしょう。テーマが。」


「ええ…」



「そうしたら、自分の胸の中でずっと生き続けてほしいような、そんなあったかいけど透き通ってるイメージのもの…とか…どうかな」


「あったかいけど透き通ってる…?」


「ご、ごめん。うまく言えないけど、よく考えないで純粋に出した答えが一番いいんじゃないかなって。あはは…」


「夏美…ありがとう。純粋に出した答え…」





電車の音が聞こえた_



「夏美!本当にありがとう!思いついたわ!」


「えっ、ホント?!よかった、頑張ってね!」


「ええ、ありがとう!」




私が純粋に出した答え_




それでいいというのなら_










「カケル。あなたの事」




夏空に響く。




「私、知ってる」





夏風が、頬を撫でる。



「6年前から」




髪が、揺れる。





「ずっと、覚えてたはずなのに思い出せなかった」




どこかの家で風鈴が鳴る。



「カケル、あなたは」




木々がさわさわとざわめく。












「私が、初めて好きになった男の子」












電車の音が、聞こえる__





『待ちくたびれたよ』






……………………………………





「なーなー、お前それなんてよむの?」


「なまえ?」


「そう、お前のなまえ。」


「ちあき、だよ」


「ちあきっていうのか。へぇ、そっか!」


「うん」


「すごいきれいななまえだな!」


「えっ…」


「髪もきれいだし」


「そうかな…」


「おれと、仲良くしてくれ。ちあき!」


「うん…!」



小学校5年生の春。

隣に越してきたのは、坂井 翔琉<サカイカケル>。


私は当時引っ込み思案で、大人しい子供だった。







「かけるのかんじ、ショウってよめるよね」


「そうだな。よくショウルとか言われるよ」


「ふふっ。わたし、しょうって仲良しの男の子がいるんだよ」


「ふーん」


「しょう2人目だね」


「おれは、ちあき1人目だけどなー。なんか不公平だ!」


「1人目…」




何気ない会話に、胸を弾ませていた。



そして、夏_。




「カケル、あのね」


「ん?」


「あのね…」


「なんだよ、じれったいなー」


その日は急に、カケルに気持ちを伝えたくなった。


でも……




「やっぱり、いい」


「なんだよー、ちあきってそういうの多くないか?」


「そんな事…ないよ」


「あるってー!いつもそうだし。おれって遊ばれてる?」


「違う!」


「まぁ、いいけどなー!ちあきと遊ぶの楽しいし」


「ほんと…?」


「おう!もうすぐ夏休みだし、海でも行くか?」


「夏休み!うん!しょうもさそう?」


「しょうはいいよ。2人でいこうか!」


「……わかった。たのしみにしてるね!」



でも、そんな夏休みはこなかった。

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